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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-20.愛奈と彼方

 子供向けの賑やかな光景だと思ったら、その裏に世知辛い事情が隠れているなんてな。


「愛奈さんはどうして、そんなこと知っているんですか?」


 愛奈の隣に来た彼方が尋ねた。


「ん? 取引先のおじさんの奥さんとか、お子さんが保育園で働いてたりするから。営業トークとかで話題が出たり……するのです。するの」


 彼方がやってきたことに、愛奈はちょっと戸惑い気味の返事をする。どんな話し方をすればいいのか掴みかねているというか。

 普段から普通のつむぎとも会話出来てるわけで、それに倣えばいいだけだ。


「もちろん、そんなに世知辛い事情だけでやってるわけじゃないけどねー。華やかな装飾ってだけで、十分に意味はあるのです」

「へえ。すごいんですね。愛奈さん、物知りですね」

「ええ。まあね。人と関わる仕事だからね」


 さすが営業職。対して親しくもないけど、親しい人と親しい人を相手に普通に会話できるようになっている。愛奈がすごい人なのかは、議論の余地があるけどな。


「お待たせしました! さ、行きましょう。遥ちゃんたちがセンターに向かっていく所、撮ってもいいかな?」

「はい! 悠馬に押してもらう感じでしょうか?」

「いえ、自力で動かしてください。悠馬くんと彼方ちゃんは左右に並ぶ感じで」

「わたしは画面に映らないようにするわねー」

「あ……」


 愛奈は事前に言っていた通り、スタッフたちの方に下がっていく。彼方が引き止めたいと言うように、一瞬だけ手を伸ばした。

 なんなんだろうな。愛奈に、なんでそんな懐くのだろう。


 当の愛奈は気づかない様子だった。


「初めまして、あなたが遥さんね。わたしが、このニコニコ園の園長です。今日はよろしくお願いします」

「はい! よろしくお願いします! 神箸遥です!」


 中年の人の良さそうな女が出てきて挨拶をする。遥も朗らかに挨拶を返した。こういう時に緊張しないのが遥の美点だ。


「ここはね、心と体にハンデを持っている子供たちが、みんな仲良く過ごす場所なのよ。小さい子だけじゃなくて、遥ちゃんみたいな年の子もいるわ」

「今日も来ているんですか?」

「ええ。けど、大勢は年下よ。遥ちゃんはここではお姉さんね」

「大丈夫です! わたし、常にお姉ちゃんなので!」


 笑顔でサムズアップ。園長先生はクスクスと品のいい笑い方をする。


「この調子なら、みんなとすぐに仲良くなれそうね。こっちよ。みんなも、お友達が来るのを楽しみにしているの」


 園長先生についていく。


 園内の廊下は広くて、段差も無い。車椅子で移動する人間がいるのは当然のことと考えているのだろう。遥は難なく園内を移動していた。

 きっと俺が理解できる以外にも、バリアフリーの工夫は随所に設けられているのだろう。


「神箸遥さん、こんにちは。ようこそ!」


 園内の広いスペースに、十数人の子供たちがいて、そんな歓迎のセリフを声を合わせて言った。


 俺たちと同じ高校生くらいの子はふたり。中学生くらいの子もふたり。あとはみんな小学生。低学年の子の方が割合としては少し多いか。

 身体と知的の障害者の割合は半々程度。程度も内容もそれぞれ違う。一見すると、障害者に見えない子供もいた。


 車椅子に乗っている子がひとり。中学生の男の子だ。足は二本揃っているから、遥とはまた事情が違うのだろう。

 彼の車椅子の車輪は、スポークを覆うように蓋がついていて、そこに子供が手掛けたようなイラストが描かれていた。


 ここの仲間からのプレゼントなのかな。彼は俺の視線に気づいて、微笑みながら車輪を撫でた。彼にとって、あの絵は宝物なのだろう。


「よかった……」


 遥が前にいて、俺と彼方は一歩下がった場所に控える。そんな彼方が、心底ほっとしたような口調で小さく漏らす。


 なんのことかは知らないし、彼方も言いたくはないのかもしれない。たぶん、ここに来ることを躊躇っていた理由と関係するのだろう。

 深くは尋ねないようにしよう。事態としては良い方向に転がったようだし。


「わたしはねー、去年の九月だから、もう半年以上前だね。ファミレスでガス爆発があって、左足がぺしゃんこになっちゃって、車椅子に乗ることになりました」


 遥が子供たちに自己紹介。ぺしゃんこか。

 事故の直後はかなり参っていたらしい。けど、子供に伝わりやすく、深刻な話しにならないよう、こういう表現を使えるのは遥の強さだ。


「車椅子になった時は、辛かったですか?」


 大きなサングラスをかけた小学生の男の子が尋ねる。子供にしてはいかついそれは、きっと彼の目が機能していないことを表している。

 目の焦点が合わない姿を見せたくないから、目を隠している。


「んー。そうだね。悲しかったよ。部活で陸上やってて、マラソンとかでいい成績残してて、結構期待されてたんだよね。それが出来なくなったのは、悲しかったな」


 それもまた、遥の素直な心情だ。俺もよく知らない、悩んでいた時期のこと。


「でも、車椅子でも運動はできるし、それに周りの人の優しさを知ることができたというか。そういう幸せもありました。みんな、わたしに親切にしてくれて。こういうのって、普通にしてたら絶対に気づかないことだから」


 ちょっと誇っているように、いい話に着地させる。


 障害を負っても元気に生きている女の子がテーマの映像だし、この訪問も同じ障害者に元気な姿を見せるのが目的のようなもの。


 遥はその役割を立派に果たしている。別に演じているわけじゃなくて、本心を話しているだけなんだけれど。

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