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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-51.雨が降ったら傘をさす

「うん。泣いていいよ。泣きながら、聞いてね。外を見てよ。雨が降ってるでしょ? そんな時、人はみんな傘をさします。障害の無い人も含めてみんながねー」

「ぐすっ。そんなの、普通のことじゃない!」

「そう! 普通なんだよ! 濡れちゃったらタオルで髪を拭くし、体が冷えたらエアコンをつけて暖かくする。それが普通。体が動かなくなったら、車椅子を使って動けばいい。それが普通だし、あなたも普通なんだよ。誰だってそうすればいいんだから」

「普通……でも、あたし、ひとりじゃ動けなくて」

「動ける車椅子だって世の中にあるんだよ。電動のとか。それを用意してもらえなかったから、あなたは周りから普通じゃなく見えた。雨の日に傘をささない人みたいに」

「だ、だって。お、おか、お母さんが! あんたには高い車椅子はもったいないって」

「そっか。それは、お母さんが悪い! お金の問題とかあるだろうけど、お母さんが悪いよ!」

「あたしは悪くない? 普通なの?」

「うん。ちゃんとした道具があれば、普通になれるんだよ。知ってる? 目の見えない人のためのトランプとか、世の中にはあるんだよ。盲目の人でも普通に遊ぶために!」

「そ、そうなんだ……じゃあ、わたしも普通になれる?」

「うん!」


 ――――フィアアアアァァァァ!!


 自信満々にライナーが頷くのと、怪物の声が遠くから聞こえるのは同時だった。


「あ。みんなにすぐ戻るって言ってたんだ。えっとね更紗ちゃん! とにかく、あなたの普通を諦めないで! きっと、うまくいくから!」

「え、ええ。わかったわ」

「よし!」


 魔法少女は、彼方にとって見慣れたサムズアップを見せてから外に飛び出していった。

 知らないはずの更紗の名前も言っちゃってるし。


 けど、彼女には本当は無いはずの左足が煌々と輝いていているのもあって、後ろ姿はとても美しかった。


「魔法少女って、ちょっと変わってるよね」


 呆然としている更紗に、彼方は話しかけた。なんのためらいもなかった。


「そうね。けど、いいこと言ってくれた」

「だよね」


 当然でしょ。だって、わたしのお姉ちゃんなんだもん。


「あ、あのね。神箸、さん。その。……今まで、ごめんなさい。あたし、すごく酷いことを言ってたって、やっとわかった。だから」

「うん。そうだよね。でも、わたしだった坂本さんのこと殴ったし。ごめんなさい。これでお互い様ってことにしない?」

「ええ……ええ!」


 この子が笑っているところ、初めて見た気がした。


「ところで……目の見えない人でもできるトランプって、本当にあるの?」

「え? どうなんだろ。おね……魔法少女さんが嘘をつくとは思えないけど」

「ん……」


 男の子がひとり、トランプの束を差し出した。顔を背けているけど、更紗と敵対する気はないって様子で。


「うわ。本当だ。ねえ坂本さん。触って」

「へー。すごい。本当にわかる。ね、ねえ。これで、みんなで遊ばない? ババ抜き、とか」

「坂本さん、トランプできるの?」

「スマホとかなら扱えるし、トランプならなんとか。取りやすいように持ってよね。あと……更紗って読んでくれるかな、彼方」

「ええ! やろ、更紗!」



――――



 土砂降りの雨は激しくなるばかりで、視界はかなり悪くなってきた。それでも敵味方の区別はつく。相手が黒一色だから、わかりやすい。

 黒タイツの一体の胸にナイフを刺して、抜く。殺すのには成功したものの、耐久性の低いナイフは遂に折れてしまった。未練なく投げ捨て、別の黒タイツに傘を叩きつける。


「フィー!」

「おぉっ!?」


 その黒タイツは、背後からの攻撃になんとか対処して、振り返りながら傘を掴んだ。力を込めれば、安物のビニール傘の細い骨組みが悲鳴を上げる。


 べつにこんなもの、壊れても惜しくはない。中央の太い棒だけはなかなか折れないゆえに、黒タイツに掴まれたまま傘を押す。

 そのまま敵を押し倒す形になった俺は、片手で体重をかけながら傘ごと体を押しつけて、片手で奴の顔面を何度も殴った。


 黒タイツの方も無抵抗じゃない。開いている片手で、俺の脇腹を掴んで力を込める。握力が人間より上の奴の力で、肉を引きちぎられそうになって。


「避けてくれ!」


 頭上から声。剛のものだ。咄嗟に横に転がるようにして黒タイツの上からどくと、赤い魔法少女のコスプレをした先輩がトンファーを奴の頭に振り下ろしていた。

 普段は持ち手として使うべき、突き出た短い棒を下にして、だ。

 それが黒タイツの顔面に刺さって、殺した。グロいな。


 地面に仰向けになった状態で、剛の姿を見上げる。魔法少女のコスプレもびしょ濡れだ。スカートが足に張り付いて動きにくそうだな。


「大丈夫かい? 制服が泥だらけだよ?」

「お互い様だ。大切な衣装が」

「洗えばなんとでもなるよ」


 俺もクリーニングに出すことになるかな。


 寝転んだままでは、大粒の雨が顔に当たって痛い。先輩が伸ばしてくれた手を取って起き上がる。


「ねえ! 悠馬! 黒タイツ全滅したっぽいし、こっち手伝ってー!」


 雨音に混じってセイバーの声がした。


 公園内に、確かに黒タイツの姿はない。けれど本体のフィアイーターはまだ巨体を横たえたまま暴れている。

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