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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-26.遥は優しい

 生徒に面倒を起こしてほしくない。何事もなく今日を過ごしたい。そういう男だ。

 だから一応は話しかけて、それ以上は何もしなかった。


「確かにねー。三者面談やった時のこと、ちょっと思い出したわ。大変ですね、で終わりだったわね」

「だろ?」


 愛奈が俺の保護者だから、三者面談なんかは時は喜々として仕事を切り上げてやってくる。


「悠馬がそうやって苦しんでたなんて、気づかなかった。ごめんなさい」

「いや。俺が言わなかったんだ。悪いのは俺の方だ。ごめん。それにあんな奴、別にいなくてもどうだってよかった」


 時が経つにつれて悲しみは癒えて、普通に学校生活を送れるようになった。やる気のない教師に、私生活に踏み込んでほしい気もなく、あの男の手を借りることなく一年を過ごせた。

 社会人になりたてで苦労ばかりの愛奈に、学校のちょっと嫌な教師について話して心配なんかかけたくなかったし。


 たぶん、彼方も似たような考えなのだろう。家族に心配をかけたくない。大好きな姉も車椅子で苦労しているのだし。


 そうだ。今大事なのは彼方のことだ。


 ずっと、誰にも相談できずに問題を抱え込んできた彼女に、寄り添ってあげないと。


 今思えば兆候はあったな。遥にやたら懐いていたのは姉妹だからだけではなく、まともな障害者に向ける好意でもあったのだろう。

 そんな大事な障害者を、自分の手の届かない所で世話している俺に対抗意識を持つのも理解はできた。


「そんな先生が、あんな面倒な生徒に真摯に向き合うはずがないのよね」

「ああ。だから彼方にだけ負担がかかってしまってる」

「あの……更紗だっけ。その子自身にも問題はあるわよね」

「それは間違いない。あいつが、もっと礼儀をわきまえてれば、もう少し事態は簡単だった」

「でも、あの子だけに責任を負わせるのも違う。そう思ってるでしょ?」

「うん。思ってるのは、俺というよりは……」

「ええ。そうね」


 残念ながら、俺は少し冷たい性格をしていた。坂本更紗も桂木という担任も、悪人として断じてしまうことになんの躊躇いもない。


 その方が、彼方が楽になるのだとしたら。彼方が悪人の世話をすることなんかやめてしまえば、彼女の毎日は楽になる。


 彼方は、更紗がこの園に来ていることを知っていたのだろう。中学で話したことがあるとか。

 だから顔を合わせたくなかった。出くわした途端、下僕として使われるから。

 それを知らない俺たちが、仲いいところを見せつけて対抗意識に火をつけた結果、彼方はここに行くと行ってしまった。


 最初、更紗がここにいないのを見て彼方がほっとしたのは、そういうことだ。今日はいない日なんだと。実際には、遅れて来ただけなのだけど。


 彼方が遥に懐いて、車椅子使用者として褒めていた理由もわかった。

 学校よりも家庭だ。より身近に、人格者の車椅子使用者がいれば、そっちに肩入れするのは当然だ。


 彼方の考えはよくわかる。それが間違っているとも思わない。

 彼女が、嫌いな同級生の世話なんかきっぱりやめてしまうと言うなら、俺は応援する。


 そもそも、中学生に障害者の世話なんかさせるべきじゃない。それでうまくいかなくても、それは彼方が悪いわけじゃない。


 愛奈も同じ意見なのだろう。


 でも。


「遥は坂本更紗に同情してるのかな」

「みたいね」

「そんなの、しなくてもいいのに。礼儀のなってない奴は悪人だって、ばっさり切り捨てていい。彼方にそう教えてあげれば、大切な妹は楽になる」

「ええ。悠馬から言ってあげれば。遥ちゃんか、それか彼方ちゃんに直接」

「……そうするべきだよな」

「彼氏としては、遥ちゃんに言うべきよね」

「そうなんだけど、な」


 その遥が納得していないんだ。それに遥は、車椅子を使ってる当事者で、更紗に同情的。更紗を救いようのない悪として切り捨てるほど非情な人間じゃない。


「言いにくいんだよな」

「そうねー。説得の仕方は考えないとね」

「説得できるものかな」

「それは遥ちゃん次第ね。悠馬じゃなくてね」

「あいつは……優しいからな」

「あ、雨」


 ぽつんと、俺の手に雨粒が落ちる感触。愛奈も似たようなものを感じたらしい。

 そうだ。雨が降る予報だった。


 現実は、俺たちの事情を待ってくれはしない。


 先生たちが、みんな中に戻りましょうかと言っている。必要な子供は補助を受けながら、施設の中に向かっていく。遥も、彼方に押されていた。

 俺たちも、それについていく。そして向かう先には、更紗がいた。


「なあ、遥」


 中に戻る途中で、遥に声をかけた。その途端に、彼方は俺と交代するように車椅子のハンドルを話して、どこかに行ってしまう。

 仕方なく、俺は操作を引き継いで会話を続けることに。


 遥の方も、言われることはわかってる様子。


「悠馬。わかってるよ。あの子のこと。辛いよね。わたしなんかより、ずっと重い障害で」

「そうだな。けど、だからって人に、あんなことを言うのは間違ってる」

「うん。そうだよね。そこは誰かが怒らないと。大人が、だけどね」

「大人が」


 ああ。そうとも。彼女をとりまく環境を放置している大人が一番悪い。更紗の母や桂木が。


 遥は、それをよく理解できるほど賢かった。そして優しかった。

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