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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-7.校内撮影

 校門前に、生徒指導担当の厳しい体育教師が立っていて、登校する生徒に挨拶をしつつ服装の乱れがないか鋭い目を向けていた。

 毎朝立ってるわけじゃないけど、今日は立っている。そしていつにも増して背筋がピンと伸びているし表情も凛々しい。


 学校の顔となる教師がだらしないようでは評判に関わるとか、そんな気持ちが込められているのだろう。

 テレビ映りを良くしたいとかではないと思う。


 周りを見れば、いつもより気合の入った化粧をしてる女子や、髪をきっちりセットしている男子が目につく。それから。


「遥おはよー」


 そんな感じで、普段はそんなに挨拶しない生徒も積極的に声をかけてくる。遥にも、俺にもだ。

 そして各々、カメラ映りのいい角度を見せている。そして俺たちに並行するように歩いている。


 遥はの車椅子を中心とした、一団が出来上がった。なんなんだこれは。


「なんか、普通にしてるのに疲れるね」

「普通じゃないからな。教室に着いたら散れよ。ほら。行け」


 結局、俺がクラスメイトたちを追い払うことになった。


 授業中は、さすがにカメラは入ってこない。一瞬だけ授業を受けている姿を撮って、それだけだ。


 級友とのやり取りのシーンなんかも欲しがられたから、それは少し撮影された。みんなカメラを意識しすぎて、何テイクも撮り直しがあったけど、なんとかなった。


 昼休みは、遥と澁谷でインタビューする場面を取っている。この生活になった当時や、今の心境なんかを語るパートだ。

 そこに俺の出番はないから、ひとりで昼食を取る。


 遥は今日も弁当を作ってきてくれた。ありがたいことだ。けど、こうやってひとりで食べるのは、なんか新鮮というか慣れないというか。


「ひとりではないからな」

「わかってるって」


 目立たない校舎裏に行くと、ポケットに入れたラフィオが声をかけてきた。購買で買ってきたプリンを抱きしめながら、外に出て地面に着地。


「僕はちゃんといるぞ」

「そうだな。けど、遥と一緒じゃないのが、なんか違和感で」

「彼女が魔法少女になってから、学内では一緒に行動することが多かったからね。恋人として」

「恋人かー」

「お似合いのカップルだと思うぞ」

「お前とつむぎもお似合いだぞ」

「冗談はやめてくれ」


 冗談ではないのだけど。


「ラフィオだって、ひとりで食べるプリンと、つむぎと一緒に食べるプリンは違うって思うだろ?」

「まさか。誰と一緒に食べようが、プリンはプリンだ。けど、君の言うこともわかるぞ」


 小さな妖精の姿で食えばプリンが大きく見える。その信念に基づき妖精のまま蓋を開けてスプーンで掬いながら、ラフィオは俺を見て少し微笑んだ。


「ひとりで食べるより、誰かと食べた方が楽しいってことだろ? それこそ、あのモフモフ悪魔でも、いないよりずっと楽しい。よくわかってるだろう?」

「そうだな。よくわかってるさ。けど、姉ちゃんと一緒に食べる時は賑やかで、別に寂しくはないぞ」

「でも、より大勢の方がいいだろ?」

「まったくだ。本当に……お前が来てから、家が騒がしくなったよ。感謝してる」

「世界を守る戦いに巻き込まれる対価としては、ちょっと慎ましいかもしれないけどな」

「でも大切なことだ。これからも、みんなで夕飯を食べよう。つむぎも一緒にな」

「ああ。本当に……あんなのでも、いないと寂しいからな」

「なになにー? ふたりでなんの話してるのー?」


 インタビューを短く終わらせたのか、遥が車椅子を動かしながらやってきた。


「昼はみんなで食う方が美味いって話だよ」

「うん! わたしもそう思う! ねえ、今度みんなでピクニック行かない?」

「撮影の一環で?」


 唐突な提案も、そういう意味があるなら理解できる。そしてこの場合のみんなとは。


「うちの家族と悠馬で!」


 そうだろうな。愛奈たち魔法少女チームが出てくることは考えづらいよな。

 撮影とは別に、みんなで遊びに行くのはありだけど。


 ピクニックはいいとして。




「なんで悠馬が行くのよー。遥ちゃんの家族だけで行きなさいよー。彼氏が付け入る隙なんかないでしょー? 婚約してるとかなら、まだわかるけど。高校生の彼氏が出てくるのおかしいでしょー」


 俺の疑問を、その日の夜のうちに愛奈が口にしてくれた。酔っ払って呂律が回ってないけど、言うことはわかる。


「俺も同意だけど。姉ちゃんもう飲むな」

「飲まなきゃやってられないわよー」

「別にいいだろ。テレビの演出なんだから。そういうものとして受け入れれば」

「遥ちゃんの家族公認の彼氏! 将来的には結婚も考えてます! そういう印象が全国に見せつけられるのよ!」

「いや、県内だけだんだけど」

「同じことよ! 悠馬は将来もわたしをお世話するのー!」

「なんて情ない姉なんだろう」

「悠馬だって、こんなお姉さんよりわたしの方が好きだよねー?」

「いやそれは……どうかな。わからない」

「否定しなさいよー!」

「ちゃんと頷いて欲しかったなー」


 無茶を言うな。


「悠馬! お酒! どうしても飲みたいの!」

「あんまり飲みすぎるなよ」

「悠馬。あんまりお姉さんを甘やかしちゃいけないよー」

「わかってるけど、これでも姉だからな」

「遥ちゃんの姉じゃないもん。うへへ……」

「悠馬。昼間言ったことだけど」

「……なんだ?」

「賑やかすぎるのも考えものだな」


 苦笑するラフィオは、今日もつむぎに抱きしめられていた。


 たしかにな。楽しいけど、家族の団欒とは全く性質が違ってるもんな。

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