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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第4章 偽物

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4-52.ミラクルフォースみたいに

 セイバーの弟。魔法少女と一緒に戦う覆面の男に蹴飛ばされたティアラは、地面を全身を強く打ち付けて倒れ込んだ。

 そのまま、しばらくじっとして動けなかった。


 痛い。なんでこんな目に遭わなきゃいけないの。わたしは、みんなと楽しく過ごしたいだけなのに。


 キエラの望みを果たして、それで三人で幸せに。そう、三人で。


 そうだ。キエラが望んでるから、わたしは戦うんだ。


 今、キエラもパインも戦ってる。わたしも参加しないと。得にパインはわたしの後輩だから。フィアイーターとしての体に慣れてないから。わたしがやらないと。戦いは怖いけど、わたしがやるんだ。

 倒れたまま、そんな考えが頭によぎる。そうだ。いつまでも倒れている場合じゃない。


 ミラクルフォースだって、倒れても最後は立ち上がるじゃないか。今のわたしは魔法少女の格好をしているのだし、それに相応しい行動をしないと。


 憧れていたミラクルフォースのように、拳を握りしめてゆっくりと立ち上がったティアラが見たのは、まさにその瞬間に斬られるパインだった。


「え……」


 目の前の光景を、頭が受け入れるのに時間がかかった。

 もし痛みに耐えながら、もっと早く起き上がっていれば。ミラクルフォースを気取ったりしなければ。


 自分とよく似た境遇の優しいお姉さんは、死の間際にこちらを見た。


「ティアラ、ちゃん。あ、あ、あなた、は。逃げ……」

「あ、ああ……そんな。そんな……」


 パインは死の間際、確かにティアラに優しい表情を向けていた。


「ああああああああ! 許さない! 許さない! 許さない許さない許さない! 絶対に!」


 自分の口からこんな声が出るんだ。驚きと、少しの戸惑い。それを凌駕する怒りでティアラの心は完全に支配された。

 こいつら。みんな殺してやる。絶対に!


 そう決意した。けど、戦いは終わりかけているところだった。


 ティアラの視界の端で、金時計のフィアイーターがやられるのが見えた。



――――



「ちょっとでも蹴られたら! 倒せるのに! 待ちなさい! この!」

「フィアアアアアァァァァ!」

「うるさい! 静かにしなさい!」


 ライナーはなおも、フィアイーターと追いかけっ子をしていた。悠馬たちはとりあえず問題なさそうだから、あとはこいつをなんとかしないと。

 難しそうだけど。なにか手はないだろうか。


 ふと、視界の端に知り合いがいるのが見えた。


 麻美だ。悠馬を病院に迎えに行く役を買って出てくれたことは知っている。その悠馬がここにいるのだから、彼女もいるのは道理だ。

 悠馬を送り届けて自分は逃げるなんてことは避けたかったのだろう。なんとかして、戦いの役に立とうとした。


 そんな彼女は、デパートの自動扉の向こうにいる。そして荷物運搬用の台車を押していた。百貨店のバックヤードから持ってきたのかな。

 何をするつもりかは、なんとなくわかった。


「ふふん! 逃げてばっかりなんて、情けない怪物だよね!」


 挑発するように、そしてフィアイーターの視界を麻美のいる方向から逸らすように立ち回る。


 一瞬、フィアイーターがこっちを見た。彼はなおも、狡猾にこちらの攻撃を避けるのに専念している。

 だから、動きを誘導しやすい。動きのパターンも読めてきた。こうやって対峙している位置から接近すれば、右足から逃げるんだよな。


 フィアイーター越しに、麻美にこっそり合図した。事前になんの打ち合わせもしてないわけで、伝わるかは不安だった。けど彼女は頷いた。

 意図が伝わったと信じて、前に踏み込む。フィアイーターは思った通りに右足を上げて後ろに下がった。そこに麻美が背後から台車を押して接近。足がつく位置にそれを置いて、急いで逃げていく。


 足元に転がるものがあれば、踏んだ途端にバランスを崩すのは当然。

 数メートルある細長い体が、ついに傾いた。なんとか踏ん張ろうとしたフィアイーターの足を、ライナーはようやくけることに成功。

 エスカレーターと平行になるような形で、二階の手すりに頭をぶつけるように倒れ込む。


「今朝のモッフィーみたいな活躍、ナイスです麻美さん!」

「え、ええ。そうだったのね……」


 サムズアップして感謝を伝えたところ、麻美は戸惑いの表情。今日のミラクルフォース、見てなかったのかな? 後でどんな話だったか教えてあげないと。


 今はフィアイーターを殺す方が先だけど。


 エスカレーターの上にぶつかったフィアイーターの頭にラフィオがのっかり、そのまま体を伝って降りてくる。その間に、頭や手足にハンターが次々に矢を放つ。

 わたしも協力しないと。両足を蹴って折ってしまえば、もう動けなくなるはず。


 横を見れば、セイバーと悠馬がパインというフィアイーターを殺したところだった。



――――



 パインを殺した途端、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。

 ティアラだ。こちらを憎悪の目で見て、怨嗟の言葉を吐き続ける。


 襲い掛かってくるかな。上等だ。


「許さない! わたしの! 友達を!」

「来いよ! 気持ちはわかるがお前たちは怪物だ! 生かしちゃおけない!」

「怪物でも! 友達だったの!」

「だろうな。だがお前たちは暴れて誰かを怖がらせた。傷つけた。それは許されない。その罪は償ってもらうぞ!」


 わかってる。あいつが、魔法少女に憧れる純粋な女の子だったことも。パインも不幸な身の上の、ただの人間で、ティアラたちとはコスプレして楽しむ仲のいい関係を築けていたことも。

 そんな、人間であり友を殺した事実も。

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