表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

231/746

5-21.ユニバーサルデザイン

「遥さん、その後ろの男の人、もしかして彼氏さんですかー?」


 ふと、生意気っぽいというかちょっとませている雰囲気の、小学生の女の子がそんな質問をした。彼女は……なんの障害なんだろうな。見た目じゃわからない。

 クスクス笑いながらの、からかいまじりの質問に。


「そうです! 彼は悠馬! わたしの彼氏です! 家が近くで、バス乗る時に毎朝車椅子を押してくれるんだよー。わたしのまわりの、優しい人の代表です」


 堂々と言い切った遥に、子供たちがおおーっと声をあげる。


 そして質問した女の子は、隣に座っている年の近い女の子の肩を叩くと、手を動かして見せた。叩かれた方も笑顔になって、やはり手を動かす。

 手話だ。隣の子は耳が聞こえないのかな。よく見れば、部屋の隅に先生がひとり立っていて、遥の話しに合わせて手話をしていた。


 聴覚障害の女の子へ遥の言葉を伝えるのは、あの先生の役目。じゃあ少女たちがやっているのは何か。

 ごく個人的なお喋りだ。授業中に先生の目を盗んでヒソヒソ話しをする。あるいは手紙を回すみたいなコミニュケーションを、彼女たちは手話でやっている。


 普通の子たちと同じようにやってる。手段が少し特殊なだけ。


「だったら、キスとかもうしたんですかー?」

「もー! そういうの気にするのは、もうちょっと大きくなってからにしなさい!」

「えー! 教えてください!」

「内緒!」


 初対面の女の子と、ずいぶんと打ち解けた雰囲気で会話が出来ている。遥が、親しみを持って話せる相手だと悟った子供たちが、質問攻めに入ってきた。遥も根が明るい子だから、それにしっかり応えている。

 いい雰囲気だな。



 その後、交流を深めようということで、みんなで遊ぶことに。基本的には託児施設の面が強い場所だから、室内には玩具や本がたくさん置いてある。


「ねえ彼氏さん。これ、ぐちゃぐちゃにして」

「彼氏さんじゃなくて悠馬な。それより、ぐちゃぐちゃって……。ああ、なるほど」


 ひとりの小学生男子に声をかけられた。足を引きずりながら、こっちに歩いてくる。


 手渡されたのは、ひとつの面が九つに分割されて色分けされた立方体。いわゆるルービックキューブだ。

 色をバラバラにして、解かせろということか。


「君がやるのか?」

「ううん。達也が」

「達也?」

「あの、目が見えない奴」

「目が見えないのに、ルービックキューブが出来るのか?」

「出来るんだよ。見てなって」

「克彦。年上だよ。礼儀」

「なあ達也。これ解いてくれよ」

「まったく……ほら見て」


 渡されたそれは、色分け以外にも色に対応したマークが凹凸としてついていた。だから見なくても、マークを触って把握すれば解くことが出来る。

 こんなものがあったのか。


 事実、俺が何も考えずにバラバラにしたそれを、達也というサングラスをかけた小学生男子は平然と受け取った。

 しばらくは指先でキューブを弄んでマークを確認していたかと思うと、猛烈な速度で回転させ、あっという間に色を揃えてしまった。いや、彼からすると揃えたのはマークか。


「すげえだろ、こいつ」

「いや、なんでお前が自慢げなんだよ」


 もう一人の、足を引きずった少年、克彦が得意げな顔をする。


「友達の自慢は俺の自慢だ」

「生意気な奴だ」

「なあ。お前の彼女可愛いな」

「あー。うん。だろ?」


 話が唐突すぎる。さすが小学生、読めない。


「キスとかしたのか?」

「まだしてない」

「けっ。つまんねえな」

「うるさいぞ。ガキがそんなこと気にするなって、遥も言ってただろ。エロガキめ」

「なあ。キスってどんな感じなんだろうな」

「だから知らないってば。……やったら教えてやるよ」

「本当か!? 約束だからな!」


 俺も、小学生男子に懐かれてしまったらしい。


「なあ。高校生ってどんな感じなんだ? 付き合うって、どうやったんだ!?」

「めちゃくちゃ食いついてくるな」

「なあ。達也も聞きたいよな!?」

「うん。聞きたい」


 目が見えなくても、背伸びした話題がしたいのは普通の子供だな。


「よし。教えてくれよ」

「教え……てもいいけどな。それよりみんなと遊んでこい。子供は遊ぶのが仕事だ」

「じゃあさ、達也も一緒にトランプしようぜ。やりながら教えてくれよ」

「目が見えないのに、トランプ……?」

「そういうのがあるんだよ。これだよこれ」

「あるのか、触って判別できるトランプが」


 スートと数字が触れてわかるように、少し盛り上がって印刷してあるトランプを手渡された。

 これがユニバーサルデザインなのか。達也は、これを使って当たり前のようにババ抜きを始める。


「なあ。達也は、実は見えてるとかはないよな? 障害はあるけど、ちょっとは見えてるみたいな」

「いや。全盲だよ。何も見えない。真っ暗闇。光の弱い強いもわからないらしいぜ」

「そうなのか……」


 たしかにトランプをペタペタ触らないと確認できないらしい。だから見えてないのは確実。でもトランプは当たり前にできるらしい。

 ババ抜きを始めれば、彼は何の支障もなく引いた札を触って、数字が揃っていればそれを捨てた。それどころか。


「くそっ! 表情が読めない!」


 達也の手には、ジョーカーともう一枚。そして克彦の手にもカードが一枚だけ。一騎打ちの場面で、ジョーカーを押し付けられるか勝てるかの場面だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ