6-10.謎の部隊の正体は
今日は変則的に、俺の家ではなくつむぎの方にみんなでお邪魔する。ラフィオがリビングの掃除をしていた。なぜか、猫の柄のエプロンをつけている。
それから。
「皆さん、ご迷惑をおかけします。フィアイーター、大丈夫でしたか?」
家の椅子に座って、夕方のニュース番組を見ていたつむぎが声をかけた。彼女の前のテーブルには、ノートと筆記用具が広がっていた。さっきまで、今日出れなかった授業の分の勉強をしていたらしい。感心だ。
テレビでは早速、さっきの出来事がニュースとして流れていた。謎の特殊部隊がフィアイーターを撃ち落とした様子を、近隣住民がスマホで録画してテレビ局に提供したらしい。
この調子じゃSNSも大盛り上がりだろうな。
相手が何者かわからない以上、なんか気持ち悪い。樋口も同じ気持ち故に、不機嫌そうなのだろう。酒を持ってきたのも、それに逃げるため。
公安すら存在を認知してない武装集団ってのが謎だな。
「今日のフィアイーター、飛んでたんですね。わたしが出たら簡単に倒せたのに」
「つむぎちゃんは具合が悪かったんだから。仕方ないよ。寝てなくて大丈夫?」
「はい。ずっと寝てたら、なんか目が覚めちゃって。朝よりしんどくないので」
「そっかー。晩ごはん作るから、一緒に食べよ」
つむぎなりに、このタイミングで風邪にかかったこと、気にしてるらしい。単に間が悪いだけだから、気にしないでいいのだけど。遥の態度もそう言いたげだ。
「遥。手伝うよ」
「ありがとー。ラフィオ、そのエプロンは?」
「つむぎが家庭科で作ったそうだ。せっかくだから着てとせがまれた」
「そっかー」
「それであいつが喜ぶならな……」
「大事にしてるんだね、つむぎちゃんのこと」
「まさか。そんなことはない」
「えー? そうかなー? 付き合っちゃえばいいのに」
「恐ろしいことを言うな」
遥とラフィオは会話しながら、慣れた様子でキッチンで料理をしている。同じマンションなのだからキッチンの構造も同じ。調理器具の配置は違っても、大した問題ではないらしい。
「それで。公安としては、あの人たちは何者だと考えてるのかしら?」
「わからない。今のところはそれしか言えないわ。確実なことと言えば、警察や自衛隊じゃないってことくらい」
「そうなの? 警察の特殊部隊ですって雰囲気だったけど」
「もしそうなら、県警って装備に書いてあるわ。自衛隊でも、所属を表すエンブレ厶がどこかにあるはず。それが見当たらないの」
「たしかに。トラックは真っ白。防弾チョッキとかヘルメットも黒一色だったわねー」
愛奈と樋口がテーブルで向かい合って真剣に話してる。それだけ聞けば格好いいけれど、ジャーキーを齧ってビールで流し込みながらの会話だ。
愛奈はいつものことだけど、樋口は謎の武装集団に相当ご立腹なようだ。
「公的機関の指揮下にない組織だとしたら、この国の治安維持組織にかなり舐めた真似してくれてるわね。住宅地のど真ん中で、銃で武装した集団を堂々と展開するなんて。しかも、あんなバカでかい銃を撃った。というか、なんなのかしらあれ。銃声が聞こえなかった」
「銃じゃないんじゃないの?」
「銃でしょ。どう見ても。上空のフィアイーターを撃ち落としたんだから。明らかに銃刀法違反よ。あと、奴らの装備してた銃も。見たことない型式のやつだけど。居場所を割り出したら逮捕よ!」
早くも酔いが回っているようだ。
「遥ー! わたしどうやら、うどんだけじゃ酔えないみたいなの! 他の肴も作って!」
「あ。遥ちゃんわたしもー」
「聞かなくていいからな。俺が家からなんか持ってくる」
駄目な酔っ払いの相手は大変だ。
酒ばかり買い込んでいて、つまみはほとんど買ってないらしい。樋口が持ってきたジャーキーは既に食い尽くされていた。
隣である俺の家に行き、つまみになりそうな物をいくつか手に取る。
公安でも一切の正体がわからない集団のことは、その間も頭から離れなかった。明らかに新兵器らしい新型銃やドローンだけではなく、兵士の携行する銃も不明って、どういうことだ?
俺も銃には詳しくないけど、見る人が見れば型式は判別できるものなのは知っている。
樋口も職業柄の知識はあるのだろう。わざわざわからないと言ったのは、そういうこと。
SNSで検索をかけてみたところ、例の部隊の銃の型式を言えるアカウントはひとつも無かった。ミリオタを自称するアカウントが、新型にだと興奮して語っているのは見つかった。
奴らはなんなんだ。フィアイーター殺しに協力してくれたのは嬉しいけど、本当に味方なのか?
あまり愛奈たちを待たせるわけにもいかないと、すぐに戻る。
テーブルの酔っ払いふたりは、さっきとは打って変わって静かになっていた。
「どうしたんだよ」
「さっき速報が流れてね。あの部隊を統括してるって人が、これから記者会見をするってマスコミに発表したらしいの。全国ネットのテレビ局でね。七時ちょうどからだって」
「統括してる、か。どんな人なのかはわかってるのか?」
「なんか、会社の重役さん」
「トライデン・テクノロジー社。アメリカの電子機器メーカーよ」
樋口がタブレットを操作して調べてる。聞いたことない会社名だと思ったら、海外か。それでも有名企業ならわかるものだけど。




