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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-12.俺と彼方とフィアイーター

 彼方にラケットを渡そうとして。


「ふっふっふ! 彼方! そう簡単にお姉ちゃんとバドミントンできるとは思わないでよね!」


 遥が妙に芝居がかった言葉遣いで止めた。いや、なんでだよ。


「悠馬と勝負して、上手い方がやるってことでどう?」

「おいこら。別に俺は代わってあげてもいいって」

「望むところです! 悠馬さん! ぶっ倒してあげます!」

「なんでそうなる」


 俺への対抗意識が振り切れすぎておかしくなってる彼方が、ラケットを俺の方に向けてくる。そしてシャトルを放り投げて俺の方に打ってきた。


「このっ!」

「ほい」

「あっ!?」


 彼方が受けられそうでギリギリ無理な所に打ち返してやると、彼女は面白いように釣れた。


 眼前で芝生の上に落ちたシャトルを見て、彼方は地面に膝をついてうなだれる。いや、そこまでショックなことだったか?


「彼方ー。頑張ってー!」

「!! うん! お姉ちゃん! わたし頑張る! あんな男に絶対に負けない!」


 両親やスタッフの所に戻っている遥から声をかけられ、彼方は再度やる気を取り戻した。

 わかりやすい女だ。


「とりゃー!」

「ほい」


 彼方が力強く打ってきたシャトルを、俺は容易く打ち返す。今度は、ちゃんと彼方のいる方に。


「ほいやー!」

「ほら」

「にゃー!」

「それ」


 掛け声が似てるのは、姉妹だな。


 車椅子じゃない分、遥よりはいい動きをする。けど。


「にょわーっ!?」


 いい所に打ち返したのに、彼方は空振りをしてしまった。

 やっぱり、俺より体力は無いよな。年下だし。普段から運動してるわけでもなさそうだし。


「ううっ。悠馬さん……年下相手に本気を出さなくても。大人気ない。ガキっぽい」

「そこまで言わなくても」


 たしかに、手加減してやっても良かったとは思うけど。


「わたし知ってますよ。これで次からは手加減して、所詮は女だなって下に見るんです」

「どうしろって言うんだ」


 手加減しないなら、本気でぶちのめすしかなくなる。


「おい彼方。まだやるのか?」


 とにかく、彼方の方に駆け寄る。芝生の上に座り込む彼方をどうするべきか、俺にはまったくわからなかった。

 彼女は顔を上げて俺を睨みつけた。


「ぜ、絶対に負けませんから! お姉ちゃんの相手に相応しいのはわたしだって、認めさせてやるんですから!」

「そ、そうか。じゃあ、もう一回やるか?」

「はい! 今度は――」

「フィアァァァァァ!!」


 聞き慣れた、けれど今は聞きたくなかった怪物の咆哮が聞こえて、俺は彼方を庇うようにしながら周囲を見回す。


 スマホから警報が出る前だ。つまり、フィアイーターはこの近くに出たということ。

 すぐに見つけた。


 人間サイズのウインナーから手足が生えたような奇妙な生物が、芝生の上を闊歩している。行楽客の誰かのお弁当のおかずが、不幸にして怪物になったのだろう。


「フィー!」

「フィー!」


 それから、黒タイツたちも周囲に現れた。まったく。タイミングが悪い。


「悠馬! 彼方!」


 遥の声。距離がある。バドミントンをやってる最中に離れてしまったらしい。


 遥の両親は、娘の安全を確保しながら逃げようとしている。だが娘はもうひとりいる。そして、遥はなんとか家族の目をごまかして変身しなければと考えている。

 離れた場所にいる妹の安全を確保しないといけないから。


 澁谷たちも、遥のことは知っている人員で固めているのだっけ。だから、避難は優先しながらも遥を両親から離すにはどうすればいいのか迷っているように見える。

 けど今は。


「遥! お前は親と一緒にいろ!」


 向こうに聞こえるように、声を張り上げた。魔法少女に変身して戦うのも大事だけど、家族を心配させるべきじゃない。


「彼方のことは俺に任せろ! 逃げろ!」

「うん!」


 俺の気持ちが伝わったのか、遥は力強く頷いた。澁谷も神箸家の面々を連れて逃げていく。

 そして遥たちと俺たちの間に、黒タイツが立ち塞がった。


「彼方。立てるか?」

「あ……か、怪物……」

「そうだ。逃げよう」

「そ、そうですね! 逃げないと」

「フィー!」

「きゃっ!」


 こっちを、弱々しいガキだと思ったのか。黒タイツの一体が襲ってくる。フラフラと立とうとしていた彼方は驚いて転んでしまう。


 俺はそんな彼方を庇うようにして立ち、黒タイツの顔面を殴った。さらに玩具のラケットを顔面めがけて振り下ろす。

 さすがに玩具ではダメージを与えられない。直撃したものの、壊れたのはプラスチック製の玩具の方。

 俺は柄だけを握ってる状態。折れた切り口が鋭くなっている。よし、使える。


 この前と同じように、玩具から凶器に代わったそれを、怯んだ黒タイツの喉に突き刺して殺した。

 もちろん、それで終わりではない。黒タイツはまだまだいる。


「彼方、立てるか?」

「あ、あの……」

「どうした? 無理そうなら言ってくれ」

「ご、ごめんなさい! 足、挫いちゃって」

「わかった。体重を俺に預けるようにしろ」

「ふえっ!?」


 彼方の背中と足を抱え、持ち上げる。

 もうしないと、つい先日心に誓ったばかりのお姫様抱っこを再度してしまうとは。これで三人目だ。


「走るぞ。しっかり掴まってろ」

「あ、あの! スカートめくれちゃって! じゃなくて掴まるって!?」

「ごめんそっちは見ないから! 俺の肩か首に手を回してくれ!」

「く、首を締めるんですか!?」

「違う! 首の後ろに手を回して、体を寄せるんだ!」

「あわわ……」


 慌てて持ち上げたものだから、彼方の短めなスカートはあまり意識していなかった。

 スカートごと抱えればよかったのだけど、短いと尻に触れることになるから、それは避けたい。腿のあたりを持った結果、スカートが下がって彼方はそれを押さえるのに必死。


 そうじゃなくても、思ってもなかった体勢や、そもそも突然の怪物の襲来に混乱している様子だ。

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