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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第6章 新装備、新フォーム

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6-16.イメージ戦略

 今度は選挙カーみたいなのの上に立ち、オフィス街の一角で会社帰りの人混みに声をかけていた。

 タスキこそかけてないものの、やってることは選挙演説みたいなものだ。


「樋口さん。これ、法律違反にならないんですか? 公職選挙法とかの」

「投票しろって言ってるわけじゃないし、そもそも選挙活動じゃないんだから。自分の考えを市民に訴えることは、別に違法じゃないわ。それでも警察を警戒していたみたいだけどね。すぐに退散したわ」

「へー。テレビ見た感じじゃ、そんな風には見えないですけど。結構長いこと演説して、大勢から応援されてるみたいね」

「映し方と編集で、そんな印象はどうにでも変えられるわ。特にこういう全国ネットのニュースだと、こういう人が出てきた方が話題性があって面白いんでしょう。澁谷の局だと、もう少し違った角度の報道をするはずよ」

「ニュース作る側にも都合ってあるのねー。ところで樋口さん、今日はあんまりお酒飲みませんね」

「仕事モードよ」

「でも、ちょっとは飲んでる」

「昨日は飲みすぎたって反省してるの」


 テレビ画面にそこまで興味がないのか、愛奈は樋口と話しながらコップを煽ってグビグビと酒を胃に流す。


 樋口は今日も来ていて、状況を俺たちに伝えてくれている。実際にトライデン社を探ってるのは県の公安なんだけど、その情報は樋口にも伝えられるというわけだ。


「見ての通り、クローヴスは市内にいるわ。滞在場所も特定できた。特殊部隊の待機場所も判明している。工業地帯の倉庫街よ」

「倉庫街?」

「製造業が盛んなこの街には、製品や部品を保管する倉庫が集まった場所があるよの。うちの会社の取引先も持ってたりするし、行くことも多い」


 愛奈が説明してくれた。


「そうね。そんな倉庫のひとつに潜伏している。部隊の構成員については調査中」

「居場所がわかるなら、すぐにでも逮捕できるんじゃないか?」

「そうなんだけど、上から止められてるのよ。中央の政治家連中は様子見したいらしいわ」

「なんでまた」

「あの男、相当な根回しをしたのでしょうね。寄付なんかもしたかも。クローヴスのやってること自体は善意によるものだし、市内の会社には正式な発注をかけてお金を払ってる。だから、ことさら非難するのも難しい」

「金をかけて、法に抵触することをして、奴は何がしたいんだ?」

「わからないのよねー。宣伝とかかしら。うちの製品はこんなにすごいですって。実際、世界中で注目されて、株価も上がってるそうだし。会社への仕事の依頼もふえるでしょうね」


 金儲け。人が必死に戦ってる事案で。


 軍事産業に深く関わる会社が、銃器が御法度の国の都市部で兵器をアピールしてるのに、なぜか良いイメージが社会に浸透している。


 クローヴスの街頭演説の映像に目を向ける。

 身長ニメートル弱というのは本当なんだろう。筋肉質の体型の頼れそうな男が、力強くしかし市民には寄り添うような形で声を上げるのは、確かに好感を与えそうだ。

 実際には胡散臭さは抜けないけど。


『私の母は日本人です。自分のルーツとなる国が危機に陥っているのならば、助けなければならない。私のはその一心で、コントラディクションシステムの開発に取り組んで来ました!』


 どうだか。


 最初にフィアイーターが出現した四月の上旬から今まで三ヶ月と数日。そこから、レールガンを作り上げるには期間が短すぎる。

 レールガンやドローンの基礎技術は既に出来ていたのだろう。そこからニュースを聞きつけて、宣伝の絶好の機会だと地元企業に急いで連絡を取って完成させたのだと思う。


 クローヴスがというよりは、会社を挙げての勝負だ。


 クローヴスがプレゼンターとして選ばれたのは、日系人アピールすることで日本人受けを狙ってのこと。

 好人物アピールのために、近くに妻子を立たせて良き家庭人であることを強調することも忘れない。


「クローヴスの経歴も、詳しくわかってきたわ。奥さんと結婚したのは三ヶ月前よ。トライデン社の女性社員」

「まさか」

「ええ。このために、急いで結婚したの」


 良き夫、良きパパは演出なのかよ。本気だな。


 一般層はそんな事実を知ることはないから、見た情報のままの印象を受ける。


「というか、そのためだけに結婚させられた女はどう思ってるんだ」

「見なさい。幸せそうよ」


 テレビは別のニュースに切り替わっていたから、樋口がタブレットで映像を見せてくれた。


 ニュースの映像ではなく、クローヴスの演説を近くから撮影したもの。角度からして、ニュース用の素材じゃない。

 公安が密かに撮影したんだろうな。


 クローヴスの後ろに控えている、ブロンドの女。歳はクローヴスとあまり変わらない、四十代半ばほど。見栄えを重視して選ばれたのか、美人だ。クローヴスの演説に頷きながら、聴衆に愛想を振りまいている。


「まあ、笑顔ではあるけど。幸せかどうかは」

「幸せでしょ。わたしにはわかるわ」


 愛想が酒を片手に映像を覗き込んできた。俺と頬が触れ合うくらいの距離。顔が近い。酒臭い。


「クローヴスって奴、大企業の幹部なんでしょ? まだ若いのに幹部ってことは相当優秀だし、将来も安泰。そんな男と結婚したら、一生楽して生きていけるじゃない! 羨ましい!」

「なんて奴だ。もう、姉ちゃんがあいつと結婚しろ」

「やだー。なんてこと言うのよ!? わたしは悠馬と結婚するのです! 他の男なんか嫌い!」

「おいこら」

「お姉さん!?」


 酔った勢いでとんでもないことを口走りながら抱きついてくる愛奈。俺たちの間に遥がすかさず身を割り込ませた。片足がないとは思えない俊敏さだ。

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