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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第5章 己の属性と向き合う話

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5-1.28時間テレビ

 六月。

 雨が連日降り注ぐ梅雨の時期を迎えていた。


 今日もまた、窓の外ではざあざあと激しい雨が降っている。

 これが明けたら本格的な夏が来るんだよな。


「ねえラフィオ。知ってるー?」

「何をだ」


 夕飯の洗い物をしていると、ちびっ子たちの声が聞こえた。


 ラフィオが作ったから、洗い物は俺の仕事。さすがに全部の仕事を、あの小さな妖精に押し付けるのは忍びない。なんというか家主として。


 本当の家主である愛奈は、ビールの飲み過ぎで机に突っ伏している。仕事終わりのスーツのままで。皺にならないのだろうか。

 そしてラフィオ本人は、妖精の姿でつむぎに掴まれるよりは人型になって家事をする方が嬉しいのだろうけど、それは考えないことにしよう。


 俺の隣には遥がいる。松葉杖と片足で立ちながら、俺以上にてきぱきとした動きで、洗い終わった食器を拭いている。

 ちなみに制服姿だった。最近は学校から直接俺の家に帰って夕飯を食べている。いいのか、家族が寂しがらないのか。


 そんな遥もちびっ子たちの会話に耳を傾けていて。


「あのね! 六月に結婚式を挙げると、ジューンブライドって言って縁起がいいんだって!」

「そうか。おもしろい文化だ」

「わたしたちの結婚式も、六月にやりたいよねー」

「やらないからな」

「ねえ。ラフィオはどんな式がいい? わたしウェディングドレス着たい」

「話を聞いてほしいな」


 ソファに横になっているつむぎに抱きしめられているラフィオは、心底疲れた返事をする。


「そもそも、結婚できる年齢じゃないだろ?」

「でね。結婚式は、サムシングフォーっていう四つのアイテムをお嫁さんが身につけると、幸せになれるらしいよ」

「駄目だ。話が通じない」

「ねえ。わたしの場合、何をつければいいのかな? 古いものと新しいもの。借りたものと青いものだって」

「青いのは、お前いつもつけてるだろ。青い髪留め」


 魔法少女に変身するための宝石をアクセサリーに加工した髪留めは、今日もつむぎの髪についている。


「というか、あの魔法少女の格好をドレスと言い張れば解決だろ」


 ラフィオの返事は、適当に話を切り上げるためのものだったのだろう。けど、つむぎの受け取り方は違って。


「つまりラフィオは、魔法少女の格好はウェディングドレスになるって思ってるんだー。えへへ。わたし、もうラフィオからドレス貰ってたんだね!」

「いや待て。そういう意味じゃない」

「もー。これってほとんどプロポーズみたいなものだよね」

「ぐえっ! おいこら。落ち着け。腕を緩めろ。苦しい!」


 つむぎのポジティブ思考、侮れない。


「あの子たち。結婚って気が早いよね。でも、つむぎちゃんの気持ちもわかるな。憧れるっていうか」


 俺の隣で遥が、独り言とも俺に話しかけているとも取れることを呟く。

 無視はできないから返事はする。


「遥も憧れるのか。結婚式」

「まあねー。結婚式というかお嫁さんというか。まだまだ先のことだとは思うけどね。でも好きな人と式を挙げるって、いいじゃん?」


 俺を見ながら言う遥は、すぐに話題を変えた。


「それより今は、悠馬とのデートが先です!」

「デートか……」


 親指立てながら力強く言ったそれを、俺は静かに繰り返した。


「取材としてカメラが来るなら、それはデートって言わないんじゃないか?」

「それはそう。わたしも、普通のデートもしたいとは思うんだけどね。それはこれから、いくらでもできるじゃん? 取材が来て、テレビに出られるチャンスは滅多にないよ!」

「テレビ。テレビかー」


 出たことはあるぞ。覆面男としてだけど。


 けど、魔法少女とは関係ない、車椅子の恋人を支える高校生、双里悠馬としての出演はない。


「28時間テレビだっけ」

「うん。世界を愛で包む、あれ。それのローカル放送パートのドキュメンタリーで、わたしを題材にしたいんだって」


 この前も聞いた説明を再度してもらう。遥の方が繰り返し話したがってる様子だ。


 28時間テレビ。テレビもふもふのキー局が毎年夏の終わり頃に放送している、一日ぶっ通しで生放送をする超大型番組だ。

 慈善事業や環境問題への取り組みなんかの、人の善意とか愛とかを題材にした企画が多く、故に「世界を愛で包む」が番組テーマとして掲げられている。


 毎年、視聴者から寄付を募っているのも特徴だ。


 お涙頂戴な内容で金を集めているだけの偽善だと、批判する声もネットなんかではよく上がってるけど。


「そういうのが必要な人もいるってことだよね。別に愛なんか必要としてない人には、空虚に見えるのかもしれないけどさ。わたしも前はそうだったな」


 太ももの途中からなくなっている左足を動かして見せる。


「ああいう形でも愛が必要で、テレビに取り上げてもらえれば幸せって人はいるんだよ。それがわからない人が批判している。でもダサいよね。そういうのは高校生くらいで卒業しないと」


 自分もかつては捻くれた見方をしていたのが、障害者となったことで考えに変化が出たのだろう。


 もちろん、そんな立派だったり深刻な考え方をしなくてもいい。テレビに出たいってだけで、十分な理由になる。

 車椅子に乗っていてなお、元気に日々を過ごす遥の姿を見て、勇気づけられる人もいるだろう。そういう人のためにやってるテレビだ。堂々と出ればいい。

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