6-23.フィアイーターの無力化
「ラフィオ! ラフィオどこ!? もう! 邪魔だよ!」
不必要になった盾としてのドローンを手放して、ラフィオを探すハンター。
相変わらず彼女を陣地外に排除しようとドローンが体当たりを試みるけど、ハンターは華麗に身を躱し、時にはしゃがんでやり過ごしている。ドローンにハンターの動きを止めることはできないと、その場の全員に思い知らせるには十分な光景だった。
「ラフィオ! ラフィオ!」
「あんまり騒ぐな。無事だから」
「よかったー! 大丈夫!? 怪我はない!?」
小さな妖精のサイズのラフィオが、フィアイーターの下から這い出てきた。見たところ汚れはあるけど怪我はしてない。
銃撃を、巨大なカラスに隠れて防いだのか。
「ちょっと体を打った。痛いけど、骨が折れたとかではないはずだ」
「そっか。痛かったよね。今日は帰って休もうね」
「いや、フィアイーターのコアを砕かないと」
「発見した。収容の準備を」
ハンターたちの他に、兵士の何人かがフィアイーターに接近して、暴れる奴の体をナイフで傷つけ動けなくしながら何かを探していた。
背中側からカラスの胴体を切り開いて、中のコアを見つけ出したらしい。兵士は躊躇なく体内に手を入れ、コアを掴んだ。
さすがに触れた直後は、身をピクリと震わせて動きを止めたけど。
コアは恐怖を向こうの世界に送るためのもの。触れたら意味もなく恐怖を感じることになるのは、俺も経験したことがある。
何に対してのものかはわからないのに、とにかく怖い。俺が近くにいる頼もしい姉の魔法少女がいるという思いで乗り切った一方、あの兵士は責任感とか任務への思いとかで乗り切ったらしい。
「ライナー。あのコアを砕けるか?」
「うん。任せて。いっくよー……って! うわっ」
ライナーが屋根の上で立ち上がった途端、ドローンの一体がすかさず飛んできて押し戻してきた。
屋根の縁で這いつくばって下の様子を見ているだけなら捕捉されないけど、光の魔法少女が立てば見つかるか。
兵士たちはその間に、コアをフィアイーターから取り出していた。フィアイーター自身は激しく暴れて抵抗しているけど、兵士も複数人が集まって攻撃。さらに太い金属製のワイヤーで拘束を試みていた。
コアを砕けばフィアイーターは死んで、もとのカラスの死体に戻る。じゃあ、フィアイーターからコアを取り出せばどうなる?
兵士たちは、金属製で円筒形の容器を持ち出した。映画で時々見るような、重要物質を収容する頑丈な入れ物に見える。例えば貴重で特殊な鉱石とか、薬品サンプルとか。
彼らもまさに、そういう使い方をするつもりだろう。
容器を開き、コアを投入。すぐに閉める。すると。
「フィア……」
断末魔としては弱々しい鳴き声と共に、フィアイーターは動かなくなった。
死んだのか? けれどいつもと違う。その巨体は消滅することなく、倉庫街の通りに横たわっていた。
「撤収! 現拠点は放棄し第二拠点に移動する! 急げ!」
指揮官の命令に従い、兵士たちはトラックに乗って立ち去ろうとする。速やかな動きだ。
「あ! こら待ちなさい! ちょっと! もう!」
ライナーが追いかけようとしたけど、ドローンに邪魔されて一定以上は近づけられない。
そのまま、トラックは倉庫街から出ていく。ここの拠点は放棄すると言ってたな。魔法少女たちが見ている前で、ここの拠点に戻っても押しかけられて逃げ場を失うという判断か。
「ムキー! ムカつく! てかフィアイーター倒してないじゃん! なんで解決みたいな雰囲気出してるのかな!?」
「ライナー。下に降りたい。フィアイーターの様子を見せてくれ」
「あ。うん」
倉庫の屋根からライナーが俺を抱えて降ろしてくれた。
フィアイーターは微動だにせず、いつもは凶悪な目にも生気が宿っていない。体には、銃で撃たれた穴がいくつもあるけど、それが時間経過で戻る様子もない。
「ラフィオ、話せるか?」
「ああ。おそらく、コアと切り離されて活動が止まったんだろう」
ハンターの腕に抱かれたラフィオが答えてくれた。元気そうなによりだ。
「死んだのか?」
「見ての通り、死んではいない。コアが戻れば蘇るだろうね。あのコアは重い金属の箱に入れられ、馬力のあるトラックで運ばれている。だから引き離すことは可能だ」
「もし、コアがあの容器から解放されたら?」
「フィアイーター本体に向けて戻ってくるだろうね。けど、武装した兵隊が厳重に保管するなら、とりあえずフィアイーターは無力化できる。なるほど巧い手だ。奴らも結果を確信して試したわけではないだろうけど」
トライデン社もフィアイーターに詳しいわけではない。過去の戦いについて調べて、コアがフィアイーターの心臓部だと考えただけ。
コアを奪えばフィアイーターは死ぬかもしれない。止まるかもしれないし、砕かない限りは暴れ続けるかも。いくつかの可能性が考えられるけど、試す価値はある。
結果としては悪くないものだった。
「魔法少女の力なしで、フィアイーターの無力化に成功したわけだ。お手柄だよ」
そう語るラフィオは、明らかに不機嫌そうだ。
「結局、殺せたわけじゃない。コアもフィアイーターも残っている。コアは近くにある恐怖をメインコアに送り続けるぞ」
問題が根本的に解決したわけじゃないか。




