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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-27.あんたは道具

 薄情者の俺が、あんな奴は放っておけと言うべきなのに。遥の希望を尊重してしまった。


「更紗ちゃん、騒がしくてごめんね」


 子供たちが中に戻って、各々自由に遊び始める。部屋の隅で相変わらず微動だにせずスマホの画面を見ていた更紗は、うっとおしいという様子で壁の方を向き直った。

 首だけ動かして、だ。車椅子自体を動かすことも、体全体の向きを変えるのも難しいのかも。


 そんな更紗に、遥は自力で車椅子を動かして近づいていく。やめろと、俺には言えなかった。


「ねえ。あなたのこと、教えてくれないかな。彼方と仲良くしてくれてるって聞いて、なんか放っておけなくて」


 更紗は、ちらりを遥の方を見た。無視したいのだろう。けど、ニコニコと笑顔を浮かべながら見つめている遥が、すぐにはいなくならないことを察した。

 俺の知らない動画配信者がテレビのバラエティの真似事をしている動画を止めて、更紗は首だけ動かして遥の方を向いた。


「仲良くなんかない」

「えー? でも、毎日車椅子押してもらってるって聞いたよ? 仲良くないとできないよね?」

「そんなんじゃない。あの子がクラス委員だからやってくれてるの。放っておいて」

「駄目。妹がお世話になってるんだし、ここはもう少し仲良くしないとなーって思ってます!」

「ふんっ。仲良くなんか、望んでない」


 年上の遥に対して、睨みつけるような目を向けた。


「ええ。神箸から聞いているわ。車椅子の姉がいるって。障害者なのに、かわいそうじゃない子だって」

「うん。そうだね。自分がかわいそうだって思ったことはないかな」

「馬鹿みたい! あんたは恵まれてるの!」

「っ!」


 その剣幕に、遥はたじろいでしまった。


 さっきも言われて、自覚していた事実を再度指摘されただけ。

 遥はそれを受け入れた上で、更紗を諭せると思っていた。友達になれると思っていた。


 考えが浅かった。それだけ。


「あんたはいいよね。無くなったのが片足だけ。あとは健康。なのに大袈裟に車椅子なんか乗って。馬鹿みたい! わたしはね、全身動かないの! わたしの方がずっとかわいそうな体なの! そのうち、何も動かなくなって、息もできなくなるの!」

「おい。それくらいに」

「恵まれてる奴は黙ってて!」


 止めようとした俺にも、更紗は首だけ動かしてこちらを見て声を荒げた。


「好きに動き回れるあんたにはわからないの! なのに偉そうなこと言わないで! どうせ、同情してもらえるから車椅子乗ってるんでしょ! 本当は自分で歩けるくせに! ずるいのよ!」

「ちがう。わたしは、歩けるけど、でも」

「病気でもないくせに! テレビカメラなんか引き連れて威張って! 馬鹿みたい! あんたは、人の気持ちなんか考えたことないんでしょ! だから今みたいに、人に――」


 ガタン。大きな音がして、更紗の車椅子がひっくり返った。更紗は壁の方に投げ出されて、側頭部がぶつかる。


「お姉ちゃんを! 悪く言うなっ!」


 更紗の体が力なく投げ出され、壁にもたれかかるように座りこんだ。


 彼方は踏み込んで彼女の肩を掴んでこちらを向かせ、顔面を殴った。車椅子をひっくり返したのも彼方なんだろう。

 明らかに、人を殴り慣れていない弱々しいパンチ。けど受ける側も不意打ちな上、普通の人間以上に無力な障害者。


 バタンと音を立てて仰向けに身を投げ出す形になった更紗を、彼方は見下ろした。目を吊り上げて、抑えようのない怒りを見せていた。


「あんたがクズなのは! あんたの勝手だけどね!」


 言いながら、腹を思いっきり踏みしめた。


「おぐっ。ぐえっ」

「障害者だからって何言っても許されると思わないで! お姉ちゃんを馬鹿にしないで!」

「あ……かはっ」


 足を上げて、再度踏み下ろす。そして三度目はさせなかった。


「彼方! やめろ! 落ち着け!」

「悠馬さん離して!」

「駄目だ! 腹が立っても、暴力は駄目だ!」


 ああ。駄目なのはわかってる。普段、暴力で怪物どもを殺してる俺たちが言えたことじゃないことも、承知してる。


「こ、こいつ! わたしを蹴った! 障害者を」

「ええ! 人間のクズを蹴ったの!」

「覚えてなさい! 学校に言いつけてやるから! 生徒会長になれなくしてやる!」

「やってみなさい! そうしたらあんたのお世話係もおしまい! 誰も相手してくれなくなるんじゃない!?」

「あ……」

「ううん明日から、あんたの車椅子触るたびにひっくり返してやる! 誰か助けてくれる人がいればいいけどね!」

「あ、え」

「そうだよ! あんたはわたしが生徒会長になるための道具! ただの飾りなの! 今、あんた自身がそう言ったんだから! 自分のことよくわかってて偉いね!」


 周囲が騒然とする中、彼方は俺に引きずられながらも更紗と罵倒し合っていた。

 途中からは、彼方が一方的に言うだけになってたけれど。地面に投げ出されたままの更紗は、寂しそうな、そして泣きそうな顔をしていた。


「姉ちゃん。マスコミ対応」

「あー。ええ。わかったわ」

「あと、遥をどこか別の場所に移動させてくれ」

「……ええ」


 少し迷った様子の愛奈は、結局遥の方に駆け寄る。


 遥はといえば、車椅子の上で呆然として、微動だにしなかった。

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