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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第6章 新装備、新フォーム

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6-1.モフ鳥さん

『だから、みんなも普通に生きるっていうこと、諦めないんでほしいんです。障害がない人と同じように、学校に行ったり友達と遊んだり。好きな人と恋したり。そういうのを――』

「くあぁっ! 駄目! 恥ずかしすぎる!」


 テレビもふもふ社屋の一角。本来は打ち合わせなんかが行われると思われる部屋で、俺の前と隣から遥の声が同時に聞こえてくる。


 澁谷に呼ばれて、遥を取り上げたドキュメンタリーの映像が大きめのモニターで流されていた。映像に問題がないか、関係者に確認してもらうためだ。

 問題はないらしい。遥の心情は別として。


 前のモニターでは、笑顔の遥がいいことを言ってるのに、隣では赤面して俺の肩に顔を埋めている。


「お前がどうしても言いたいことなんだろ?」

「そうだけど! 実際に言ってみると恥ずかしいというか!」

「じゃあ、このドキュメンタリーの放送をやめてもらうか?」

「それも嫌です!」


 わがままだなあ。


 実際のところ、この映像は世間に流れた方がいいと思う。

 遥のおかげで救われる人もいるはずだ。


「テレビ見てる人が、本当の遥ちゃんを知ったらどう思うでしょうねー」

「まあまあ先輩。いいじゃないですか。これも遥ちゃんの、本心の言葉ですよ」

「そうかもしれないけど」

「僕は遥のこと、立派だと思いますよ。怪我した直後のことも知っているので。こうやって前向きになれたのは尊敬できます」

「むむむ……それを持ち出されたら言い返せない」


 麻美と剛に言われて、愛奈は口籠ってしまう。


「わたしとしては、魔法少女関係のことが外に出てないなら、それでいいわ」

「はい! そこの辺りは編集で隠しておきました!」

「マスコミが協力的なのはありがたいわね」


 映像に問題がないかのチェックを唯一真面目にしている樋口に、澁谷は満面の笑みで答えている。

 公安のお墨付きがもらえたのだから、この試写会の目的は果たせたと言えよう。


「ねえラフィオ」

「なんだ」

「モフモフが足りない」

「それがメインの番組じゃないからな」

「でもー。なんかほら。動物園行ったりとか。そんなモフモフ要素があってもいいと思うの!」

「僕は思わない」

「思ってよ!」

「別に僕は、モフモフを重視しない」

「もー! モフモフー!」

「おい! やめろ! 欲求不満を僕にぶつけてモフモフするなー!」

「モフモフー!」


 ちびっ子たちは今日も騒がしい。一応、周りに迷惑にならない声でやってる配慮はある。

 小さな妖精の姿でつむぎの膝の上に座るラフィオは、掴まれてモフモフされている。

 本気で逃げようとしないあたり、仲がいい。



 とにかく、ドキュメンタリーは関係者のチェックも終わって無事に完成した。あとは八月末に放送するだけ。俺たちは一学期の期末テストと夏休みを過ごしながらそれを待つ。


「楽しい夏休みー。悠馬と海とか行きたいなー」

「姉ちゃんも、みんなで海行きたいって言ってたぞ」

「むむ。わたしはお姉さんの邪魔が入らないところで悠馬とデートみたいに海に行きたいのです」

「お姉さん言うな。それに邪魔ってなによ」

「確かによくよく考えてみれば、水着になればわたし、お姉さんに負ける要素ないですよね。わたしは足がない代わりに、お姉さんには胸がない」

「ちょっと!? 何言ってるのかしら!?」

「悠馬。いつ海に行くから考えててね!」


 自分で車椅子を動かしながら、遥は愛奈から逃げていく。


 ここはテレビもふもふの地下駐車場。テレビ局がそれぞれの家まで送ってくれるとのことで、澁谷の先導で車まで向かっていた。

 すると。


「あー! モフ鳥さんだー! モフモフさせて!」


 つむぎの声が聞こえた。振り返った時には、彼女は駆け出していた。


 向かう先には、どこかのロケから帰ってきたと思しきテレビクルーたちが車から出てきたところだった。

 そのスタッフのひとりが、中に人間が入っていない萎んだ着ぐるみを運んでいた。


 この局が夕方に放送している、渋谷も出演している情報番組。

 その中で、県内のあちこちにロケに行くコーナーがある。地元では有名なローカルタレントと、局のマスコットキャラクターであるモフ鳥が仲良く地元の人たちと交流するという内容。


 とぼけた表情の、ちょっと馬鹿っぽい顔の白い鳥をモチーフにしたキャラクターがモフ鳥だ。名前の由来はテレビ局の名称なんだけど、その名の通りモフモフの造形をしていて。


 つまり、つむぎはこれが好きなんだろう。


「わーい! モフモフー!」

「おい! やめろつむぎ! 迷惑だろ!」


 スタッフから着ぐるみを奪い取って、コンクリートの地面に押し倒すように抱きしめたつむぎを、少年の姿になったラフィオが慌てて追いかけていた。

 たぶん、つむぎが着ぐるみを認識した瞬間には、その位置までとてつもない速度で到達していたのだろうな。短距離走の世界記録を狙えるレベルで。


 数秒遅れて追いついたラフィオが、なんとか引き剥がそうとしているけれど。


「あはは! モフモフー! モフモフー!!」


 剥がせられそうにない。


「ごめんなさい。この子、わたしのお客さんなの。つむぎちゃん、お仕事の邪魔になるから、それくらいにね」

「えー! やだ!」


 澁谷がスタッフたちに謝っている。同じ番組を担当する同僚で、局の顔であるアナウンサーだからか、スタッフたちの態度も少しは良くなっていた。

 当のつむぎは拒絶してるけど。


「おい、つむぎ行くぞ」

「むむー」


 ラフィオがなんとか引き剥がそうとしているけど、モフモフを前にしたつむぎの力は凄まじい。モフ鳥のぬいぐるみを抱きしめたまま、ラフィオも振り切って走り出してしまった。

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