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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-43.下校してから

「ねえ悠馬。態度を改めさせたって?」


 電話を終えた俺に、遥は気になった所を尋ねた。

 そうだな。さっきあったこと、あまり話せてないもんな。


 大したことじゃない。少し脅かしてやって、お礼を言えるようになっただけ。怪物が出たという特異な状況と、年上の男に半ば強要される形で言っただけ。

 それでも、お礼を言えば素直に相手が喜んでくれる事実を、更紗は少しは知っただろう。


「そっか。……あの子には、あのまま周りも自分も不幸にしちゃうような人生は送ってほしくないって思ってて」

「うん」

「悠馬も、わたしの希望をわかってるから、こうやって協力してくれたんだよね」

「まあ、そうなるかな」

「ありがと、悠馬。さすがわたしの彼氏です!」

「あくまで見せかけだけ、付き合ってるって話だろ?」

「でも、彼氏は彼氏だから」

「そうか。そうなるのかー」

「ふふっ。悠馬大好きー!」

「おい。抱きつくな!」

「彼女だからこれくらい普通です!」


 本当に嬉しそうな満面の笑みで、車椅子から俺に飛びついてくる遥。

 柔らかな胸の感触に意識を向けないよう努力しながら、片足の彼女を支えるために腕を回してやった。






「すまない。駆けつけられなくて。こいつが離してくれないんだ」

「だってー! ラフィオって怪物を倒したら、絶対その後悠馬さんの所に行くじゃん。わたしの所には戻ってこないから!」

「当たり前だ。お前となんか一緒にいたくない」

「やっぱりー! もう離さないからね!」

「やれるものならやってみろ!」


 つむぎの手から脱出したラフィオは、少年の姿に変わってモフリストを迎え撃つ。

 彼女の両手を掴んで押し返しながら、顔をぐっと近づけた。まるでキスする時のような距離感で。


「うぇっ!? ら、ラフィオ。なになに!?」

「つむぎ」

「は、はいっ! なんでしょう!?」

「ふー」

「ひゃんっ!?」


 少し顔を逸したラフィオが、つむぎの耳に息を吹きかけた。

 かわいい悲鳴と共に力の抜けたつむぎの体をソファの上に押し倒すラフィオ。そのままくすぐり攻撃に移行した。


「こちょこちょー」

「わひゃー! ラフィオ! だめ! くすぐったいー」

「いつも僕をモフモフしてるお仕置きだ!」

「あはは! やめて! わかったから許してー!」

「わかってないだろ!」

「ひゃー!」


 帰宅後、昼の戦いに来れなかった、特に誰も気にしてないことへの釈明を口にしてから一分足らずでこれだ。

 仲いいよな、このふたり。


「樋口さん来るんだっけ。じゃあその分も作らなきゃねー」


 つむぎと激闘を続けるラフィオが夕飯を作れないと見た遥は、当たり前のように松葉杖でキッチンへと向かう。

 今日も家族と一緒にいてやるべきだと、下校の時に言ったのだけど。


 もちろん、ちゃんと自宅には一度寄った上でここに来ている。

 公には、遥は彼方が中学校でどんな会話をしていたか知らないことになっている。だから、きっと頑張ったんだろうと抱きしめながら褒めるだけだった。


 それだけで良かった。彼方も、大好きな姉の胸に顔を埋めて泣いていた。遥は妹を慰めた。

 それで満足なようだった。


 一方で、今回の事態が解決したわけじゃない。樋口の調査結果は聞きたい。だからここに来た。


 遥が夕飯を作り終えたくらいのタイミングで、樋口は愛奈と一緒に帰ってきた。手には、コンビニで買ってきた大量の酒の缶が入ったビニール袋。


「ただいまー。悠馬! これ冷やしといて! あとお酒注いで!」

「今持ってるそれを直接飲め」

「やだー! 悠馬に注いでほしいの! お願いします!」

「まったく……」

「悠馬。お姉さんのこと、あんまり甘やかさない方がいいよ?」

「わかってるよ。甘やかさないうるさいから。あんまりわがまま言うと、その時はフライパン使って黙らせる」

「そっかー」

「あ、あの。悠馬。あんまり怖いこと言わないでほしいなー、なんて」

「遥、フライパンは洗ったか? 持ってきてくれ」

「ひえー!?」

「ねえ。調査結果知りたくないの? せっかく持ってきたのに」


 そうだった。樋口の話を聞かないとな。


 食卓に夕飯が並ぶ。愛奈のコップにはビールが注がれている。


「まず最初に、坂本更紗は家には帰っていないわ。今夜は親切な人のお世話になってる。教師が家まで送り届けようとしたけど、拒否したの」

「そうか。じゃあ、彼女などこに?」

「近くの福祉施設の園長の家よ」

「ニコニコ園?」

「ええ。そう呼ばれてるみたいね。中学校の教師が、坂本更紗がそこのお世話になっていることは知っていたようなの。相談したら引き受けてくれたらしいわ。数時間前のことよ」

「さっきとは……夕方?」

「ええ」


 窓の外を見る。日はとっくに暮れて夜になっていた。


 中学校が下校の判断を下したのは昼前だ。教師たちは坂本家に連絡を取ろうとしたけど、彼らも受け入れようとせず、更紗自身も拒否した。

 困り果てて、けど教師たちも緊急事態の前で他の仕事も山積みになっていて。更紗に構う暇もあまりなかったはずだ。


 夕方になって、障害者福祉施設に頼ろう思いつくまで、時間がかかったことだろう。その間、更紗は心細い想いをしてたのだろうな。


「とりあえず今夜の居場所は確保できた。明日からはどうなるかわからないけどね」

「そうか。……親元に戻すってやり方は、誰も取ろうとはしないだろうな」

「ええ。教師たちも、園長も気が進まないでしょうね。じゃあどうするかは、誰にもわからないでしょうけど」


 更紗は今、行き場がない状態だ。それでも、彼女のことをろくに愛してなかったと思われる親の所に行くよりは、まだ良かったと思う。

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