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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第4章 偽物

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4-51.対パイン

 麻美の荒っぽい運転で駅前ロータリーまで連れてこられた後、俺は走った。


 黒タイツが集団でいる。キエラの姿は見えないけど、ティアラとパインは素人丸出しの動きで戦っていた。

 素人ながらもフィアイーターだから、それなりに脅威だ。事実、俺の姉が危ないところだった。

 だから、ティアラに横から飛び蹴りを食らわせたというわけだ。彼女は綺麗に地面に倒れ込んだ。


「遅いわよ」

「うるさい。助けてやっただろうが」

「ええ。ありがとね」

「こっちこそ、ありがとう。俺のために頑張ってくれたんだな」

「大したことしてないわよ。でも、悠馬が元気になってよかった」

「ああ。俺も戦う。姉ちゃんたちの仲間として。だから……殺すぞ、あいつらを」


 正直、人間のフィアイーターを殺すことに、思うことがないわけじゃない。

 けど、今なら覚悟が出来た。


「ええ、やるわよ。赤い魔法少女ちゃんも、まだへばってないわよね?」

「え、ええ。もちろん」

「良かった。ここからが本番だからな、先輩」

「わ、わかってる。……ありがとう」

「なんに対しての礼だ?」

「僕が魔法少女として戦うこと、許してくれたのは君だろう?」

「そうかもな。でもお互い様だ。俺も先輩には救われた。ただの人間なのに、こうやって戦う俺と同じ味方ができたのは嬉しい」

「そうか。けど、僕は君と違って、魔法少女として戦ってる」

「そうだな。だったら僕なんて言うな。魔法少女らしく話してくれ」

「ええ。わかったわ」

「もう少し中性的に。いつもの感じで一人称を変えるだけでいい」


 男の先輩が、わざとらしく女言葉を使うのは、ちょっと違う気がするな。別にこの人、中身は女ってわけじゃないらしいし。


 そんなお喋りをしている合間にも、俺たちは敵を殺し続けていた。

 トンファーで黒タイツどもの動きを封じながら、先輩は俺の方にそいつを押し込んでくる。俺はそんな動きの鈍った黒タイツの首にナイフを突き刺して殺していく。


 ひとりよりふたりで殺した方が効率がいい。当たり前のことだけど、こうやって味方ができるのは嬉しかった。


「ねえ! 男同士で盛り上がってるところ悪いけど! こっちも手伝ってくれないかしら!?」

「あ。悪い。なにすればいい?」

「こいつの体を切り裂いて! コアを見つけるの!」


 セイバーの呼びかけ。俺の姉はパインとやりあっていた。


 いつもなら、こいつらはすぐに帰るはずなんだけどな。エスカレーターの上でラフィオと戦ってるキエラも、さっき俺に蹴飛ばされて倒れているティアラも、帰る様子はない。

 たぶんキエラのこだわりによるもの。彼女が撤退を指示すれば、残るふたりはすぐに帰るだろう。


 帰らないなら、俺がやることはひとつ。殺すだけだ。


「わかった! 先輩! 残る黒タイツは任せていいか!?」

「君たちの邪魔をさせない程度に倒して、殺すのかい!? 任せてくれ!」


 俺が黒タイツの一体を殺す。他の黒タイツも、魔法少女たちの手であらかた倒されていた。

 敵の数は確実に減っている。いける。


「姉ちゃん!」

「ええ! お姉ちゃんが頑張ってるから、あなたも頑張って!」


 残る黒タイツを先輩がひきつけている間に、フィアイーターたちを殺す。金時計はライナーが相手しているから、俺はパインだ。


 パインがセイバーの一太刀を避けた。素人の動きで、単に後ろに引いただけ。しかも動いた瞬間にバランスを崩した。人外の力で、なんとか転倒は避けたものの、よろけて動きが鈍る。

 その隙に俺はパインの背後に回り込んだ。そしてナイフを振る。

 パインの背中を横一文字に切り裂く。ピンク色のコスプレ衣装に大きな傷が入り、本体もざっくりと切れ目がはいった。


 見た目は普通の人間なのに、切り傷からは真っ黒な空間が見えるだけ。こいつに血は通ってはいない。

 だからって、傷つけることに全く抵抗がないわけはないけれど。


 ぱっと見コアは見つからない。パインの体が後退った勢いのまま俺に倒れてきたから、俺は彼女の体を抱きしめながら腕を前にやり、両手に持ったナイフをそれぞれ胸に刺した。

 そのナイフを掴んだまま、胸を抉った。

 姉ちゃんと同じ格好をしているのに、パインの体は妙に冷たい。その不愉快さに耐えながら腕の力で体を押さえつけながら両手を動かしてナイフで傷を広げ続けた。


「じ、邪魔、です!」

「うぐっ!?」


 けど、パインの肘鉄が当たって俺は思わず手を緩めてしまった。ナイフから両手を離し、床に尻もちをつく。

 痛い。けど昨日ほどじゃない。あと、ナイフはなおもパインの胸に刺さっている。傷口も大きい。


 そこに、セイバーがまっすぐ踏み込んでいく。このままパインを殺すために。


「悠馬これ!」


 背後からライナーの声。フィアイーターを相手に苦労している彼女は、僅かな隙を見て床にナイフを落し、俺の方に蹴った。

 ここに来る前、車椅子についてたやつか。床を滑って来たナイフを掴んでから、俺は起き上がる。


 胸部に大きなダメージを受けたパインは、迫るセイバーから逃げようとしていた。そうはさせない。

 パインの背中にナイフを突き刺し、さらに体重をかけることで動きを鈍らせる。その隙にセイバーが大きく斬りつけた。


「見つけた!」


 俺からはよく見えないけど、きっとパインの前が切り開かれたのだろう。そして、コアが露出した。


「セイバー斬り!」


 それは、この一撃で終わらせるという意思決定。

 ならば合わせるのが弟の役目だ。


 刺さったナイフを抉って簡単に抜けないようにしながら、空いた片手でパインの髪を掴む。ピンク色の髪はもちろんウィッグだけど、その下にある髪ごと掴んで離さない。

 直後、セイバーの一撃が走る。パインの体がビクンと大きく痙攣した。


「あ……あっ……」


 口から漏れる、力のない声。そして彼女の体は大きく崩れた。

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