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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-56.遥の普通

「ねえ悠馬。夏になったら、みんなで海に行かない? なんか、春から急に知り合いが増えちゃって。こういうのも楽しいなって思って」

「うん。いいと思う」

「でも、わたしの水着姿は悠馬に独占してほしい気持ちもあるからねー」

「どういうことだよ」

「ほら。わたしのこんなセクシーな格好を見たら、周りの男が放っておかないでしょ? 金髪色黒のマッチョなビキニパンツの男にナンパされちゃうかも」

「セクシーの意味をよく考えてから言え。ナンパ男のイメージが俗悪すぎるのは別として、そんなに声をかけられる自意識はどこから来るんだよ」

「でも、わたしって美人なのは間違いないじゃない?」


 それはそうだけど。


「まあでも、心配ないわよね! だって悠馬が守ってくれるから!」

「それは……まあ、何かあれば守るけど」

「ふふっ。悠馬は格好いいね。体洗ってあげる!」

「温まるだけの風呂じゃないのか」

「いいからいいから」


 押しの強い愛奈に、俺はとりあえず身を任せることにした。

 それが、とても心地よかったから。



――――



 家族と、何より大好きな姉と共に彼方は家に帰る。


 びしょ濡れの遥は普段と変わらない様子。更紗と和解できたことを誇らしげに両親に話していた。


 その過程に、更紗と魔法少女が関わったことは、遥はよく知らないという雰囲気で話してたけど。その場面は見てないけど、見たかった、みたいな感じで。

 ちょくちょく、見てきたような口ぶりが出てしまっているけれど。


 仕方がないな。お姉ちゃんが隠したがってることなら、このまま騙されたフリをしておこう。


 やがて車は家に着き、びしょ濡れの遥が片足で風呂場まで向かっていく。びしょ濡れなのは彼方も同じだから、今日は久々に一緒にお風呂に入ることに。

 ゆっくりお喋りしながら温まろうかなと思ってた。のだけど。


「いやな予感がする……」


 遥が急に静かな声をあげたと思ったら、急に風呂から上がって自室へ急いだ、



――――



『悠馬! なんか急に不安になったから電話したんだけど、大丈夫だよね!? 愛奈さんに変なことされてないよね!? 一緒にお風呂入ったとか!?』


 風呂から出ると、遥から電話がかかってきた。

 いや、なんでわかったんだろう。女の勘なのか?


『わたしが愛奈さんだったら同じことやろうとするって思いついたの!』

「まったく……。そんな心配するようなことはないから、安心しろ」

『そう? 本当に?』

「ああ。また明日、学校でな」

『うん。また明日!』


 そんな感じで誤魔化すことにした。詳しく話すと面倒なことになるからな。





「豹介の所属していた闇金融は検挙されることになったわ。暴力団との繋がりも確認できたけど、そこをどこまで捕まえられるかは所管の腕次第ね。わたしが出来るのはここまで」


 数日後。樋口が訪問して、あの男の顛末について話した。スマホの情報の抜き取りには成功できたらしい。


「悪が少しだけ消えた。完全に消すことはできないけど、喜ばしいことよ」

「更紗の母親はどうしてる?」

「既に退院してるわ。腕にギプスをつけてね。家に帰宅して、豹介の残した財産でしばらくは生きてられるでしょう。ブランドものとか、色々買ってもらってたらしいし。収入が断たれて、その後どうするかは知らないわ」

「生活を、豹介に完全に依存していたのか」

「ええ。手持ちの財産が尽きるまでに、働き口を見つけるか新しい男を捕まえるかしないとね」


 働いた経験に乏しそうな女だから、それが出来るかは不明だ。闇金で儲けた男に派手な生活をさせて貰った後で、普通の給料で働くことをプライドが許すかも怪しい。

 男を捕まえるのも、もう若くない女では難しいかも。本人に魅力が無いから。豹介は娘の体目当てだったし。


「あなたたちが気にすることじゃないわよね」

「そうだな」


 馬鹿で礼儀を知らない女がひとり、路頭に迷っても何が問題になるわけじゃない。



 更紗が父親についていくと決めたのは、彼方の口から聞いた。


 父親の転勤は今から二週間ほど後。更紗は既に学校に転校を伝えていて、向こうの中学には夏休み明けから通うことになるらしい。

 同じ病気を持つ人たちのサークルにも、更紗のことは伝わっている。受け入れる体制はできているらしい。


 更紗はクラスメートたちに、これまでの非礼を謝ったそうだ。それを受け入れるかどうかは、それぞれの生徒次第。別に許さなくてもいい。謝ったら、これまでの事は無くなるなんて単純な話じゃないのは、子供の社会も同じ。

 それでも、更紗にとって学校は、少しだけ居心地のいい場所になったはず。ここで過ごす残り少ない日数が、いい思い出になるのを祈るばかり。



 桂木はどうやら、教師を辞めることになるそうだ。

 神箸夫妻から、あの話し合いの場での振る舞いやこれまでの対応への抗議が、教育委員会になされたらしい。

 その他、怪物が出たにも関わらず生徒の避難に協力せずに隠れていたことも問題となった。


 腕の骨を折る怪我を理由に、本人は未だに入院を続けているが、限界があるだろう。退院次第すぐに処分が下されるか、その前に辞めるかの状態だそうだ。


 元からの評判があまり良くなかったこともあり、同情や擁護の声もなかったという。

 自業自得だな。俺も、ちょっとだけ嬉しかった。


 彼方のクラスには新しい担任がやってきて、授業はつつがなく行われているらしい。


 こうして、彼方たちの日常は少しだけ良くなったわけだ。



 それからもうひとつ。


「ふふふ。わたしのドキュメンタリー、完成したらしいよ! 放送は八月だけど、渋谷さんたちが先行して見せてくれるって! みんなでテレビ局行こう!」


 梅雨も明けて、太陽が燦々と降り注ぐある朝。夏服姿の遥が笑顔で報告した。

 白いブラウスが眩しかった。


 本来のクライマックスであるニコニコ園の訪問の後、遥は変わらず園に訪れて、更紗を含めた子供たちとの交流を続けていた。

 俺も同行しているし、彼方も時々来る。渋谷たちは一度その様子をカメラに収めていた。


 遠くに引っ越す更紗との思い出を、プロのカメラマンに記録してもらったわけだ。


「えへへー。ついにわたし、テレビデビューだね。クレジットに名前も載るよー。あ、もちろん悠馬の名前も載るからね!」

「そうか。確かに出てるからな」

「全編に渡ってね! ふふふ。わたしたちが恋人同士なの、大勢に知れ渡ることになるね! 愛奈さん悔しがるだろうなー」

「どうかな。喧嘩するなよ」

「しませんしません! それに、付き合ってることをみんなに知らせるのも大事だけど、本来のメッセージもみんなに伝えなきゃだからね! 渋谷さんもそういう編集にしてくれるはず」

「障害者が頑張ってる日常を伝える、か」

「うん。それともうひとつ。障害を持ってる人も、普通に過ごしていいんだよって。追加でインタビュー撮らせてもらって、そう伝えました!」

「うん。普通か。大事だよな」

「普通に学校に行って、普通に友達と遊んで、そして普通に恋をする! わたしみたいに!」

「……遥」

「なあに?」

「結局、そこに戻ってきてるぞ。恋人なのを見せつけるって」

「うん! それがわたしの普通だからね!」


 嬉しそうな遥が、俺に親指を立てて見せた。


 その笑顔は日差しよりも眩しかった。

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