4-45.会社での愛奈
ぬいぐるみの体で立派に戦っている。その事実が、ウサギのぬいぐるみであるにも関わらず自分はウサギではなくてモッフィーだと主張できる自信につながる。
「ははっ……」
笑みが浮かんだ。
これが許されるなら、なんでもありだな。魔法少女に混ざって戦う覆面男なんて大した問題じゃない。
「お邪魔するわ。悠馬くん、本当に大丈夫?」
ミラクルフォースの後の特撮番組の放送も一通り終わったあたりで、病室に訪問者が。
麻美だ。迎えに来てくれるのがこの人だったとは。
本当は愛奈が来るべきなんだろうけど、今頃疲れて眠っていることだろう。だからって休日の後輩に行かせるものでもないと思うけど。
「さっき、お医者さんと話してきたわ。先生に簡単に診てもらって、問題なさそうなら昼には退院だって。夜は、みんなで美味しいもの食べに行く?」
「あー……姉ちゃんが喜びそう。俺じゃなくて」
「たしかにね」
「なあ麻美。姉ちゃんって、会社だとどんな感じなんだ?」
ふと気になったことを尋ねた。
昨日、姉ちゃんの本気を見たから。普段からあんななのではないと思うけど。
よく考えたら、働いてる姉ちゃんのこと、あんまり知らないからな。
「んー。真面目、とは言いにくいかなー」
「やっぱり」
それは、なんとなく評判として流れてきていた。
「仕事熱心ではないからね。隙あらばさぼろうとするし。けど、与えられた仕事はしっかりやってるわ」
「マジか。真面目じゃないのに仕事できるのか」
「ええ。必要なだけやるって感じで。バリバリ働くとかは全然ないんだけどね。他の優秀で頑張ってる人よりは評価が落ちるかな」
「なるほど」
なんとなく想像はつく。
「あ、あとね。弊社なら月内納入も可能です、みたいな、現場に無茶な納期を要求するような仕事は絶対に受けない。余裕ある納期の仕事だけ持ってくるから、職人さんには好かれてるねー。お客さんにも、あんな性格だから気軽に仕事を持ちかけられるから、評判いいよ」
それは知らなかった。けど愛奈の性格を考えれば、そうなるのは間違いなさそうだ。
「割といい会社員、なのか?」
「どうかな。上司の受けは良くないよね。真面目に見えないし」
「それはそう」
「でも、こういう社員は必要。会社にも、きっと社会全体でもね。だからわたしは、愛奈さんのこと尊敬してるわ」
「さすがだな、俺の姉ちゃん」
「ええ。誇っていい」
「これで、家でも少しは真面目だったらな」
「そうね。けど……いいんじゃないかしら。愛奈さんが本気で甘えられるのは、きっと悠馬くんだけなのよ」
「うん。わかってる」
そんなこと、とっくに。
「姉ちゃんから、麻美になにか連絡はあったか?」
もうひとつ、気になることを尋ねた。
俺には連絡は来なかったけど、仲間内には伝わってるはずだ。俺も退院寸前だし、知っても構わないだろう。
「伝えることは伝えたって。剛くん、だっけ。魔法少女ちゃんはいい顔をして帰っていったそうよ。家では怪しまれるでしょうけどね」
「お堅い家っぽいからな。コスプレ趣味だけでも、いい顔しなさそうだ」
「わからないわよ。お金持ちほど人の趣味には寛容なことも多いから。さすがに、魔法少女の真似をして戦うことを許しはしないでしょうけどね」
「あの先輩がどうしたいかは、これからわかることだよな。次にフィアイーターが出た時にどうするか。ヒーローらしく戦ってくれるのか。それとも本分を理解してサポート役になってくれるのか」
部活で、俺の目的を理解して鍛えてくれる役目をしてくれるなら、それでもいいと思ってはいる。
けど、俺と並んで戦ってほしい気持ちもあるんだよな。魔法少女のコスプレをしたまま、なのかどうかは別として。
その時、看護師が俺を呼びに来た。よし、さっさと退院して帰るか。
――――
日曜日の昼前。市街の中心部であるその駅は、多くの人々で賑わっていた。
ここは、東海道新幹線の停車駅であり、この街への玄関口である模布駅。そこには待ち合わせスポットとして有名な、金色の背の高い時計があった。
そこを、前をボタンで留めるタイプのワンピースを着た人物が歩いている。だんだん暑くなっていく季節に合っている、淡い色だが透けにくい生地のもの。スカート丈は短くて、本人が美人なのもあって周囲には好色の眼を向ける男も数人いた。
まさか着ているのが男、それも岩渕剛なんて可愛げの欠片もないような名前だと知ったら、彼らはどうするかな。
知ることはないだろう。もし、声をかけてくれば別だろうけれど。
剛自身は、そうなることを望んでいた。
自分にできることをしなければいけないのだから。
昨夜、悠馬の姉に言われた通りに帰宅すると、両親からかなりの説教を受けることになった。
勝手に出歩いてなにをしていたのかと問い詰められ、心配したんだぞと泣かれた。
警察がいなくて、大事にはならなかったことだけが幸いだった。警察に迷惑をかけたことも、両親にとっては腹立たしいことらしい。
立場ある人間というのは大変だ。自分も将来、そうなることを期待されているのが、少し気が重かった。もちろん両親には感謝しているし恵まれた家庭なのはわかりつつ、それでも自由が欲しかった。
好きなことをしたかった。今は、魔法少女としての活動だ。偽の魔法少女だけど、偽物なりに力を使いたい。悠馬もそれを望んでいるのだろうし。




