6-27.パーティーに潜入
「あんまり飲みすぎるなよ」
「ありがと」
樋口のコップにビールを注げば、彼女は優しい笑みを見せた。
「あー! 樋口さんなに悠馬を独り占めしてるんですか!? 駄目ですよ公務員が未成年に手を出しちゃ!」
「出してないわよ! てかわたしが駄目なら、愛奈あなたも駄目でしょ!?」
「わたしは姉だからいいんですー!」
「わたしも同級生だからいいんです! 悠馬! わたしにも!」
「高校生が酒を飲もうとするな」
「遥ちゃんは駄目よ高校生同士のお付き合いは節度を持たないと!」
「持ってるからセーフです! お姉さんみたいに、脱いで誘惑とかしないですし!」
「なっ!? わ、わたしだってそんな色仕掛け、たまにしかしないわよ!」
「割としょっちゅうやろうとしてるだろ。させてないだけで」
「なんか、他人から指摘されたら急に恥ずかしくなってきたわね……」
「あったのか。羞恥心」
「け、けど! 羞恥心なんか気にしてたら弟を誘惑とかできないから! やるわよ、わたし!」
「弟を誘惑することの無意味さに気づけ」
「ふふん。そんなこと言って。悠馬だってお姉ちゃんの裸、興味ないわけじゃないでしょ?」
「やめてくださいお姉さん。そんな貧相で平らな体なんか見ても悠馬は困るだけですから。……わたしも、ブラウスの第2ボタンくらいまでなら、開けちゃっていいかな」
「おいこら。馬鹿に対抗しようとするな」
「ねえ悠馬。ビールおかわり」
「樋口お前も馬鹿たちを止めろ」
まともなのは俺だけか。
ただ、みんなの気持ちはわかる。クローヴスのせいでストレス溜まってるんだろう。本当に、飲まなきゃやってられないって気持ちだ。
魔法少女が世界を守る。わかりやすい正義だ。そこに、わけのわからない存在が殴りこんで来て、しかも苛立たしい振る舞いをしてる。
嬉しくはない。俺もそうだ。
だから、なんとかして現状を変えたいと考えた。
「クローヴス氏のパーティーに、うちの会社が出るかって?」
そういうわけで翌日、俺は学校で剛に相談してみた。
別に隠すようなことでもないし、遥もラフィオも聞いている。
「そう。大手の会社だし、もしかしたら関わるかなって」
「んー。父さんの意向はわからないけど、たぶん出ないんじゃないかな。自動車部品メーカーだから、役に立てる分野があるとは考えにくい」
「そうか」
「なにか、考えがあるのかい?」
女と間違えそうになるほどの美しい顔で、剛は優しく尋ねた。
「いや、笑わないで聞いてほしいんだけどな。俺も、なんとかしてパーティーに入り込めないかと思って。近そうなところから繋がりを当たってみようかなと」
「クローヴスと接触するため、かい?」
「そうだ」
剛は優しい。笑わなかった。
「あいつ、胡散臭いし、怪物と魔法少女の戦いに商売のチャンスを見出してる。正直、好きになれない」
「うん。僕たちみんなそうだよ。僕は無力かもしれないけど、なんとかしたい気持ちは同じだ」
「だから接近したい。近くで見て、奴の腹を探りたい。実際、会話はできなくても知れることはあるかもしれない」
今までクローヴスの姿は、画面越しにしか見たことがない。
頼りがいのある、がっしりとした体を高級スーツに包んで、堂々と市民を守ると宣言する強い外人。街頭演説もしたようだけど、それも演出された姿だ。
パーティーに出ても同じだとは思う。でも、直に姿を見れば奴の素を見抜くこともできるかも。
できない可能性の方が高い。けど、何もしないわけにはいかなかった。
「わかるよ、悠馬の気持ち。パーティーに出たいなら、招待される以外に方法はあるよ」
「……どんな?」
「バイト、やる予定はあるかい? 会場のホテルには知り合いがいるんだ」
やっぱり、金持ちな所を見せてくれるあたり頼れる先輩だな。
そして翌日には。
「へえー。悠馬かっこいいじゃん」
当日限定でウェイターとして雇われることになった俺の制服姿を写真で見た遥が感嘆の声を上げた。
パーティー会場でバイトさせてくれとお願いしたところ、なんと受け入れられてしまった。岩渕家のご子息の言葉添えのおかげだ。権力って実在するんだな。簡単な面接だけで一発合格。制服まで着させてくれた。
権力者がバイトを願い出るって状況も俺にはよくわからないのだけど、なにか上流なりの考え方みたいなのはあるのだろう。社会勉強の一環とか、そういうのだ。
とにかくこれで、俺はクローヴスと接触できるかもしれない。
もちろん、ただのウェイターが主催者でと直接会話できるとは思えない。けど、他の来訪者とのやり取りから、知れることもあるだろう。
「当日は僕もウェイターやるから、ふたりで探ろう」
「先輩は本当に頼りになる」
「ははっ。お褒めに預かり光栄です」
剛の柔和な笑みは、俺よりバイトに相応しいと思わせてくれた。様になるんだよなあ。
「いいなー。あれでしょ? お盆にシャンパン載せて、ドレス姿のお客さんに配ったりするんでしょ? 映画でよく見るやつ」
遥がなんか羨ましがっていた。
「まあ、それが仕事の全部ではないけど」
「男の人は、こういうカッターシャツに黒いベストで。女の人はバニーさんの格好したりして」
「そういうパーティーではない」
男女ともに、似たような格好だ。女はスカートとスラックスを選べるくらいの差だけ。




