4-55.剛の歓迎パーティー
結局、俺たちは例の家に食料を持ち込んでのパーティーみたいな形になったし、それならと樋口も少しは金を出してくれた。
肉と寿司だけじゃない。各々好きなものを買ってきたしピザの宅配も頼んだ。
あと、当然のように澁谷も合流してくる。その方が都合がいい。
新しい仲間を紹介しなきゃいけないわけだし。
「改めまして、岩渕剛です。魔法少女シャイニーファイターとして、これから皆さんと一緒に戦わせていただきます。どうぞ、よろしくお願いします」
「うえーい! 頑張ってねー」
「は、はい……」
「剛くんが頑張れば、その分わたしが楽できるから!」
「ええ……」
既に酒が入って、高めのテンションで声をかける愛奈に、女装姿のままの剛はかなり引いているようだった。
「おいこら。姉ちゃんも頑張るんだよ。先輩はフィアイーター殺せないだろ」
「えー。でもほら。できることは多いでしょ? それだけわたしは楽になる!」
「うるせえ。あと離れろ。酒臭い!」
「えへへー。お姉ちゃんに、もっとお酌しなさい」
「やめろこら」
「ね、ねえ。悠馬くん。この人は、いつもはこうなのかい?」
「いつもは、というより、いつもこうだ。……頼れる所を見せる方が稀」
「えー? 先輩は、会社では結構頼れるって言ったでしょー? このこのー」
同じく酒が入った麻美まで、俺に絡んでくる。
「言ってたけどな! 駄目な所の方が多いって感じだっただろ!」
「えー? 麻美ってば。悠馬にわたしのこと、どう話したのかしらー? ほら。言いなさい。白状しろー!」
「ひえー。お許しください先輩!」
「だめー! 白状するまで飲ませるわよ! てか、今日は飲むわよ!」
「ついて行きます先輩!」
こいつら。明日も仕事なの、わかってるのか?
「個性的なお姉さんだね……」
「全くだ」
この期に及んで俺から離れず、ない胸を押し付けながらウザ絡みする愛奈を、剛が苦笑しながら見つめている。
昨日の夜は、それなりの威厳をもってお説教し、それで剛は心を改めた。本物のヒーローになった。
その姿を俺は見ていないけど、今の愛奈とのギャップがひどいのはわかる。
「愉快な人だね、君のお姉さんは」
「まあ、そうだな。愉快ではあるよな」
愉快さをもう少し抑えてほしいって思ってるけど……これが姉ちゃんだからな。仕方ない。
「逃げるんじゃないわよ岩渕くん? いい? わたしの言ったこと、よくわかってるの? 魔法少女として戦いたいなら、酔っ払いに制裁するのはやめなさいよ」
「え、ええ。わかってます。わかってますから……」
「わかってない! ナンパ男も無視しなさい! 警察のご厄介になることは許さないから!」
同じく酔っ払ってる樋口が、剛の襟首を掴んで絡みだした。言ってることは真っ当だけど、酔っ払った公安が言ってもそんなに威厳はない。
「あと、女装もいいけど、正体がバレにくいよう工夫しなさい!」
「どうやって……」
「自分で考えなさい!」
「お化粧工夫するとか、顔の輪郭がわかりにくいウィッグ被るとかすればいいよー」
剛に麻美も絡んでくる。酔っ払いが増えて戸惑う剛だけど、アドバイスが貰えるとなると少し前向きになる。
でも、この女の興味は別にある。そういう奴だ。
「ねえねえ。トンファーが武器って面白いけど、さっき使ってたのは着ぐるみショーの小道具よね? 戦いで使い続けると、いつか壊れちゃうんじゃないかしら」
「え? そ、そうかもしれません、ね」
「わたしに作らせて! トンファー! 金属製の丈夫だけど軽いやつを用意するから! 殺傷力を上げるための工夫もするし、さっきの小道具と同じようにヒーローっぽい飾りもできるだけ作るから!」
「え、あ、ありがとうございます……」
「やっぱりトンファーの先を尖らせるとか、刃物をつけるしかないかなって思うのよね」
「こら。公安の前で武器の製造を公言しない。悠馬のナイフみたいに、偽装できる物しか認めないわよ」
「えー。ケチ!」
「ケチじゃありません! 治安維持の観点から言ってるの!」
「官憲の横暴だー! 剛くんに素手で戦えと言うのかな!?」
「言ってないわよ! 玩具に見える武器で戦えって言ってるの!」
「あの。僕の意見は……」
「みなさーん。プリンできましたー。欲しい人は手をあげてくださーい」
剛が公安と金属加工オタクのバトルに困惑していた頃、つむぎとラフィオがお盆に人数分のプリンを手にやってきた。
これ幸いと、新入りの先輩は手を上げてそっちの会話に加わろうとした。けれど俺はすかさず彼の腕を掴み制止した。
「え。なんで」
「ちなみに手が上がらなかった分は僕が食べるからな。誰も手を上げてくれないと嬉しい」
ラフィオの期待に満ちた目。みんなわかってるから、誰も手を上げなかった。剛も察したらしく腕の力を弱めた。
直後、ラフィオはグッと拳を握りしめた。喜びを表すのがわかりやすい。
「良かったねラフィオ! プリン食べ放題だよ! トッピングとか色々用意したもんねー。クリームにジャムにフルーツの缶詰」
「まあ、最初は何もつけず、プリン本来の味を楽しむべきなんだけどな」
「さすがラフィオわかってるー。はい、あーん」
「それは……」
つむぎがプリンをスプーンで掬ってラフィオの眼前に差し出す。
ラフィオが葛藤しているのは、恥ずかしさからではない。モフモフの悪魔にプリンを食べさせられることに対してだ。
けど、プリンの誘惑に勝てるはずもなく、結局は口にすることとなった。
「あれで付き合ってないは、無理よね」
俺に体を預けたまま、愛奈が少し呆れた声を出す。
まあ、同意するけど。
「ラフィオ本人は否定してるけど、付き合ってるよな」
「ねえ。わたしも悠馬に食べさせてもらいたい!」
「やめろ。恥ずかしい」
「そこのお寿司食べさせて!」
「網の上の焼き立ての肉食わせてやるよ。タレつけずに」
「待って! それ熱いやつ! 火傷しちゃう!」
「覚悟はいいか?」
「やだー! ……ねえ」
「うん」
そこまでアホな会話をしているところで、揃って違和感を覚えた。
「今日、遥ちゃん静かよね? いつもなら、これくらいのタイミングで止めてくるのに」
「そうだよな」
「お肉焼くのに忙しいとか?」
「違うみたいだぞ」
遥は車椅子に座りながら、澁谷となにやら熱心に話していた。
ふたりとも食事はちゃんとしてるし、澁谷のコップにはビールが入っている。けど、なんか重要な会話をしている雰囲気だ。
そんな遥は俺の視線に気づいたのか、笑顔を見せながら車椅子を動かし、近づいてきた。
「ねえ悠馬。わたしとデートする件だけどさ」
「うん」
「テレビの取材、入れてもいい? つまり、悠馬がテレビに出るってことなんだけど」
うん、よくわからない。




