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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第6章 新装備、新フォーム

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6-18.つむぎの両親

 そんな野望を知ることもなく、馬鹿な日本人たちはこちらを善意のヒーローと思い込んで応援の言葉を吐いている。御しやすい奴らだ。

 くっくと、自然に笑いがこみ上げてきた。


「ねえ。もう寝たいんだけど。電気消してよ」


 悦に入っていたクローヴスに、英語で話しかける声。

 三ヶ月前に、この計画のために会社の命令で結婚した女だ。


 家族としての見栄えを良くするために、顔にかなりの整形手術を施している。全て会社の金だ。


 元々結婚願望はある女だったから、幹部との結婚にすぐに飛びついてきた。親しい親類もおらず、莫大な報酬のためなら友人との縁を切るのも躊躇いがなかったから、顔の変化を周囲に怪しまれることもない。

 そんな、大して頭がいいとは言えない女。故にクローヴスの駒として操りやすい。


 女としての魅力は皆無だったけれどな。結婚をしたいのに、この歳まで出来なかったような奴だ。性格と容姿にはよほど難があったのだろう。

 整形前の顔なんかよく覚えちゃいないが、相当醜かったと思う。あれを、あんな美女に変えられる技術には感嘆する。



 あの女はこのまま、このケンゴ・クローヴスの妻としてセレブ生活を送るつもりなのだろう。冗談じゃない。仕事が成功して落ち着いて、世間がこの話題を忘れた頃に捨ててやる。

 俺の金は俺のものだ。あんな最悪な女のものじゃない。


「ねえ? 聞いてるの? 寝たいんだけど」

「好きにしろ。……エリーはどこだ?」

「知らないわよ。電気消して」


 苛立ちを隠そうともしない妻に、クローヴスもぶっきらぼうに答える。外面を良くする努力はしているけれど、両者の間に愛などない。

 誰のおかげで高いホテルに泊まれると思ってるんだ。安アパートで孤独に一生を終える人生しか送れないはずのお前が。


 娘役の少女の所在を尋ねても、彼女は答えなかった。

 また、ひとりでホテル内を歩いているのだろう。落ち着きがないガキはこれだから。


 良き家庭人を演出するために養子をとった。なんだったかはわからないけど、不幸な生い立ちの孤児だったらしい。

 それを引き取れば善人アピールができる。ガキの見栄えもいい。 


 だから、この家族は完璧だった。クローヴスはいつまでも見せかけの家族を持ち続ける気などはなかったが、少なくとも仕事の成功までは世間を誤魔化し続けられることを祈った。



――――



 俺のスマホに樋口から電話がかかってきたのは昼休みのことだった。樋口は昨夜はあまり飲むこともなく、なんとか普通に帰宅していた。今日も公安としての仕事を励んでいたのだろう。


『今朝のつむぎの様子、おかしなところはなかった?』


 電話口で、そんな奇妙な質問をしてきた。

 なんでここで、つむぎが出てくる?


「変なところはなかったぞ。風邪もすっかり良くなって」

『それはわたしも知ってるわよ。挙動不審なところはなかったか知りたいの』

「いつも通りだ。朝、俺と同じタイミングで家から出て、ラフィオを掴んで一緒に登校しようとしてた」


 今日は直後に、別のモフモフを見つけたためにラフィオはなんとか逃げ出せて、俺と一緒にこの通話を聞いている。もちろん遥と剛も。


「電信柱の上にスズメがいるのを見つけて、登って捕獲した。そのまま小学校まで連れて行こうとしてた」

『電信柱を、登った?』

「登れるようになってるだろ。細い棒みたいな足場がついてて」

『ついてるけど、あれ大人の作業者のものよ。小学生には大変じゃない?』

「だよな。特に、片手が塞がってたらな」

『片手?』

「僕を片手で掴みながら登ったんだ」


 向こうの樋口が絶句していた。

 相変わらず、モフモフが絡むと人間離れした運動をしてくる。


「今朝のつむぎはそんな感じだ。異常ではあるけど、普段と何も変わらない」

『そう。ご両親と連絡を取った形跡はない?』

「何も言ってないな。両親に、なにかあったのか?」

『コントラディクションシステムの根幹、画像解析プログラムを開発したのが、つむぎの両親がいるチームなの』


 今度は俺たちが絶句する番だった。




 つむぎの両親は、国内最大手のセンサー開発、販売企業の研究チームに、以前から所属しているらしい。


 どのくらい以前かといえば、つむぎが産まれる前だ。職場結婚をした夫婦は、娘の出産後も研究室に所属し続けて会社の発展に貢献し続けていた。


『AIを用いた画像解析。それを静止画から映像に発展させて、動画の中でなにが起こっているのかをコンピューターが把握するシステム。かなりの精度を誇っているらしいわ。あの子の両親はその研究の第一人者』

「頭いいんだね、つむぎちゃんの両親」

「そんな天才から、なんであんな悪魔が産まれるのかなあ」

「つむぎちゃんも頭はいいんだよね。勉強頑張ってる雰囲気はないのに、成績がいい。不公平だよね! わたしも天才になりたい! 勉強しなくても勉強できる天才に!」

「それで樋口。つむぎの両親のことだけど」


 馬鹿な話をしてる遥を無視して、電話の向こうに話を戻す。


「こうして電話してくるってことは、つむぎの両親に警察が取り調べをする可能性が高いってことだよな?」

『ええ。残念ながらね』

「でも、作ったのはAIなんだろ? 銃じゃない」

『銃を撃つAIよ。異物を認識して排除するドローンと同時に、敵を補足して確実に当てるシステムは、解釈によっては兵器の一部と捉えられるわ。それに、兵器に転用するのを知っていた可能性が高い』


 あのドローンは、カメラが銃口を認識した上で動かせる。目標を補足してレールガンに狙わせるのも同じ。

 明らかに戦地向けの仕様だな。


『だから、罪に問われかねない』

「ま、待ってください! 警察はまさか、つむぎちゃんのお父さんやお母さんを逮捕するつもりじゃ……」


 遥は昨日も言ってたな。知り合いの親があのシステムに関与していて逮捕されるみたいなことになれば気まずいと。

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