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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-37.パンダの遊具

「更紗は! わたしが車椅子動かしてあげてるのに今まで感謝なんかしたこと一度もなかったの! 遅いとかのろまだとか雑とか言い続けて! あんたこそ、どんな教育してるの!?」


 更紗の母親に向かって吠える。反撃が来るとは思わなかったのか、彼女は大きくたじろいだ。


「先生も! 更紗のこと知ってたくせに! なんで他の子がお世話しないのか知ってて、なにもしなかった! わたしに全部押し付けてた! 教師失格です!」


 先生も呆気にとられていた。変なの。人には好き勝手言ってたのに、自分が言われることを想像もできてなかったなんて。


「とにかく! わたしは悪くない! なにも悪くないの! この前のだって、更紗がお姉ちゃんを馬鹿にしたから! だか、だから! だから……」


 もっと言わないと。自分の考えを、みんなに伝えないと。

 なのに、なぜか涙が溢れてしまう。普段、こういうことしないからかな。自分の考えを口にしようとすると、勝手に涙が出てしまい、それ以上は喋れなくなってしまう。


 わたしは。わたしは……。


 なんとか口を開いた、その時。


「フィアアァァアアアァァァアァアア!!」


 恐ろしい声が、校長室を震わせた。直後に、みんなのスマホが一斉にアラームを鳴らした。



――――



「よくできました、彼方!」


 胸糞悪くなるような大人たちの説得を聞いていて、すぐにでも妹を助けに行きたがってたライナーは、彼方の啖呵への褒め言葉を吠えた。

 たぶん、彼方には聞こえてないけれど。


「よし、じゃあ彼方の所に行ってくるね!」

「おいこら。待て」


 駆けだそうとするライナーの肩を掴んで止めた。魔法少女の力に勝てず引っ張られてしまったけど、ライナーは止まってくれた。


「必要ないだろ。もう彼方は、大人に怯んだりしないよ」

「うん! さすがわたしの妹! でもほら、なんか情緒が乱れて泣いちゃってるし。助けにいかないと。それは、悲しかったり罪の意識から泣いてるわけじゃないんだよ。気持ちが高ぶると涙が出るものなんだよって教えてあげるの!」

「わかった。わかったから」

「彼方は自分の気持ちを押し隠してきたんだね。気持ちを出すのに慣れてないから、ああなっちゃう」

「そうだな。けど、言えた」

「うん。今度はわたしがどうにか手助けを――」

「フィアアァァアアアァァァアァアア!!」


 なんでこんな時に出るんだ。聞きたくない咆哮が耳に入った。


「よし! 近くにフィアイーターいるってことだよね!? そのどさくさに紛れて、彼方のところに行っても」

「落ち着け。お前はフィアイーターを倒すのが仕事だ。彼方のことは俺に任せてくれ」

「悠馬がいるなら仕方ない。フィアイーターはどこ?」


 スマホを見る。警報画面には、市内の公園に出没した怪物が中学校に向かっていると書いてあった。

 この学校の裏手には小さな公園がある。本当に小さくて、砂地の他は橋の方に小さな遊具が三つおいてあるだけ。バネの上に寝そべってるパンダと馬と蜂の、上に乗れるやつが三つだ。


 周りを見回せば、ボインボインというバネの音が聞こえてきた。あの遊具がフィアイーターになったのか。駐車場の方からだな。


「フィアアアァァアァァァ!!」


 駐車場に、パンダ遊具が大きくなった姿で、バネで跳ねながら登場。黒タイツを何人も引き連れている。

 停まっている車を次々踏み潰しながら校舎の方に近づいている。潰された中には、坂本家の黒いワゴンも含まれていた。ざまあみろ。


 寝そべってるパンダ自体、そのワゴン車くらいに大きくなっているから迫力がある。周りに黒タイツもいるし。


「ライナー。あのパンダが校舎の中に入るのを止めてくれ。中の子供たちが危険にならないように。彼方のことは俺に任せてくれ」

「うー。わかった! 行ってきます!」


 逡巡した様子のライナーは、この屋上に続く階段がある建造物に目をやる。そこに駆け寄って扉を蹴飛ばした。鍵がかかってるもんな。


 俺が出入りできるようにした後、彼女は素直に駐車場へと飛び降りていった。


 俺は階段から校舎内に入る。土足で上がることになるけど、緊急事態だ仕方ない。

 それから愛奈たちにメッセージを送った。既に向こうもフィアイーター出現は察知してるだろうけど、来るまでどれだけ時間がかかるかはわからなかった。



――――



「よし! 課長! 外回り行ってきます! 麻美! 車を用意して!」

「はい先輩!」

「フィアイーターはささっと倒してくるから、客先の駐車場の前で待っててね」

「はい! 先輩頑張ってください!!」



――――



 愛奈はすぐにでも駆けつけてくれるだろうな。つむぎは……無理かな。



――――



「む、出た」


 ラフィオはフィアイーターの出現を察知。どこに出たかはわからない。この小学校では、授業中はスマホを先生に預けることになっているから。給食後の休み時間まで、つむぎのスマホは戻ってこない。

 直後に、担任の先生のスマホが鳴った。


 ここから離れた位置での出現だったから、先生はすぐに警報を止めて授業を再開した。


 その様子を、机の横に掛けられている手提げかばんの中から見ていたラフィオは、つむぎに目をやる。

 さすがに授業中に、つむぎを外に出すわけにはいかない。だったら。


 鞄から、机の中に飛び移って小声で話しかける。


「僕だけ行くから、お前はここで授業をぐえっ」

「やだ。今日は一日ラフィオといる」

「ぐえー」


 授業中。自分の存在は秘密。だから、無理やりつむぎの手を振り払うわけにはいかない。

 小さな妖精の姿で、わがままなつむぎに握られ続けるしかなかった。

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