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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第6章 新装備、新フォーム

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6-6.こんな日に限って

 結局、樋口がものすごい苦労をして、レトルトを温めて温泉卵を乗せるだけのお粥が完成した。キッチンにあった淡い色の茶碗に盛って、疲れた様子の樋口が持ってきてくれた。


「これ、お母さんのお茶碗」

「そっか」

「わたしのは水色のやつ」

「うん。今は気にしないでくれ」


 いるんだな。ここに。つむぎの母親は確かに存在する。


「自分で食えるか?」

「あーん」


 茶碗やスプーンを手に取るでもなく、身を起こして口を開ける。

 意味するところはわかるとも。


「……」

「あーん」

「わかったよ。ほら」


 お粥を掬って食べさせる。ちょっと熱がっていたから、息を吹きかけて冷ましてやる。


 気恥ずかしさから、ラフィオはつむぎの顔を直視できず、チラチラとしか見ることはできなかった。

 それでも、彼女が幸せそうなのはよくわかった。



――――



「病人に食べさせてあげる物ってなんだろねー」

「そんなに考えなくてもいいだろ。ラフィオも樋口もいるから、既に準備してるだろうから」

「たしかにー。けどさ。今夜の晩ごはんは、つむぎちゃんと同じものをみんなで食べたいな」

「気持ちはわかる」


 放課後、バスから降りた俺と遥は近くのスーパーに向かっていた。

 当たり前のように俺の夕飯を作ろうとする気持ちは、大変ありがたい。


「別に難病とかじゃなくて、ただの風邪だし。食べられるものにものすごい制限があるわけじゃないけどな」

「まあねー。消化のいいものを食べさせるのがいいのかな。喉の風邪だっけ」

「咳はしてた」

「柔らかくて、飲み込んでも痛くないのがいいかな。うどんとか」


 その時、ふたりのスマホが同時に警報音を出した。

 フィアイーターの出現を知らせるものだった。


「うそ。こんな時に」

「つむぎを戦わせるわけにはいかないな。樋口」


 電話をかければ、相手はすぐに出た。


『ええ。敵ね。あなたたちは今どこ? 車椅子は回収するから現場に行って』

「近くのスーパーだ。頼む」


 スーパーの裏手に車椅子を隠して、遥は魔法少女シャイニーライナーに変身。俺を背負いながら現場に向かっていった。



――――



 スヤスヤと寝息を立てているつむぎを見てから、ラフィオは静かに部屋を出た。


 愛奈は既に自分の家に戻って休日を満喫していることだろう。樋口は仕事に戻ったのか姿は見かけない。


 散らかったつむぎの家の中を見回した。

 普段はここに入ることはない。どうせすぐに元通りになってしまうかな。でも、ちょっとくらいは綺麗な部屋にしてあげよう。


 散らかった衣類を畳んで、部屋の隅の埃を掃き掃除で取り除き、キッチンの汚れも拭く。掃除もいつの間にか慣れたものになっていた。

 すると、つむぎのスマホがけたたましく警報音を鳴らした。眠っているつむぎを起こさないよう、すぐに切る。


「まったく。こんな時に……」


 つむぎが動けない時に限ってフィアイーターが出るなんて。場所はどこだ? 敵はどんな奴だ?

 相変わらず寝息を立てているつむぎを行かせるわけにはいかない。今動けるメンバーで対処するしかない。そっと家を出て、隣の双里家の鍵を開ける。


「愛奈! わかってるな!? 今すぐ現場に行け!」

「ううっ。気持ちよく寝てたのに……起きたら晩ごはんが出来ていて、可愛い弟がお酒を飲ませてくれる幸せな光景が」

「今はフィアイーターの対処をしろ!」

「わかってるわよ。行ってくるわね。ラフィオも行くの?」

「それは……どうしよう」

「苦労しそうならつむぎちゃんのスマホに電話するから。すぐ来るのよ」

「わかった」


 一瞬の逡巡の意味を、愛奈はよくわかっているようだった。変身してひとりで家を出る。


 ラフィオはすぐに、つむぎの所に戻っていった。

 馬鹿馬鹿しい感傷だと思われたかな。つむぎが起きた時、ひとりにするのが申し訳ないとか。


 いや。相手は病人なんだから、誰かが側にいるべきだ。そしてつむぎが喜ぶのは自分だと、ラフィオはよくわかっていた。


 つむぎは、今も幸せそうに眠っていた。同じ街のどこかで怪物が暴れていることも知らないで。

 今は、それでいいんだよな。


 一応、現地の状況は確認しておくか。相手がどんなのかも知りたいし。つむぎのスマホを操作しようとして。


 インターホンの音がした。


「誰だ? わかったわかった。出るから」


 連打なんかはせず、奥ゆかしく一度だけ鳴らして反応を待つタイプの訪問者のようだけど、その一度のチャイムでつむぎが起きかけた。ここからさらに声をかけられたらまずい。


 音を立てないように小走りで玄関まで向かって。ドアをあける。

 つむぎと同じくらいの年齢の、ランドセルを背負った女の子がいた。彼女の顔は知っている。たしか。


「綾瀬さん」


 綾瀬桃乃。つむぎの同級生で友達。以前つむぎと喧嘩して仲直りした、恋する乙女。

 そして、つむぎが魔法少女だと知っている人間でもある。


「あなたは……ラフィオくん? どうしてつむぎちゃんの家に?」

「看病。魔法少女の仲間だからね」


 彼女が魔法少女のことを知っているなら、ラフィオ自身の素性を明かしてもいいだろう。下手な嘘をついて混乱させるよりは、ずっといい。

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