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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第6章 新装備、新フォーム

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6-2.古い電源車

 いつもはもう少し聞き分けがいいのだけど、でかい着ぐるみを前にテンションが上がってしまったらしい。


「まったく! 手がかかる! おい悠馬! 別方向から追い詰めるぞ!」

「ああ。わかったよ」


 小学生女子の限界を超えてるのではと思える速さで走るつむぎを追いかける。彼女は駐車場の隅に停まっている、大きめだけど妙に古めかしい車の陰に逃げた。バスくらいの大きさのある四角い車は、長年ここにあったらしい。周りの車が舞い上げた砂や埃なんかの粒子が堆積している。

 壁と車に挟まれていて、前後を俺とラフィオで挟まれている形。つむぎに逃げ場はないはずなのだけど。


「よっ。ほっ」


 あろうことか、その車の側面を軽々と登った。窓枠なんかの僅かな隙間を取っ掛かりにして、大人が入るサイズの着ぐるみを片手で抱えたまま、片手と両足を駆使して屋根に到達。

 身軽なのはわかってたけど、こんなことできるのか。


「こいつマジか……」

「えへへ。モフ鳥さんモフモフー」

「おい。つむぎ。そんな所に逃げたら、周りを囲まれたら行き場がなくなるぞ」

「あ……」


 とりあえず逃げて、その後のことは考えなかったらしい。

 バスの屋根の上で、しまったという顔をした。


「で、でも! ここまで誰も来られないだろうし! 捕まるまではモフモフし放題だもんね! あ、ラフィオも来る? 一緒にモフモフしてあげる!」

「するな! というか早く降りろ怒られるから! あと、その着ぐるみが埃で汚れてる」

「え? あ!」


 素性はわからないけど、長らくここに放置されていたと思しきバスの上には汚れが溜まっている。小学生の女の子が自分の身長より高い着ぐるみを持っていたら、当然引きずることになった。

 元々が白い色のモフ鳥ゆえに、真っ黒な汚れがついたのが下からでもわかった。


「わー! モフ鳥さんごめんなさい!」

「ほら。スタッフに返してあげろ。ぬいぐるみが欲しいなら、ここの局の売店にも売ってるだろ」

「本当!? ぬいぐるみ買える!?」

「ああ。買える」

「持って帰れる!?」

「買えばな」

「やったー! ラフィオ行こ! 売店はどこ!?」


 結局、他のモフモフに意識を向けさせることで、なんとか着ぐるみから意識を離すことができた。


 そして着ぐるみを抱いたまま、バスの上から飛び降りた。一瞬の躊躇も無かったし、普通に着地した。あいかわらず、すごい身体能力だ。


「ごめんなさい。モフ鳥さん好きで、思わずモフモフしちゃいました」


 運んでいたスタッフに頭を下げるつむぎ。モフモフが関わると変になるだけで、こういう礼儀は備わっている。

 彼らも子供のしたことと、笑って許してくれた。


「なあ澁谷。あの車は?」


 俺はといえば、気になったことを尋ねることに。なんでテレビ局の地下に、使われてないバスみたいな車があるのか。


「あー。あれはね、昔の電源車なの」

「電源車?」

「わたしも先輩から聞いただけで、実際に使われたところは見たことないんだけどね。ガソリンで発電して、電力を供給できる車なの。移動する発電機って言えばわかりやすいわね」

「なるほど。でも、なんでテレビ局がそんなものを」

「五十年くらい前に、この局で防災キャンペーンをやってたそうなの。災害時に公共の電波を使う会社として、地域に貢献することをアピールする意味もあってね。その一環で購入されたそうよ」


 避難所での電力を賄うためのものか。たしかに大事なことだ。

 幸いにして、この模布市ではそこまで大きな災害は起こらなかった。台風やそれに伴う洪水や土砂崩れがあっても、電力供給が止まるほどの災害には至らず、この電源車はあまり使われることなくここに放置されている。


 テレビ局のアピールとしては役に立ったのだし、災害なんか起こらない方がいいわけで。そういう意味では不必要ながら偉大な備えだと言える。


「野外イベントなんかを主催する時に活用されたこともあったそうだけど、やがて新しいタイプの電源車を業者からレンタルする方がいいって方針に変わっていって。一応、万が一の災害時には使えるから置かれてるんだけどね。処分しようかって話も出てるの。今でも使えるとは思うけどね」

「そうなのか……」


 こういう、昔のものが捨てられるのはちょっと寂しい思いがした。


「すまない。家に帰る前に、売店に寄らせてくれ」


 つむぎに手を繋がれているラフィオに、そうお願いされた。しかたないモフ鳥のためだ。


 売店とは、テレビ局正面入口から入ってすぐの、一般人でも立ち寄れるエリアにあるグッズ売り場だ。帰る前に寄るという手間を、ラフィオは申し訳なく思っていて。


「ほら。とりあえず車に乗れ」

「もー。ラフィオってば強引だよー。そういう所も好きだけど」

「お前に強引と呼ばれる日が来るとは思わなかった」

「ねえラフィオ。そういえばさ」

「なんだ」

「サムシングフォー、六月のうちに結局探せなかったね。なんか色々あって」

「忘れたわけじゃなかったのか」


 そういえば、つむぎがジューンブライドに絡めてそんな話しをしてたのを思い出す。もう七月に入ってしまったけど。


「売店で売ってるかな。サムシングフォー」

「売ってないと思うな。というか、四つの中に買ったものって無いだろ」

「新しいものはあります! お店で買ったものはなんでも新しいもん!」

「そういう意味じゃないと思うんだよ」


 つむぎを引っ張る少年姿のラフィオは、かなり疲れた顔をしていた。


 このモフリストに気に入られてしまって、子守りをする立場になってしまったのだから仕方ない。というか、つむぎが俺たちの仲間に入ったのもラフィオのためだから。

 なんだかんだ、ラフィオもつむぎと一緒に過ごす時間が多く、相手をするのに慣れている様子だ。本人がどこまで望んでいるのかは知らないけど。

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