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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第6章 新装備、新フォーム

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6-14.風邪をひいた理由

「ほら。口を開けろ。磨いてやるから」

「あー」


 シャコシャコと音を立てながら、ラフィオはつむぎの歯を磨いていた。


 手を動かしながら、耳はテレビの音声に向いていた。樋口の叫びがうるさい。


 ラフィオとしては、人間がフィアイーターに対抗するための自衛手段を持つことに抵抗はなかった。人間にはコアは破壊できない。光の魔法を人間が使えない以上は仕方のないこと。

 とはいえ、魔法少女の助けとなる戦力は多い方がいい。それこそ悠馬や剛はそういう位置づけだ。


 あの会社が、悠馬たちほど信頼できる相手なのかは、まだ不明。それは別の問題だ。


 会社がやっているのだから、善意での行いの裏にビジネスの仕組みがあるのはラフィオにも想像はつく。企業のイメージ向上のための慈善事業にしては金が掛かってるようだし。

 どうにかして儲けに繋げようとしているのだろう。


 それが真っ当なもので、魔法少女たちに迷惑をかけないならそれでよし。駄目なら拒絶するまで。その判断基準を決めるのは魔法少女たちだ。


「ねえラフィオー。一緒に寝よ?」

「駄目だ」

「じゃあ、寝るまで一緒にいて?」

「それならいい」

「やった!」


 小躍りするようにラフィオに抱きつくつむぎ。だから、病み上がりが頑張るな。


 その時ふと、ラフィオは洗面所の小さな窓際にぬいぐるみが吊るしてあるのを見つけた。

 昨日買った、巨大なモフ鳥のぬいぐるみだ。


「これは?」

「昨日の夜、お風呂に入れてあげたの!」

「買ったばかりで汚れてなんかないだろ」

「床に落としたら埃がついちゃって。あと、ラフィオとお風呂入りたかったのに出来なかったから。代わりにモフ鳥さんと」

「そ、そうか」


 床に埃が薄く積もってるのは知ってるし、白い鳥では目立つだろう。

 それ以上に、後半の理由の方が強そうだったけど。


「それで、ちゃんとお風呂に入れた後にしっかり乾かして、ブラシも当てて。けど中まで水が染み込んでたから。しばらく絞ったりして頑張ったんだけど」

「結局干したのか」

「うん!」


 ぬいぐるみはラフィオの体とは違う。水に漬けると中までずぶ濡れだ。


 窓際に干されたぬいぐるみは、元のふかふかに戻ってるようだけど。


「まさか、自分の体を乾かすのよりも、ぬいぐるみの世話を優先したんじゃないだろうな?」

「え? ……そうかも」

「まったく」


 風呂上がりに濡れたままで過ごせば、風邪もひくだろう。


「明日にはちゃんと治すんだぞ」

「はーい」


 ラフィオに寄り添うようにして部屋まで歩いていくつむぎ。

 それを、ラフィオはそんなに悪い気はしていなかった。



――――



「気に入らないわねー」


 下界を映す鏡を見ながら、キエラは不満そうに言った。


 さっき、いつものようにラフィオを困らせるためにフィアイーターを作った。大して大きいものではなかったし、ちょっと恐怖を集めてすぐに倒されると思ってたのに、なんだか邪魔が入ったらしい。

 アメリカだっけ。遠くの国から来た邪魔者。人間のくせに、フィアイーターを倒そうとする愚か者。


 あれは、わたしとラフィオの遊びなのに。許せない。


「ティアラ。アメリカの会社って、大きいのかしら」

「え? 大きいのも小さいのもあるけど、日本まで来るのは大きい、かな」

「そう。大きな会社が困ったことになったら、大勢の人間が困るのよね?」

「困ったことって? 倒産とか? それはみんな困るよ。社員さんや家族が生活できなくなる」

「それを、人は怖がるかしら」

「それはわからないけど。怖いよりは、不安って思うかな。でも、フィアイーターと戦える兵器が負けたってなったら、みんな怖がるかな」

「そうよね! そういう怖がらせ方もあるわよね!」


 あの、話していた大男のムカつく顔。自信に満ち溢れていて自分には力があると確信している顔がキエラは嫌いだった。

 あいつの鼻をへし折って、邪魔者を排除して、ついでに恐怖も集められるなら方法はなんでもよかった。


「ねえティアラ。あいつらの居場所、わかるかしら。探したら見つかる?」

「わからないけど、やってみる。人前に出るのが好きそうな人なら、追いかけるのはできると思う」



――――



「おはようございますラフィオ! 悠馬さん! 風邪、治りました!」 

「おう。おはよう」

「あああああ! おい! 離せ! モフモフするな!」

「モフモフー! 今日はわたしと一緒に学校行こうね、ラフィオ!」

「嫌だー!」


 翌朝。すっかり元気になったつむぎが、ランドセルを背負って俺に挨拶。そしてラフィオを鷲掴みにしてスキップしながら小学校まで向かっていく。

 元気になってなによりだ。


「うえー。若いっていいわねー」

「樋口も若い部類だろ」

「そうだけど。それでも日付変わるまで延々酒飲んでたらきついのよ」

「それは自業自得だ」


 元気なつむぎを、二日酔いの樋口が見送っていた。

 昨夜、トライデン社の悪口を散々言いながら深酒をして、愛奈ですら引くくらいに酔って。あげく暑いと言いながら服を脱ぎ散らかしながら倒れるようにして寝た。結局、俺の家のソファで夜を明かして、今に至るわけだ。


 外に出た今は、とりあえず服は着てるけど。急いで着たブラウスのボタンがかけちがえてあって、隙間からブラが見えかけていて慌てて目を逸した。


「待ってなさいクローなんとか! 絶対逮捕してやる! あと協力した企業も! 銃器製造に関わってると知ってたならタダじゃおかないからね!」

「わかった。わかったから。樋口」

「なによ」

「ここまで、車で来ただろ」

「ええ。マンションの駐車スペース使わせてもらってるわ」

「それはいいけど。まだ酔ってるだろ。しばらくは運転するな」

「ええ。車の中で休むわ……」

「駐車場まで送るから」

「うえー」


 ごく自然に俺に体重を預けてエレベーターに乗り込む樋口。いや、なんだよ。

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