6-34.レールガンを使おう
『樋口さん! わたしたち、どこに行けばいいですか!? 三体いるんですよね!? バラバラに動くのでしょうか!?』
「今考えてるところなの」
トラックのフィアイーターとカラスのフィアイーターは合流するコースを進んでいる。もう一体、金属容器のフィアイーターは、ホテル周辺に留まって暴れていた。
敵が二手に別れている。だから魔法少女も分散させないと。
カラスの方にハンターをぶつけないといけない。それは間違いないのだけど。
「問題は、トラックとカラスよ。あのカラス、トラックを掴んで飛べるくらいのパワーはある」
むしろ、キエラという女はそれを見越して、最初からカラスをあの大きさに作っていた。
結果はドローンの方だったけど、上空からレールガンを好き放題撃ってくるフィアイーターが生まれる可能性もあった。
どっちが驚異度が上かは知らない。
「今からあなたたちが急いで向かっても、合流を阻止するには間に合わない。そしてトラックが飛べば、ハンターの矢で撃ち落とすのも無理よ」
ドローンに守られるから。そして、奴らは都市圏のビル群を遮蔽物として使いながらハンターの視界を遮るようにトラックを落とし、暴れさせる。自分は空の上から羽根を飛ばして攻撃するかも。そして魔法少女が駆けつける前に再度トラックを回収して上昇。
魔法少女はそれを追いかけ回して疲弊していくだけ。どれだけの被害が出るだろうか。
「なんとかして、ドローンを突破してカラスを撃ち落とさないといけないのよ」
『どうするんですか?』
「期待通りに行けばいいのだけど……」
半ば祈るように地下駐車場に踏み入れる。
「ひどい……」
倒れたパーテーションと、死体が大量に転がっている一角。流れた血が靴を汚した。まだ腐臭がする頃ではないけれど、血の臭いはひどかった。
もう一方のトラックはぺちゃんこに潰されている。覗いてみれば。
「あった。レールガンは無事みたいね」
『あの。樋口さんまさか』
「ええ。レールガンでドローンを突破してカラスを撃ち落とすの。つむぎ、できる?」
『やったことないですけど、できると思います!』
『その根拠のない自信はどこから来るんだ』
『わたし、狙ったモフモフは逃さないので!』
「じゃあ、お願いするわね。一応、この銃はこれ単体でも撃てる。けど、その前にロックを解除しないといけない。コードを入力してね。でも、それを知ってそうな兵士は全滅してるわ。クローヴスなら分かるかもしれないけど」
『わかった。俺が聞き出す』
悠馬の、ちょっと緊張気味な声。
実際にできるかどうか、自信はないのかも。でも信じてあげよう。
「あと、トラック自体の発電機は完全に壊れている。トラック自体も動かないから、代わりの電源が必要。できれば、カラスを追いかけ回して動けるやつ」
『つまり、電源車ですか?』
「ええ。誰か心当たりある?」
『五十年前の古いやつなら……』
こちらも自信のなさそうな、澁谷の声。
そういえば、そんな話しをしてたな。
『この前、わたしが登ったやつですね! モフ鳥さんを持って!』
『ええ。それです。今でも一応動かせるはずです! 燃料を入れて、大型車の運転ができる社員もすぐに探します! どこへ行けばいいか連絡ください!』
「ええお願い! 魔法少女たちはとりあえず、ホテルの方に向かってくれるかしら! それもすぐに!」
――――
「すぐに!? すぐにですか!?」
『ええ! 急いで! 怪物が三体同時に出てる非常事態なの! 一体だけでも早く倒さないと』
「そうですね! あの容器のフィアイーターはホテルの所にあるんですもんね! 行きます!」
慌てている愛奈と、ノリノリの遥。急を要するのは間違いない。
「さあお姉さん! とりあえず変身ですよ!」
「ああもう! やってやるわよ! つむぎちゃんも、やるわよ!」
「はい! いつでも行けます!」
「ライトアップ! シャイニーセイバー!」
「ダッシュ! シャイニーライナー!」
「デストロイ! シャイニーハンター!」
ラフィオの前で、三人の女が魔法少女に変身する。
世界を脅かす怪物に対抗する、唯一の手段だ。
「闇を切り裂く鋭き刃! 魔法少女シャイニーセイバー!」
「闇を蹴散らす疾き弾丸! 魔法少女シャイニーライナー!」
「闇を射抜く精緻なる狩人! 魔法少女シャイニーハンター!」
これが、人類を守る希望の光。
「ホテルの方向まで行けばいいんだな。樋口と合流してからは、あいつの指示に従おう。乗れ」
「よし! 今日はラフィオに乗って移動できる!」
巨大化したラフィオに、真っ先に飛び乗ったハンターの後で、セイバーも乗っかった。ライナーは既に自分の足で街の方まで向かっていた。
ラフィオもすぐにそれを追いかけた。
――――
『麻美。相談なんだけど、最新鋭のレールガンを古い電源車に接続できる?』
「あの。わたし金属加工が専門で、電気設備に関しては素人というか」
『わたしたちの中で一番詳しいでしょ?』
「それは否めませんが!」
『わたし、レールガンがどういうものかくらいしか知識がないのよ』
「わたしも同じようなものですけど!?」
怪物が出てきて、自分も何かできることがあるかもと車を出す準備くらいはしていたけれど、技術的な助言を求められるとは思わなかった。それも畑違いの。
『わたしはこれから、トラックからレールガンを切り離して持っていかないといけないのよ。けど、こっちは素人。あなたの助けがいるの。理系のあなたのね』
「理系がなんでもできると思わないでください! ちなみに、樋口さんはやっぱり文系の学部卒業ですか?」
『文学部よ。ナチス政権下で制作されていた映画作品の研究をしていたわ』
「予想外! 警察ってみんな法学部卒業だと思ってました!」
『キャリアを極めるなら、東大法学部が一番有利だけどね。それより、いけそう?』
「いけると思います。まず、トラックの発電機の電源を完全に落としてください」
世間話をしている間にも、樋口がスマホのカメラを向けて見せてくれた、駐車場の地面に転がっているレールガンの周りの状態を確認した。
そこから伸びるコードやトラックとの固定の方法を見るに、持ち出すこと自体は間違いない。




