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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-15.セイバーは斬るのが得意

 とにかく事務所から離そう。俺はハサミを黒タイツに向けてぶん投げながら、持ち主がいなくなった箒を手にして黒タイツの喉を突く。

 殺せはせずとも、相手は大きく悶えた。体勢が崩れた所を、再度突いて転倒させる。ここから殺すにはどうすればいい? 箒を折って急所に刺す? 死ぬまで叩き続ける?


 考えている間に、その必要はなくなった。


「フィ……」


 俺の見ている前で、黒タイツは起き上がろうとしている最中に突如として力を失い、だらんと手足を投げ出したまま動かなくなった。直後に消滅していく。


「やったんだな、姉ちゃん」


 誰にも聞こえないように、そっと呟いた。



――――



 悠馬に抱えられて逃げた彼方が、遥には心配で仕方がなかった。

 家族の目さえなければ、変身して黒タイツたちを蹴散らせるのに。


 けれど両親がこの状況で、車椅子の娘から目を離すほど冷たい人間じゃないのはよくわかっていた。

 家族の愛情に感謝しつつ、もどかしい思いを抱えながら遥は避難していた。ここは、テレビ局のロケバスだ。


 危なくなればすぐに車で逃げられる。けれど、それでは孤立した彼方たちを置いてけぼりにしてしまうとかの理由で、とりあえず発車はせずに息を潜めるという方針になった。

 外に怪物はいない。今のところは、だけど。黒タイツは各方向に散らばっていきながら市民を襲っていたのだから、いつここに来るかわからない。


 スマホで悠馬たちと連絡は取れた。向こうはなんとか無事らしい。ほっと、安堵の息をついたところで。


「フィアアアァァァアアァァ」

「嘘でしょ……」


 フィアイーター本体の声が車内にまで聞こえてきた。


 あまり大きな個体ではないから、咆哮も大きくはない。それが聞こえたということは、近くにいるというわけで。


「いた! カメラ!」


 スタッフのひとりの声。駐車場の端にフィアイーターがいた。


 細長いウインナーに手足を生やしたようなフォルムは、あまりバランスがいいとは思えなかった。手足もよく見れば、ウインナーをむりやり引き伸ばしたみたいな質感だ。

 それが、黒タイツを率いるでもなく、ひとりでやってきた。


 変身すれば、あんな奴ひとりで倒せるのに。


 体がうずくように揺れる。それを優しい母は震えと受け取って、手をぎゅっと握ってくれた。

 フィアイーターは人を探してあちこちの車の中を覗き込んでいて。


「そこまでよ! セイバー突き! と見せかけて斬り!」


 ひとりでもやかましい、ハイテンションな魔法少女がやってきた。少女って年でもないけど、堂々と魔法少女やれてるのは尊敬に値する。


 背後から忍び寄っていたのに、わざわざ掛け声と共に斬りかかったセイバーだけど、フィアイーターは反応に遅れた。

 ウインナーが体の真ん中あたりでばっさりと切り裂かれる。切り口は暗黒なのに、ほっかほかの湯気が出ているのが気持ち悪い。


 暫定的に下半身と呼ぶことにした下半分が、その場でよろよろとステップを踏む。上半身は腕の力で履いながら、下半身の方に近づいていく。


「ちょっ!? スカート覗かないでよ変態!」

「フィアッ!?」


 セイバーがその上半身を、片手でスカートを抑えながら踏みつけていた。たぶん、フィアイーターにその意図はない。けど、スカートの女の子の下に這いつくばるのは重罪だな。


「この! さっさと死になさい! コアはどこ!?」


 フィアイーター以外にギャラリーはいないと、セイバーは思ってるはず。なのに独り言が止まらないのは、普段からそうなのか。


 それとも、戦いにテンションが上がりすぎてるのだろうか。


「コアが、ない!」


 フィアイーターの下半身はバラバラだ。なのに見当たらないなら、セイバーに踏まれたままジタバタしている上半身にあるはずで。


「死ねー! セイバー連続斬り!」


 そう言いながら、踏んだ上半身を何度も切り裂き輪切りにしていく。

 その内、コアが切り裂かれたのだろう。哀れなフィアイーターは踏まれたまま消えていった。


「ふふん。わたしにかかればこんなものよ。ウインナー切るの、楽しかったわね。わたしってば意外に料理の才能があったり?」


 いや、ない。あんなでたらめな切り方で料理を名乗るな。遥は心の中で突っ込んだから、残念ながらセイバーは謎の自信を深めるだけだった。


「よし! お仕事終わり! ついでにデートに割り込んで、可愛い弟を取り返しちゃおっかなー」


 ウキウキした顔で言いながら、公園の方に戻っていった。

 デートじゃなくてピクニックなんだけど。別にデートでもいいけど、あの女そんなこと考えていたのか。


 追いかけたいし、デート……撮影の邪魔されたくない。セイバーはきっと、悠馬を探しにいったのだろう。


「澁谷さん! 怪物は死にました!」

「ええ。そのようね」

「悠馬を探しに行きましょう! 公園の管理事務所にいるそうです!」

「そうね。行きましょうか」


 わたしの対抗意識をよくわかっている。澁谷はそんな笑顔を見せて、車外に出た。



――――



 遥からメッセージが来た。セイバーがフィアイーターを倒したから、迎えに行くと。こっちが動けるなら、こちらからも移動して早めに合流したいのだけど。


「彼方。どうだ? 歩けそうか?」

「まだちょっと痛いです……」

「そうか。じゃあ、背負ってやる」

「ありがとうございます」


 大した捻挫ではない。放っておけば翌日には治る。けど、今は無理させるべきじゃない。


 彼方を背負って事務所の外に出た。さっきまで曇っていた空は、少し晴れ間が見えている。


 行楽日和だな。怪物が出た後でこれは皮肉だけど。

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