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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-4.遥の両親

 俺もすぐに挨拶を返す。


「初めまして。双里悠馬です。こちらこそ、お世話になりっぱなしです」

「いえいえ。お姉ちゃんこんなのだから、彼氏ができたって聞いて驚いたというか。こんなお姉ちゃんを好きになるってどんな人だろうって気になってたというか」

「彼方? こんなお姉ちゃんって、どういうことかな?」

「だってほら。お姉ちゃん馬鹿だし」

「ばっ!?」

「それにしても……へー。なるほど。まあ確かに、結構格好いいよね。うん、いいと思うよ」

「結構、は余計だから!」

「中身もいいんだろうねー。お姉ちゃんの車椅子を毎日押すなんてさ。けど! 家の中とか家族でお出かけする時はわたしの方が押してるからね! むしろ悠馬さんと付き合う前はわたしの方が押すこと多かったはずだから!」


 遥と話していたはずの彼方は、なぜか最後は俺の方を睨みながら対抗心丸出しで言い切った。

 いや、なんだこれは。


「と、とにかく! 悠馬入って! ちょっとでもいいから夕飯食べてって! ほら、立ち話もなんだし! 雨も降ってるし!」

「お、おう……」

「そうだよね。悠馬さん、上がっていってください! 家でのお姉ちゃんとか、ほとんど見たことないでしょ!? わたしは毎日見てますけど!」

「なあ遥。これ、本当に上がっていいのか?」

「い、いいと思うよ」

「妹さんの様子」

「変だよね。何が変かはわからないけど、変だよね」


 遥も戸惑ってる様子だった。原因が俺なら、撤退して落ち着かせるのがいいのだろうけど、彼方の方も乗り気だから仕方がない。

 お邪魔させてもらおう。


「はいお姉ちゃん。タオル」

「うん。ありがと」


 雨の日に神箸家に上がるのは初めて。

 靴箱の上に数枚積まれているタオルを彼方が手に取り手渡した。拭くのは人間ではなく、車椅子のタイヤだ。


 濡れた道路の上を歩いていたから、そのまま家に上がるわけにはいかないのか。もちろん、晴れてる日でもタイヤが汚れてるのは変わらないから、日常的にやってること。というか、前にも見たもの。


「家用と外出用で車椅子を使い分けたり、家の中では車椅子じゃなくて松葉杖で移動するって人もいるらしいよー。人それぞれって感じだね。ちょっと待ってて。着替えてくるから」

「あ、わたしも」


 慣れた様子でタイヤを吹き終わると、彼方は車椅子の取っ手を掴んで家の奥まで行ってしまう。微かに振り向いて、得意げな表情を見せた。いや、なんなんだ。

 俺はといえば、玄関に取り残される。どうすればいいんだ。


「お母さんただいまー! 悠馬連れてきた! 晩ごはん食べたいってー」


 あ、遥が声をかけてくれた。べつに、食べたいわけではないんだけどな。

 直後、一度対面したことがある女が小走りでこっちに来てくれた。


「いらっしゃい、悠馬くん。どうぞ、上がって上がって。あ、お父さんいるけどいいわよね」

「ええ、大丈夫です。……どんな方なんです?」

「怖がらなくてもいいわ。いい人よ」


 この場面で、恐ろしい人だとわざわざ脅す人もいないだろう。まあ、娘がああいう性格でいられるわけで。厳しい人ではないのは間違いないのだろうけど。


 彼氏として、挨拶しないわけにはいかない。


 大丈夫、父親が何者であろうと恐れることはない。もっと恐ろしい怪物と何度も対峙している。人間など恐るるに足らずだ。そう心を決めてリビングへ入ると。


「おお。来たな悠馬くん。話はいつも聞いているよ。まあ座りなさい」

「あ、はい……」


 がっしりした体格で、顔も厳ついの中年の男。これが遥の父か。声も大きいし、その気になれば相手を威圧し萎縮させることもできそうな風貌だ。

 それでも、俺への言葉には親しげな感情が込められていた。警戒する必要はなさそうで、勧められるままに椅子に座った。


「いつも遥が世話になってるね。なかなか良さそうな男じゃないか。ほら、一杯やるかい?」

「ちょっと、やめなさいな。相手は子供よ?」

「ははは。それは失敬」


 こいつ。自然な流れで未成年に飲酒を勧めてきた。妻にすかさずたしなめられ、そして悪びれる様子もないあたり、普段からやってることなのだろうか。

 主に娘に対して。


「もー。お父さん! 悠馬にお酒飲ませないでよ! 未成年の飲酒は犯罪だっていつも言ってるでしょ!」

「すまんすまん! いい男を見ると、ついな!」


 二階から階段備え付けのエレベーターで降りてきた遥にも注意されたことで、俺の推測は裏付けられた。

 これが神箸家の日常なのだろう。


「はい。ご飯食べるでしょ?」

「あ、お構いなく。……では少しだけ」

「いいのよ遠慮しないで。育ち盛りでしょ?」

「ええ、まあ……」


 キッチンに消えていたと思った母親は、茶碗に山のように米を盛り付けて俺の前に置く。


「遠慮しないでどんどん食べてね、悠馬!」

「いや。お前は俺が、夕飯食ってること知ってるだろ」

「わたしが作ったからねー。お母さん、わたしのご飯は少なくていいよ」

「おいこら」

「ほら。お母さん、いっぱい食べる人が好きだから」

「そうなのか? ……なるほど」


 父親の茶碗に山と盛られた米を見て納得する。夫婦が互いにどこに惹かれたのかは、色々あるのだろうな。

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