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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-38.かわいそうな子供

 うん。つむぎもラフィオも来れないな。

 同じように授業中の剛先輩も来れない。樋口は来るかもしれないけど、坂本家の調査で忙しいかも。


 しかたない。俺が頑張るしかない。


 覆面を被って階段を駆け下りる。途中、ザワザワと生徒たちの声が聞こえて身を隠した。

 近くに怪物が出たということで、避難している途中なのだろう。避難場所は校庭か体育館のはず。どちらも駐車場からは校舎を隔てているから、ライナーが頑張っているならフィアイーターがくる心配はない。


 黒タイツが校舎に入ってくる可能性はあるかな。


 彼方たちも、今頃避難しているはずだ。面談は一時中断だろうし、彼方の両親は娘の安全を第一にして逃げようとするはず。

 一応、黒タイツに襲われていないか確認するために、最初は校長室に向かう。その後、校舎内や生徒に襲いかかろうとする黒タイツを討ちながら、ライナーがフィアイーター本体を倒すのを待とう。


 避難する生徒たちの波をやり過ごしてから、俺は校長室に向かっていった。



――――



 警報が鳴るのと、校長室の騒ぎに先生たちが駆けつけてくるのはほぼ同時だった。


 校長先生は先生たちに、生徒の避難をさせるように指示をした。それから室内の大人たちに、今はひとまず逃げるようにと、お願いするように語りかけた。


 彼方の両親の動きは早かった。テーブルの上から降りて逃げなさいと促した。

 それに従いながら、彼方は周りを見ていた。


 校長先生は他の先生たちに呼びかけるべく、職員室に移動していた。そして自ら校内放送のマイクを取って、落ち着いて避難するように語りかけている。

 桂木先生は、椅子に座ったまま動けないでいた。呆然としている様子だ。先生失格と言われたのが、そんなにショックだったのかな。


 そして、さっきまで騒いでいた男の人は。


「おい、なあ。誰か。どうしたら」


 突然の出来事に狼狽えている。

 誰も自分に注目せず、他のことの対処で精一杯になった途端に、どうすればいいのかわからなくなったらしい。


 そこに。


「フィアァァァァァァ!」


 窓の外から怪物の声が聞こえた。


「ひえっ!?」


 甲高い、迫力とは程遠い悲鳴をあげて、彼は一目散に逃げ出した。


 その際に、彼の体が車椅子に当たった。勢いがあったし体重もそれなりだったから、車椅子はひっくり返って、更紗の体が床に投げ出される。

 あの人、本当に更紗のために怒ってたのかな? 怒って他人を怯えさせて威張れるチャンスがあったから騒いでいただけなんじゃないかな。


 だから、人を怯えさせていた割にはすぐに逃げた。


「あ! 待って! 待ってよー!」


 更紗のお母さんが、あの人を追いかけて走っていく。


「お母さん、待って……」


 母親に向けて、地面に投げ出された更紗が手を伸ばそうとして、できなかった。だって体が動かないのだから。


 置いてけぼりになった更紗は、顔を真っ青にして力なく横たわっていて。

 助けようにも、彼方にはできなかった。両親に促されて避難したから。お父さんもお母さんも、更紗のことは頭から抜けているようだった。


 彼方のことが大事で、見えてないのだろう。それか、先生の誰かが助けてくれるだろうから娘を優先しているだけ。

 事実、桂木先生もまだいるし。


 だから彼方は、横たわる更紗から離れていくしかなかった。



――――



「フィー!」

「おっと」


 校長室のある二階に到達した途端に、こちらを見つけた黒タイツが襲いかかってきた。掴みかかる手を回避して逆に掴み返し、壁に叩きつける。


 一撃では死ななかったから、何度か繰り返した上で、倒れた黒タイツの首に体重をかけて折る。


 武器があればよかったのだけど、ナイフ遥の車椅子は高校においてきた。中学校の廊下には武器はない。

 既に避難は完了しつつあるようで、この階に人の気配はない。黒タイツは校舎内に既に入っているわけで、油断はできないけど。


 扉が開きっぱなしの教室に入り、掃除用具入れから箒を一本取り出してから校長室に向けて走る。


「フィー!」

「フィー!」

「こ、来ないで! あっち行ってよ!」


 黒タイツの声と、聞き覚えのある少女の声。

 更紗が襲われていた。


「おい!」


 黒タイツに声をかけると、奴らは一瞬だけこっちを見た。その隙に肉薄して、そいつの首を箒の柄で突く。怯んだそいつは一旦放置して、もう一体の頭部に向けて箒を振る。

 致命傷にはならない。黒タイツの一体に全力の体当たりをして壁にぶつけた。もう一体が更紗に襲いかかっていたから、体を反転させてそいつを蹴飛ばし、扉が開いたままの校長室にぶち込んで扉を締めた。


「おい、怪我はないか!?」

「ない! けど動けないの! 障害者なのよ! 助けて!」

「こいつらを殺してからな!」


 倒れた黒タイツの胸を箒で押さえつけながら、頭部をガンガンと蹴って衝撃を与える。首が折れたのか、存在しない脳が傷ついたのかは知らないけど、やつは死んで消滅してしまった。


「早くここから連れて行ってよ! 歩けないの!」

「そうか」


 黒タイツはまだいる。そいつを殺すのが先だ。校長室に入ろうとしたけど、更紗は黙らない。


「ねえ! あなた正義の味方なんでしょ!? 魔法少女と一緒に人を守るのが仕事なんでしょ!? 早く助けて!」

「言っておくけどな」


 更紗の前でしゃがんで、凄む。こいつは、覆面男が遥の隣にいた先日の男だと知らない。有名人として説教するチャンスだ。


「俺が戦って人を助けているのは仕事だからじゃない。善意でやってるんだ。市民が俺たちを応援してくれているのは、確かに気持ちいいな。だが、お前みたいな人間はどうだ? 逆の立場になった時、助けてやろうって態度になってると、自分で思うか?」

「そ、そんなの。わかるわけないでしょ! わたし障害者なのよ! かわいそうなの! だから!」

「らしいな。けど、世の中にはもっと立派で助けたいって思える障害者は山ほどいる。お前は違う」

「待って! 置いてかないで! なんで、なんでみんな、あたしを置いて……」


 本当に、この子の母親はどうしたんだろうな。避難するのはいいとして、なんで娘を放置してるんだ。

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