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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-10.模布城公園の花

「いいですね、悠馬さん。車椅子を押している光景も撮りますが、カメラは見ないようにしつつ、顔を背ける方にも向かないようお願いします!」

「え、はい。わかった」

「見ちゃいけないけど見てほしいって難しいよねー。わたしたちの演技力が試されるってことで!」


 澁谷が、俺が押すことを肯定したし、遥もノリノリだ。だから、このロケでは俺が車椅子担当だと決まってしまった。

 元々車椅子少女と彼氏を主軸にしたドキュメンタリーになるって聞いてたから、これが求められていたのだろうけど。


「むー……」


 彼方の不満げな唸り声が聞こえてくる。どうしようかな、これ。


 とにかくピクニックは行われる。とりあえずは公園内を散歩だ。家族揃ってゆっくり歩く様子をカメラが撮る。スタッフたちはカメラに映らない位置でついてきている。


「うわー。風車大っきい! すごいね、お姉ちゃん!」


 機嫌を直したわけでもなく、俺への対抗意識のために明るい声で遥に声をかける彼方。


 公園のシンボルであるオランダ風車。実際に見るとなかなか迫力がある。

 季節ごとに色とりどりの花を咲かせる花壇に囲まれながら、その圧倒的な存在感を見せつけている。


「けど、なんでオランダなんだろうね。お城の城下だよ?」

「そうだよな。和風庭園ならわかるけど」

「もー。悠馬さんってばわかってないなー。オランダの風景があるの、ロマンチックでしょ?」

「それはそうだけど」

「作った人も、これがきれいだって思ったから作ったんだよ。なんか花とかいっぱいあって、きれいだし」

「うん。いっぱい咲いてるねー」

「あの花、赤いしね」

「ああ。赤いな」

「他の色もいっぱいあるねー」

「黄色とか青とかもあるね」

「あるな」


 三人揃って、花が美しいという感想は抱きつつも、その花の種類の知識は知らない。それはそうとして、彼方は遥に話しかけたい欲が強い。

 だから漠然と、きれいだねという知能の低い会話が延々と続くことになった。


 これもカメラが撮れば、恋人や姉妹の仲睦まじい光景になるのだから、メディアの力ってのは恐ろしい。


「ヒマワリとかならわかりやすいんだけどねー。彼方は頭いいんでしょ? 花の種類詳しかったりしないの?」

「しない……名前は知ってても、目の前にある花と名前が結びつかない」

「みんな。バラ園に行きませんか? 今がちょうど見頃なんですよ」


 知性のない会話を見かねた澁谷の提案。よし行こう。


 さすがにバラは知ってるぞ。花の形も特徴的だしな。花びらが何枚も重なって、立体的な形をしてるんだよな。


「わー。お姉ちゃん、バラきれいだねー」

「うん。バラって、いっぱい種類あるんだねー」

「バラの種類なんか、気にしたことなかったな」

「なんか、色とりどりだね。赤いのとか白いのがあるねー」

「そうだね。あと、トゲも生えてるね」

「バラはトゲがあるものだもんな」

「トゲ痛そうだねー。でもきれいだねー」


 結局、やってることは変わらなかった。バラの中にもいろんな種類があるっていうのを見せつけられただけだった。


 それでも、大量のバラが咲き誇る光景は美しかった。頭の悪い会話をしながらも、それは間違いないし楽しかった。


 ふと後ろを見れば、遥の両親もこちらに温かな目を向けていた。

 娘たちが楽しそうにしているのが嬉しくて仕方ないのだろう。そこに俺がいていいのかという疑問もあるけど、今は気にしないことにしよう。


「じゃあ、そろそろお昼にしよっか」


 そんな頃合い。遥の提案を聞いて周りを見れば、たくさんの家族連れやカップルなんかもお昼を食べている。

 忘れてたけど、これはピクニックなんだよな。


「ピラフおにぎり用意してるよー」

「マジか」

「悠馬の好物だからね! 作らないわけにはいかないのです!」

「お姉ちゃん、毎朝悠馬さんのお弁当、すっごく嬉しそうに作ってるんですよ。本当に。お父さんやお母さんのお弁当より嬉しそうに……」


 圧が強い。


「そ、そうか」

「お父さんたちのお弁当も、ご飯がピラフになるんです」

「それは……申し訳ない、のか?」


 逆に喜ぶべき場面な気がするぞ。ただの白米よりピラフが入ってる方が嬉しいに決まってる。だってピラフだぞ?


「本当に……わたしだってお姉ちゃんのお弁当食べたいのに……」

「あはは。中学は給食だからねー。今から食べられるんだから、いいじゃんいいじゃん」

「うん……お姉ちゃん、料理うまくて好き」


 俺が押す車椅子に寄り添う彼方。体重はかけてはないけど、ぴったりくっついている。

 やりにくい。


 芝生にレジャーシートを敷いて、家族みんなで座って食べる。

 おにぎりに唐揚げに卵焼き。そんな定番のお弁当メニューだけど、遥が手間をかけて料理しているために、全部おいしかった。


「今日は特に気合をいれて作ったよー。わたしが、片足でもやれることはやるっ! ってことをテレビの向こうのみんなにアピールするために!」

「大事なことだな」

「わたしがどれだけ美味しい料理を作れるか、視聴者に知ってもらうために!」

「テレビでは味はわからないけどな」

「というわけで、味が伝わる食レポよろしく!」

「無茶を言うな」

「お姉ちゃんこの唐揚げおいしい! 隠し味に柚子の隠し味が利いてる気がする!」

「あはは。ありがとう。でも、唐揚げには入れてないよー」

「そうなの!? でもキッチンに柚子がおいてあったのは」

「こっちの煮物」

「そっかー。さすがお姉ちゃん、隠し味の使い方が絶妙だね! 隠し味の天才だね!」

「うん! もっと褒めて!」

「この卵焼きの隠し味は」

「ないよ。シンプルに出汁だけ」

「さすがお姉ちゃん! 隠してない味もすごい!」


 姉の要求に答えようとして失敗する彼方。頑張り屋なのは伝わってきて、かわいいと思う。本来の目的とはかなりズレてるけど。

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