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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-6.撮影開始

 家に帰れば、愛奈の酔いは落ち着いて、シャワーを浴びて既に寝たようだ。

 つむぎとラフィオが、ソファに座って寄り添い合うように眠っていた。テレビでは知らない芸能人が、VTRの映像にわざとらしく驚いている。


 平和だな。


「つむぎ。起きろ。家で寝ろ」

「むう……お母さんいないので……」

「そうだな」


 つむぎの肩を掴んで起こそうとするけど、彼女は目を瞑ったままラフィオに両手を回して拒絶した。

 今日もつむぎの両親は帰らないらしい。


 幸せな家族を見た後だ。家に帰ってもひとりのつむぎに、ちょっとだけ同情したことは否めない。


「今日はうちに泊まるか?」

「いいんですか?」

「いいぞ。けど、風呂には入れよ。歯も磨けよ」

「はーい。ラフィオ、行こ」

「いや、そこはひとりで入れ」


 男女で混浴は見過ごせない。ラフィオは断固拒否するはずだし。


 一旦隣の部屋である御共家の前までつむぎを連れていき、その間にスマホを操作して彼女の母親にメッセージを送る。今日はつむぎ、家に泊めます、と。


 返事はすぐに来た。いつもありがとう。お世話かけます。今日も帰れそうにありません。雨の日が続きますが、お体気をつけてください。

 丁寧な文面だ。家に帰れない以外は、ごく常識的な母親。


 顔を上げて、マンションの廊下から空を見上げた。

 黒い空から、雨がざあざあと降っていた。今年の梅雨は特に雨が多いな。


 そんな雨のカーテンの向こうに、いくつもの家々の明かりが見えた。


 家族か。いろんな形があるものだ。




 数日後。いよいよドキュメンタリーの撮影が始まった。


 いつものように朝起きて、愛奈をフライパンで起こして会社に送り出す。ラフィオを鞄に入れて家を出て、つむぎが強引に取り出してモフモフする。

 そしてバス停に向かう。曇り空だけど雨は降っていない。


 バス停の近くで、制服のネクタイが歪んでないか確かめる。髪型も、寝癖がついてないか今朝は念入りに鏡を見た。


 何が自然体だ。ありのままの姿だ。我ながら、カメラをめちゃくちゃ意識している。


 バス停の近くに、遥と澁谷と、その他テレビクルーは既に来ていた。


「おはようございます、悠馬くん。撮影の件、よろしくお願いします。まずは、ふたりの朝の姿から撮影させてください。カメラは意識しなくていいので、いつもの感じを見せてください」

「ああ。わかった。よろしくお願いします」

「じゃあ、スタート」

「お、おはよー、悠馬、くん。じゃなかった悠馬。き、今日もいい天気だねー。絶好の学校日和、だねー」

「おはよう」

「うん。おはよー。なんかほら、悠馬ってば今日もかっこいいね! さすがわたしの、か、か、彼氏? みたいな!」

「カメラ意識しすぎだ。こっちまで恥ずかしくなる」

「ううっ。そんなこといわれてもー」


 ガチガチに固まった遥が、チラチラとカメラの方を見ながら言う。なんて下手なんだろう。演技をする必要もないのに大根演技をするのだから始末に負えない。


「まったく……遥」

「ひゃっ! ひゃいっ!」

「いつもと、少しメイクのやり方変えたか?」

「へ? 別に、特に意識したわけじゃないけど」

「そっか。なんか、いつもより可愛く見えたから」

「かわっ!? そ、そうかな? 無意識に、気合入れてきちゃったのかも。不自然にならないように、いつも通りって感じにしたんだけどなー。えへへ。かわいい?」

「うん。かわいい」

「そっかー」


 さっきまで表情が硬かった遥が、自然に笑うようになった。


 カメラに映らないところで、澁谷がガッツポーズをしている。


 朝、俺たちがこうやってお喋りしながらバスを待つ風景をカメラに撮っている。音声はあとでなんとでもなるし、ナレーションを被せてもいい。

 こういう絵が欲しいというクルーの願いを叶えてやったわけだ。


「ねえ悠馬。わたし、かわいく映ってるかな?」

「遥は元がいいんだから、自然にしてれば問題ないだろ?」

「うんうん。わたしかわいいもんね!」


 この自意識の高さは問題だとは思うけど、元気でいいんじゃないかな。


 やがてバスが来る。テレビ局の準備は抜かりなく、カメラが来ることはバスの会社には連絡済のようだ。いつもの運転手が、驚く様子もなく乗降用のスロープを持って出てきて、俺が押して乗車する。


「いつもありがとうございます!」


 そう、運転手に朗らかに挨拶する。カメラがあるから、いつもより元気に言ってるかもしれないけど、それでも自然な感じだった。


「いつも、こうやってクラスメイトに押してもらっているんですか?」


 車内で澁谷がインタビューみたいな感じで質問をする。遥の日常を流しつつ、時折こうやってアナウンサーとのやり取りをして映像を構成する段取りらしい。


「はい。毎日ですね。こういうスロープはどうしても、誰かに押してもらわないと腕が疲れちゃうので。悠馬はもちろん、みんなに助けてもらってます!」


 力強く言う。気合いが入りすぎてるのはともかく、いい感じだ。


 学校にも、取材が来るという連絡は来ている。数日前、教師からカメラをあまり意識するなと注意された。

 そんなこと言われても意識するのが高校生なのだけど。

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