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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-28.喧嘩の後で

「落ち着いたか、彼方」

「はい……ごめんなさい。カッとなってしまって」

「そうだな」


 まだ、外は雨が降っている。施設の建物から出て、軒の下で雨を防ぎながら彼方の頭が冷えるのを待った。

 ふたりで並んで立って、ぼんやりと敷地の外に目をやりながら会話する。


「気持ちはわかる。あの言い方はないよな」

「はい……わたし、坂本さんに謝りたくありません」

「そっか」

「え」

「なんだよ」


 彼方が驚いた顔をこっちに向けたから、俺はその真意を尋ねた。


「謝りなさいって、怒るものだと思うんです。人を殴ったんですよ? 学校だと、先生は最初に謝れって言います」

「俺は親でも先生でもないから。それに謝る前に、まずは事情をちゃんと聞くところから始めないと。教師が上から目線で謝るよう命令して、それで終わりじゃ何も解決しない」

「……はい」

「桂木はそういう教育、してないんだろうな」

「桂木先生のこと、知ってるんですか?」

「まあ。俺もあの中学通ってたから」


 そして、俺の家庭にあった不幸と、桂木の対応を手短に話した。


「そんなことが。でも言いそうですね、あの先生」

「今もそうなのか?」

「はい。生徒のこと、あんまり見てないというか」

「教師失格だよな」

「あはは」


 笑顔を見せてくれた。怒りは引っ込んだらしい。


 けど、不安は未だに心の中で渦巻いている。よく見ると、微かに震えていた。


「でも、結局は怒られるんだろうな。悠馬さんは優しいですけど、大人は」

「俺が庇ってやるよ。彼方の両親は、たぶん今から迎えが来るはず」


 ちらりと園内を見た。先生とテレビクルーがお互い恐縮したように謝り合ってる。子供たちは、しんと静まり返っていた。


 愛奈はどこにいるかな。遥や更紗の姿もなかった。別々の部屋に隔離されているのだろう。

 暴力沙汰だ。お互いの保護者に連絡がいってることだろう。で、迎えにくる。


「彼方が親と対面する前に、俺が話ししてやるよ。後ろに隠れてろ」

「う、うん……坂本のお母さんは?」

「どうしよっかな。娘にどんな教育してるんだって逆に怒鳴り返してやろう」

「なにそれ。ちょっとおもしろいかも。学校ではどうするの? 先生が怒るかも」

「俺が乗り込んでやるよ。四年前の恨みを晴らすチャンスだ。先生として失格だって言ってやる」

「あはは」


 実際にそうできるとは、彼方も思ってもないのだろう。俺だって、四六時中彼方を守るために一緒にいられるわけじゃない。


 卒業生とはいえ、俺が中学に乗り込んで教師に喝を入れる? 無茶苦茶だ。現実的ではない。

 桂木のことは嫌いだし可能なら思いっきり罵倒してやりたいのは事実だけど、所詮はさっきまで忘れてたような恨みだしな。


 でも、とりあえず彼方を元気づけることには成功した。


「彼方。一番大事なことは、自分が悪かったと認めないことだ。あの女がどれだけ酷いことを言ったのか説明して、彼方に謝らせて終わりにしようとする大人を黙らせろ。肩を持つのかって言ってやれ。彼方が納得するまで、素直じゃない生意気な子供になれ」

「はい! 頑張ります! 生徒会長を目指さないわたしは今、無敵です!」

「ああ。格好いいぞ」


 できれば、彼方には生徒会長やってほしいんだけどな。対価として労役を課されることなく、なるべきだ。

 けど当面の問題を解決する間は忘れておこう。


「そろそろ、誰かの迎えが来る頃かな」

「そうですね。お父さんたち、電話があったら飛んできそうですし」


 ふたりして、外に目をやる。そして気づいた。

 誰かが、敷地の外からこっちを見つめている。神箸夫妻ではない。


 雨の中、傘を差しているし距離があるから顔はよく見えない。体格から男だとは思う。

 施設の中を見つめているようだった。


 子供たちの誰かの父親なら、さっさと入ってくればいいのに。その様子はない。

 さっき愛奈から言われたことを思い出す。こういう子供が集まる施設を覗こうとする不届き者がいると。


「あいつまさか」


 呟きながら一歩前に出ると、その動きで奴も俺に気づいたらしい。そそくさと立ち去っていった。

 マジの不審者だったのか?


 それと入れ替わるように、今度は見覚えのある車が来た。遥の家のガレージに停まっているのを見たことがある。

 つまり両親が来たということだ。事実、夫婦揃ってこっちに駆けてきた。


「よし、彼方下がってろ。俺が話ししてやる」


 全部は実現不可能でも、今庇えることはやっておこう。

 彼方の前に出て、両親と対峙して。


「お父さん、お母さん。彼方は」

「彼方!」


 俺は一瞥もされず、夫婦は横を通って彼方に抱きついた。


「ごめんね。大変だったのね。気づかなくて、本当にごめんなさい」


 母親の優しい声。そして、彼方を慈しむように抱きしめて、頭を撫でる。

 部外者の俺は最初から必要なかったようだ。


「いいの。助けてあげる必要ない子の相手なんて、しなくてもいいの。彼方は悪くない。お姉ちゃんを庇って、偉い」

「うん。うん! お母さん! お父さん! あのね、わたし、わたしっ」


 それ以上は何も喋れず、わんわんと泣き出した。


 俺なんかが励ますより、ずっと一緒にいる家族の方が信頼できるし、甘えられる。家族って、そんなものだ。

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