5-22.再びバドミントン
こういう場合、相手の顔を見ることで、取ろうとしているのがジョーカーか否かを探る駆け引きが重要。
しかし目がみえないなら、触れようとしているカードがどっちかなのか達也にはわからない。駆け引きが通用せず、純粋な運ゲーになる。
そして克彦は、カードの表側に手を伸ばして、凹凸を確かめるようなことはしなかった。相手は見えてないのだから、ちょっと触ったところでバレないだろうに。
卑怯なことはしない。そんな信念が感じられた。
「くっそー! 負けた! な、達也すごいだろ!」
「ああ。すごいな。驚いた」
結局彼は負けて、けれど誇らしさの方が上なのだろう。親友はハンデに負けない、すごい才能をもっていると、年上のお客さんに自慢したかった。
高校生の恋人について聞きたい気持ちよりも、友達自慢の方が優先度高いんだな。けど、どっちも気になるっていうのが、年相応でかわいいじゃないか。
「よし! 悠馬もう一回やろうぜ!」
「みんなー。外で遊ばないー?」
彼の提案を、遥の声が遮った。
「よっしゃ! サッカーやろうぜ達也!」
「目が見えないのに!?」
「ブラインドサッカーって知らないのかよ。高校生なのに」
「高校生が何でも知ってると思うな」
「ボールに鈴がついてて、場所がわかるんだ。それで、見えてる奴と見えない奴が混ざってサッカーする。パラリンピックの競技でもあるんだぜ」
「そうなのか?」
知らなかった。
目が見えなくても、ちょっと工夫すれば大抵のことはできるようになる、か。
「おっし! サッカーやろうサッカー!」
グラウンドに出ると、克彦がみんなに呼びかける。すると。
「もー! 克彦! 自分がやりたいだけでしょ!」
「いいじゃんか!」
「こういうのは、お客さんの遥さんに決めてもらうの!」
さっき、俺のこと彼氏ですかと聞いてきた女の子だ。いつの間にか、すっかり遥に懐いたらしい。
「遥さん、何したいですか!?」
「えー? サッカーでもいいよ? わたし、車椅子だから上手くできるかわからないけど」
「遥さんの得意なスポーツでいいですよ!」
「えー。じゃあ、バドミントン」
「またかよ」
「え? 遥さん、悠馬さんといつもやってるんですか!?」
「そうだよー。先週も一緒に遊んだもんね」
「先週だけだからな」
「悠馬も得意なんだよね、バドミントン」
「得意じゃない。遥よりはうまいだけだ」
「遥さん。もしかして悠馬さん、遥さんと一緒に遊びたいから、バドミントンの練習を?」
「んー。まあ、そうだね。そんな感じだよ!」
「おいこら。嘘をつくな。親指立てるな」
「もー。悠馬ってば照れちゃってかわいい!」
遥の周りには数人の女子が集まっていて、甘酸っぱい恋愛話にキャーキャー声を上げていた。
どうなってるんだよ、おい。
「さあ悠馬! どっからでもかかってきなさい!」
「すげえやる気だな」
「まあね! 悠馬がどれだけわたしに尽くしてくれる彼氏か、そしてわたしもどれだけ悠馬に尽くしてるか、見せなきゃだから!」
ラケットを高く掲げた遥が、愉快そうに宣言。
こいつ、俺の見てないところで好き勝手に恋バナしてたんじゃないだろうな。
というか、尽くすってなんだよ。
「この前と同じようにやればいいよ!」
「近い距離から始めてラリーをできるだけ続けるんだな」
「そう! 落ち着いてやってね」
「お前の方が舞い上がって見える」
「えへへー。ほいっ!」
「ほら」
「えいやー!」
「それ」
「にゃあー!」
「えい」
「にょわはー!」
「掛け声がおかしくなつてるぞ」
「むぎょわー! ふんぎゃー! みぎゃー!」
「遊んでやってるだろ」
「うん! 楽しい!」
「それは結構だけどや」
「あんぎゃー! むひょっはー! めんにゃー!」
「気が散るんだよなあ……」
「この方が楽しいのです! それに、運動量の少なさを声で補ってるの! にゃわっはー!」
「そうか」
遥が楽しく運動できているのなら、それで十分なのだけど。
実際、前よりはうまくラリーを続けられている。遥のいる場所に、弓なりの軌道を取るように打ち返すだけだ。慣れれば難しいことじゃない。
息は合っていると言っていいだろう。ギャラリーが多いことも、俺は少ししか気にならなかった。
遥に合わせて頑張ってる俺に、女子のキャーキャー言う声が聞こえるような気もするけど。俺はなんとか平常心を保てている。だから、気になると言ってもほんの少しだけなんだ。
「えっと、次は、次は……にゃわー!?」
掛け声に困っていた遥が、そっちに気を取られて慌ててラケットを振るまで、ラリーはちゃんと続いていた。遥の元気すぎて困る一面まで見せてしまったようだ。
ラケットはシャトルに当たって、俺のいる場所からだいぶずれた方へ飛んでいく。ちょうど、園の出入り口である門の方に。
「わたしが取ってきますね! 悠馬さん! そろそろ交代しましょう!」
「交代はいいけど、園の子供たちにも運動させてやれよ」
「そうでした!」
俺が動く前に、彼方が自分もやりたいとばかりに落ちたシャトルを取りに走る。俺も、彼方と交代するのは構わない。持ってるラケットを渡すために、歩いて追いかけていく。
屈んでシャトルを拾った彼方が前を見て、そして動きを止めた。




