6-12.レールガン
「銃器の一種ね。電磁気の力、いわゆるローレンツ力で弾丸を打ち出す仕組みの銃。もっとも、打ち出すものは弾丸じゃなくても良くて、例えば宇宙船なんかを空に打ち上げるマスドライバーなんかにも応用できるそうだけど。まあ、圧倒的に軍事目的で研究されているのが主ね」
樋口がテレビを見ながら話している。画面内でも、クローヴスが映像を駆使してそんな説明をしていた。
二本のレールに電気を流して、圧倒的な速度で弾丸を打ち出す仕組みらしい。
その時の消費電力は馬鹿にはならないが、二台あるトラックはそれぞれ発電設備を有していて、それで莫大な消費電力を賄っているという。
要は、昨日テレビ局で見た電源車の最新型だ。装備と人員の輸送と同時に、電力供給もできるというわけだ。
「ローレンツ力って?」
「……高校物理の範囲よ」
「ふふん! わたし、理系科目は苦手なのです!」
得意げに親指を立ててみせる遥。いや、自慢にはならないぞ。
「それは右ネジの法則の覚え方ね。コイルに電圧をかければ力が発生するってやつ。レールガンの場合は、左手よ」
「へ? 左手?」
「フレミングの左手の法則。物理の勉強をもう少ししなさい」
親指と人差し指と中指を立てて見せる樋口。
ローレンツ力は俺も聞いたことがある。こういう高校物理の延長線上に、あの兵器はあった。
「理論上、レールの長さと電力が揃ってれば亜光速まで弾丸の速度を出せる、強力な兵器なのよ。昔から研究が進められていたわ。なかなか実用にはこぎつけられてなくて、フィクションのなか限定の兵器だったけどね。昔の映画でも、この銃が出てきたりしたわ」
「あ……」
夕飯が出来たのを見て筆記用具を片付けていたつむぎが、消しゴムに手を当てて転がしてしまった。まだ本調子ではないか。
机の縁まで行って落ちそうになったそれを、樋口が掴んでペンケースの中に入れた。
「その映画では個人が携行できる武器として扱われてたけど、実際には電源を引き連れてないと使えないのね。それに、今のところ亜光速には届きそうもない」
クローヴス氏の説明するレールガンのスペックを見て、そんな感想を口にした。
「それでも、威力はすごいのでしょうけど。それに貫通力も。巨大なフィアイーターに対する殺傷力は凄まじいのでしょうね」
「殺せはしないけどねー。銅像に大穴を開けられるのはすごいけど」
「ええ。けど大きなダメージを与えられる。狙いも正確らしいわね」
テレビの中でクローヴスが、レールガンの操作は手動でもできる他、AIによる補助も活用されていると言っていた。
トラックにカメラがついていて、周囲の状況を把握。敵のいる位置にレールガンの銃口を自動的に向けるシステムが搭載されているとのこと。
敵の動きをAIが判断し、着弾までの時間差で僅かに移動していることまで計算に入れているそうだ。
さらに映像分析により、部隊に接近する異物を排除する技術もある。それが盾である、あのドローンだ。
基地であるトラックを中心としてた一定の範囲をドローンが周回。そこに入ろうとした敵の前に割り込み、ドローンについているシールドで動きを阻害する。守る範囲は、半径何メートルという形で指定、変更も可能。
あのシールドはチタン合金とのことで、とてつもない硬度と軽さを兼ね備えているそうだ。
後ろのスクリーンでデモ映像が流れている。トラックの屋根に置かれた人形のターゲットを、銃を持った複数の男が狙っている。さっきの部隊の人員及び、装備していた銃か。
このAIはこちらを向いた銃口の存在すら認識していて、発砲の前に銃の前に立ちふさがり、連射される銃をすべて防いでいた。当然、ターゲットは無傷。
「この映像、屋内っぽいけど日本で撮影されたのかしら。というか、あの銃は見せかけとかじゃなくて、本当に撃てるのね」
樋口の関心はそこだ。システムがすごいのは認めつつ、完璧に銃刀法違反なのは見逃せない。
「屋内ならわからないだろ。海外で撮ったのかも」
「だとしても、本物の銃器が国内に持ち込まれたのは大問題よ。税関が見過ごしたとも思えないけど、方法が知りたいわね。連射可能なライフルが少なくとも二十丁。それからレールガン」
「持ち込んだのじゃなくて、この国で作ったのかもしれませんよ。部品から作って組み立てたとか」
「その方が問題よ。マニアがお手製でパイプ銃作ったのとはわけが違うわ。連射可能なしっかりした銃をあれだけ作ったってことは工場があるってことよ。国内に!」
それは警察としては見過ごせないな。
「随分と勝手な真似してくれてるわね。まあ、工場より密輸の方がありえそうだと思ってるけど」
樋口がうどんを啜りながらテレビに目を向けて。
『これらのシステムや部隊の装備は皆、この模布市にある数多くの企業の協力によって製作しました』
クローヴスの言葉に、樋口は大きく咳き込んだ。
「いや! なんでよ!?」
『ものつくりの街、模布市には多くの部品メーカーがあり、優れた技術を有しております。怪物と対峙するにあたり、これらと協力をしない手はないと、私共は考えました』
「いやそういう理由を訊いてるんじゃないわよ! この国のメーカーに堂々と銃を作らせるなんて狂った発想に、どうやったら至れたのかを訊いているの!」
常軌を逸したトライデン社のやり方に、樋口はテレビと会話を試みるくらいに狼狽している。




