6-24.歓喜と歓喜と心配
フィアイーターが暴れない状態になったなら、確かに見る者に恐怖を与えることはできない。
けど人間は、日常生活の中でも恐怖をふと感じることはあるとラフィオは言っている。
奴らがコアをどこで管理するかは知らない。けど近くに、恐怖心を全く感じない人間ばかりを置くのは可能だろうか。
それにこの方法を続けると、キエラがフィアイーターを作るたびにコアがこの世界に残り続ける。それも際限なく。永遠に管理を続けるつもりだろうか。
フィアイーターの体が残り続けるのも問題だな。特に、このサイズの巨体のものは厄介だ。誰が管理するのか。トライデン社の特殊部隊は、回収が不可能と見て放置した。
一応、コアを取り出す際にワイヤーで縛って動きを鈍らせてはいたけど、それも不完全なまま撤収してしまっていた。
これ、誰が回収して管理するつもりなんだろうな。
「人間の力だけで怪物を撃退した。あの男は大々的に発表するだろうさ。けど、それは正しくない」
「ラフィオ。今日はもう帰ろ? 痛いでしょ? ちゃんと休まないと」
「……ああ。わかった」
「えへへ。今日はわたしがラフィオを運ぶ番だねー!」
「……頼む」
不本意ながらも、ラフィオはハンターに抱えられ続けていた。
俺もライナーに背負われて現場に戻った。
そういえば、姉ちゃんはどうしたんだろう。
「ごめんなさい! クソ課長に小言言われて、行けませんでしたー!」
家に帰ると、変身したセイバーが玄関前で頭を下げていた。
立ったままの礼だし、他人のせいにしてるあたりそこまで申し訳なさそうでもない。
その方が愛奈らしくていいんだけど。
「アラーム鳴ったのはわかってたんだけどねー。定時過ぎてたからさっさと帰ろうって麻美と一緒に出ようとしたら課長に呼び止められて。もうちょっと真面目に仕事しなさいとか、そんなことをクドクドと。言われなくてもわかるようなことを繰り返し言うなんて、きっとあの課長ボケが始まってるわね」
自分の仕事の態度を顧みる気は一切なさそうなのが、愛奈らしい。今は変身したままのセイバーなんだけど。
「解放された後にスマホ見たら、フィアイーターは無力化されたってニュースが入ってるし。出遅れたなーって思ったけど、悠馬たちが心配してるかなと思って急いで帰りました!」
変身したのはフィアイーターが動かなくなった後。退勤者で混み合う電車を避けるて帰るための、完全なる私欲によるものだ。
「まったく。別に心配してないから」
「ほんと? 戦わなかったこと、怒ってない?」
「怒ってない。夕飯にするぞ」
「やったー」
「その前に変身を解け!」
魔法少女の格好のまま家に上がろうとするセイバーを止めた。
もうちょっと深刻な事態なんだけど、呑気な姉を見たら気が楽になったのも事実だ。
――――
怪物の無力化に成功した。その報告を受けたクローヴスは、また歓喜の声をあげた。
早速マスコミ向けに連絡をすれば、各社が一斉に速報を流した。トライデン社の部隊が怪物を倒したと。
詳細はこれから行う記者会見で伝えることとしよう。
人類は、魔法少女なしでも怪物に対抗しうる。この世界は人の手で守れる。トライデン社が人々の安全を率先して守る。
クローヴスの成功は約束されたも同然だった。
ただひとつの不満は、絶対的な防御システムでなければいけないドローンによる陣地防衛を突破されたということ。
あの青い魔法少女め。ドローンの妨害を容易にすり抜けた。強引に押し通すのではない。防御の穴をかいくぐる道筋を的確に見極めて回避している。信じられない動きだ。
ビューテックスだったか。AIによる映像解析でドローンを制御して、異物を入れないようにするシステムの構築を依頼した会社は。開発責任者は夫婦だった気がする。名前も顔もろくに覚えてはいないが。
魔法少女の中でも一番幼そうなガキに、トライデンが大々的に売り出すシステムが負けたなど、公表できない。だから怪物の無力化を映した映像は、大幅に編集しなければ。
今からやる記者会見に資料映像として見せるつもりだったのに、それには間に合わない。
システムのアップデートを命じないと。あの魔法少女も追い出せるように。
コントラディクションシステムは完璧でなければならないのだから。
――――
「やった! 所詮は人間の力ね! これで勝った気でいるなんて間抜けもいいところよ!」
人間が結局コアを破壊できなかったのを見たキエラは、歓喜の声をあげた。
「でも、フィアイーターは動けなくなったよ?」
「いいのよ、ティアラ。あの容器からコアを取り出せば、コアはフィアイーターの体に戻ろうとするわ。そして復活する。フィアイーターは、ラフィオの作った魔法少女にしか殺せないのよ」
「そうなんだ。でも、コアは厳重に守られるんじゃないかな?」
「でしょうね。でも大丈夫よ。コアの位置はわたしが把握できる。取り戻すのも簡単。ふふっ。あのムカつく男の鼻、へし折ってやるわ」
――――
つむぎはラフィオを休ませてあげると言って、早々に俺の家から隣まで帰っていった。
ラフィオを休ませるなら俺の家なんだけど、つむぎが一緒に寝ると言い張っていた。お風呂にも入れてあげて綺麗にして、怪我してないかちゃんと見てあげて、お世話を全部したいと言う。
好きにさせてあげよう。ラフィオも助けてもらった手前、嫌な顔はしてなかった。
後で夕食を持っていかないとな。




