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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-50.ライナーはきっと

 見れば剛先輩、または魔法少女シャイニーセイバーがコスプレ衣装を雨に濡らしながら、彼方の近くで黒タイツにハイキックを食らわせていた。


 さっきは制服姿だったのに、いつの間に着替えたのだろうか。普段着の下にある程度着込んでたとかだろうか。さすがにスカートまでは無理だろうけど。


 彼の手には、鉄パイプを加工して作られたトンファー。いつの間に貰ったのかは知らないけれど、麻美が作ると言ってたな、そういえば。

 細くて持ち運びにも適しているようだった。その分威力は弱まるだろうけど、鍛えられた肉体と鉄素材でなんとかしているらしい。


 殴られた黒タイツは昏倒していた。そこにさらにトンファーを振り下ろすことで、きっちりとどめを刺していた。


 彼方は泥濘む地面に取られる車椅子に苦労しながら、なんとか押していた。公園の出入り口までもう少し。そこまで行けば、地面は煉瓦敷きで押しやすくなる。

 けど、そこに複数体の黒タイツが立ちはだかった。剛は別の黒タイツの対処で手一杯。俺もまた、背後から新しい黒タイツに襲いかかられて助けに行けなかった。


 ラフィオは? 公園の別の出入り口に立ちふさがり、敵がそこから外に出ないようにしながら噛み付いている。ここから駆けつけるには距離がある。

 まずい。早く行かないと。


「とりゃー!」


 そこに、ライナーの声がした。


 彼方の前で通せんぼしている黒タイツに向けて、猛烈な助走をつけた上での飛び蹴り。助走の時点で人智を超えた速度なのだから、その破壊力は凄まじい。

 複数体の黒タイツが雨粒を散らしながら飛ばされていき、木に激突してそのまま絶命した。木の幹も大きく砕けている。


「みぎゃー!?」


 そして考えなしに勢いだけの攻撃をしたライナーは、地面が濡れているのもあって着地に失敗。見事に転んで泥だらけになっていた。


「もー。格好つかない! けどふたりが無事で良かったです!」

「あ、ありがとうございます……」

「魔法少女さん、ありがとう……」


 立ち上がったライナーに泥だらけの笑顔を向けられて、彼方も更紗も呆気にとられた顔をしている。


「よし、ふたりとも逃げよっか。この先水たまりとかあるだろうから、車椅子だと大変だよ。運んであげるね! よっと」

「あっ! ちょっ!」


 ライナーが更紗の体を抱え上げた。

 最近よく見る、というかよくやる体勢。お姫さま抱っこだ。


「かな、じゃなかった。お嬢さんはわたしについて走ってきて!」

「は、はい!」

「おい! ライナーどこに行くんだ!?」

「ちょっと安全なところまで! すぐ戻るから!」


 ライナーが自慢の脚力で、けれど彼方を引き離さないよう速さを調整しながら、ニコニコ園の方へ駆けていく。

 仕方ない。追いすがろうとする黒タイツの首を掴んでナイフを刺し、殺しながら見送った。



――――



 助けてくれた黄色い魔法少女、シャイニーライナーを追いかけるように彼方は走る。ニコニコ園までの道にそんなに自信がないから、こうやって先導してくれるのはよかった。

 ライナーも、普通の女の子な彼方の足に合わせて走ってくれてるし。大きな水たまりをひとっ跳びで越えた時は、さすがに真似できなかったけど。


 でも、怪物を放置して飛び出して良かったのかな。仲間と一緒に戦うよりも、わたしたちを助けるのが優先なのかな。


 さっき、ライナーは彼方の名前を呼びかけた。なんで知っているんだろう。そんな疑問が頭の中に引っかかっていた。


 それにライナーの走り方。妙に見覚えがあった。彼方の大好きな走り。夢にまっすぐ向かっていた、迷いのない走り。

 もしかして、魔法少女シャイニーライナーの正体って。


「着いた! すいません! この子たちびしょ濡れで! タオルください! 着替え……はさすがにないですよね!」


 彼方たちの素性も知らないのに、ライナーはなぜかニコニコ園に迷いなく走って駆け込んだ。そして中の構造を知っているかのように歩く。

 彼方もそれに続いた。夕暮れ時の土砂降りの外と比べれば、蛍光灯が輝く屋内のなんて安らぐことか。


「とりあえず、この椅子に座って、ね?」

「う、うん。ありがとう……」

「どういたしまして! ほら、タオルで頭拭いて。暖房ガンガンかけて暖かくしようね!」

「あの。あたし、手が」

「みたいだね! 手足が動かない病気、なんだよね?」


 ライナーの問いに、更紗がゆっくりと頷く。


 あまり嬉しくはなさそうな表情。自分の不自由さを自覚させられるから。


「そっかそっか。でも、あなたも少し工夫すれば、普通になれると思うな」

「普通……?」


 言われた意味がわからない様子で、更紗は首を傾げる。そんな彼女に、ライナーはしゃがんで目線を合わせた。


「そう。普通。ここの周りの子供たちや、学校の障害者じゃないお友達と同じような、普通の生活ができる。そんな普通の人に」

「そんなの! 無理よ! 動けないのに!」


 更紗が日頃から気にしていること。地雷を真っ直ぐ踏み抜いたライナーに、更紗は声を荒げた。


 また繰り返すのか。園内が静まり返る。彼方も動きかけた。けど、ライナーがこちらを少し向いて微笑んだのを見て、止まった。


「うん。辛いよね。あなたも、周りの理解がない生活を続けてたんだと思う。すごく辛かったはず。よく頑張ってきました。偉い」

「あ……」


 優しく頭を撫でられて、更紗の怒りはどこかに消えてしまったようだ。代わりに、目から涙が溢れ出してきた。

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