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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-14.彼方と和解

 俺も協力するか。


「彼方はここにいてくれ。俺は入り口の様子を」

「待って……」


 彼方が手を伸ばし、俺の腕を掴んだ。


「そばに、いて」

「……」

「いてあげて。この子、震えているわよ」


 彼方の足首にテーピングしながら、看護師がそっと言う。俺たちのこと、恋人か兄妹と見ているのかな。


「わかった。そばにいる」


 彼方の手を握り返して、俺は机に腰を降ろした。行儀は悪いけど、こういう状況だ許してくれ。


 黒タイツから逃げるために、それなりの距離を全力疾走したんだ。意識してなかったけど、足の疲れがどっと出てきた。普段から走ってるから、なんとかまだ動けはするけど。


 彼方の怪我は大したものではなかった。事務所備え付けの救急箱の中身でなんとかなるし、しばらく安静にしていれば痛みも引くらしい。

 看護師は、恐怖のあまり過呼吸になってる小さな女の子の所に移動していって、俺と彼方だけが残された。


 スマホを見れば、遥からメッセージが来ていた。

 家族や澁谷たち含めて無事らしい。こちらを心配する文言が綴られている。あと、変身できない状況なのがもどかしいとも。


 こちらも、彼方と一緒に避難できて無事だと返しておく。既にセイバーたちが来て対処しているとも。


「遥たちは逃げられたそうだぞ。魔法少女たちが怪物を倒してくれれば、すぐに会える。もう少し我慢してくれ」


 俺より低い位置に座っている彼方に声をかけた。彼女のスマホにも、遥はメッセージを送ってるだろうから、見ればすぐにわかること。


「はい……あの、悠馬さん」

「どうした?」

「ありがとうございます。わたしのこと運んで。助けてくれて」

「気にするな。彼女の妹だ。助けるのは当然だろ?」

「はい……でも、わたし悠馬さんに、その、すごく失礼な態度を取ってたので」


 自覚あったのか。そりゃ、無ければできないことだけど。


「それでも躊躇いなく助けてくれた悠馬さんって大人だなって思って。自分が情けなく感じて」


 彼方はぎゅっと、俺の手を握りしめた。


 たしかに、対抗意識をぶつけてきた彼方には、少し戸惑った。けど今は、自分の非を認めて素直に口に出して反省している。

 それが、どれだけ勇気がいることか。彼方は情けない人間じゃない。


「俺だって大人じゃないさ。彼方に大人気なく張り合ったりしたんだから。情けないのは俺の方だよ」

「そんなこと……いえ。たしかにちょっとだけ、年上なんだから譲ってと思ったことはありましたけど。今日一日、お姉ちゃんの車椅子押し続けようとしてましたし」

「うん。あれは、実は結構優越感あった」

「どうしょうもない人ですね。彼氏さんだから、当然のことなのかもしれないですけど」

「ああ。彼氏だからな」


 ここは乗ってあげよう。俺はそんなつもりはなかったと言えば、彼方は激怒するだろうから。


「彼方は、姉ちゃんを取られて寂しかったのか? だから俺と張り合った」


 仲のいい姉妹だ。気持ちはわかる。俺も弟だからな。


 もし愛奈に彼氏が出来たら……別に嫉妬はしないか。そもそも彼氏ができるとは思えない。

 顔は美人だけど、中身を知ったら引いていく。こいつとは付き合えない。ましてや、付き合えば結婚が見えてくる年齢だ。あれと結婚することになる男には同情しかできない。

 会社でも、同僚たちが何人か狙ってたらしいが、みんな逃げていったそうだ。愛奈の方も男と付き合うことに興味が無く、交際を求められても断ってきたらしいし。


 いや、あいつのことは今はどうでもいい。


 愛奈はそんなのだけど、遥はもう少しまともな子だ。彼方と仲がいいのもよくわかるし、俺に取られたと感じるのはなんとなく理解できた。

 けど、彼方は少しだけ返答に迷った後に。


「それもあります。悠馬さんが羨ましくて。でも、それだけじゃないんです」

「というと?」

「お姉ちゃん、すごく優しくて、いい人じゃないですか」

「そうだな」

「車椅子に乗ってるのに」

「……? 車椅子に乗ってるのと、遥の性格に関係ってあるのか?」


 遥のあれは、元々の性格だ。

 彼方は、はっとしたような目をこちらに向けた。


「そ、そうですよね! お姉ちゃんは、元からああいう、すごく元気で、優しい子。さすがお姉ちゃん……」


 それきり口をつぐんだ彼方から、俺に見せた態度の正体を聞き出すのは無理そうだった。


 そもそも、遥をここまで褒めること自体も謎だよな。仲のいい姉妹だからって、他人の前で姉の人格をここまで褒めるってあるのか?

 彼方にとって、それが重要なことなのは理解できた。あとは、その真意だけど。


「フィー!」

「! 来たか」


 黒タイツの声。表から聞こえてきた。ハサミを握り直し、今度こそそっちに向かう。


 一体だけが、事務所に正面から押入ろうとしていた。


 男たちが箒の柄を槍のようにして突き、なんとか寄せ付けないようにしている。

 しかし素人だし、普段から運動をしているわけではない。手が震えている。


 接近してくる黒タイツを一瞬だけ止まらせることに成功したけど、直後に奴は柄の一本を掴んで引っ張った。

 小太りの男が悲鳴と共に引き寄せられる。俺はそいつの後ろについていき、追い越した。


 両手が塞がっている黒タイツに当て身を食らわせると、奴は柄を離してバランスを崩す。さらに俺は手にしたハサミを突く。


 刺さらない。だが黒タイツが身を庇うようにして出した腕に当たって、奴は痛みを感じたように後ずさった。

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