4-41.これがお姉ちゃん
「……岩渕先輩はこういう人です。魔法少女のコスプレして戦うような人ではないんですけど、鍛えているから戦う自信はあるんじゃないかなー。運動部で実力が発揮できないストレスなんかも、改めて考えればあるかもしれません」
遥が説明を終えた。
先輩がなんでコスプレして戦ってたのかの動機については、遥もよくわかってないらしい。もちろん、俺たちから逃げた後の足取りも不明。
けどおおよその素性は判明した。戦う理由も、遥の言った通り家庭の方針からくるストレスがこういう形で発露されたと考えれば、納得はいく。あくまで推察だけどな。
「なるほどね。わかったわ。既に彼の両親には連絡が行ってるわ。魔法少女関連の事案とは隠して、単なる家出みたいな扱いにしてるけど」
「単なる家出で、警察がここまで大げさに探せば、両親は不審に思うだろ?」
「まあね。何らかの犯罪に巻き込まれたとか、後で言い訳はするでしょうね。なんにせよ岩渕剛の身柄はそのうち見つかる……と、地元の警察は見ている」
「そうか……」
窓の外を見れば、日が沈みかけていた。簡単なデートをするだけの日と思ってたのに、大変な一日になってしまった。
岩渕先輩がこのまま家に帰らなければ、家族も心配することだろう。
俺と違って両親のいる家だ。それも、大企業の社長でしっかりした家。
息子が家出するなんて、両親は考えたこともないのだろうな。
「あ、あの。岩渕先輩から電話が……」
遥が、スマホを片手に遠慮がちに言った。全員の視線がそっちに向く。
「出るべきでしょうか?」
「ええ。スピーカーにして。できるだけ話しを引き伸ばして。向こうの居場所を探るヒントにする」
「先輩が言うことだけじゃなくて、背後の音とかを手がかりにするんですね。わかりました」
まるでドラマで見る、誘拐事件の犯人との交渉みたいだ。遥は緊張した様子で電話を受けた。
「はい」
『神箸さんかい?』
「そ、そうです。岩渕先輩ですね? 今どこに」
『それは……神箸さん。双里くんの様子はどうだい? 怪我は、大したことなかったかい? もし、怪我してたり』
「知りたかったら直接訊きに来なさい!」
不意に、愛奈がスマホをひったくって電話を代わった。
「はじめまして。悠馬の姉よ! 弟が世話になったわね! 容態が知りたいなら警察から聞きなさい! あんたのこと探してるはずだから!」
「ちょっと! 愛奈なにを……」
樋口が慌てて制止するけど、愛奈に睨まれて怯んでしまった。
それだけ、俺の姉ちゃんの剣幕は恐ろしくて。
「警察に捕まりたくないなら、わたしの家に直接来なさい! 住所は――」
家の所在地を告げて、一方的に電話を切ってしまった。
「スマホ取って悪かったわね」
「い、いえ。……すごかったです、愛奈さん」
「お姉ちゃんだもの。弟のためならこれくらいはするわよ。さて、樋口さん。悪いけど家の周りに警察を置かないで。あの男と直接話したい」
「え、ええ。わかったわ……なにかあったら連絡しなさい。駆けつけるから」
「ありがとう。ラフィオ、つむぎちゃん。帰るわよ。なんか元気のつくものが食べたいわ」
「牛丼とかかい?」
「ええ。作って」
「わかった」
「あ。送るわ。早く帰りたそうだから」
「ありがとう。樋口さんごめんね。あなたの指示、守る気なんかなかった」
「……いいのよ。あなたの気持ちはわかる」
「ありがとう。遥ちゃんも一緒に帰る? 送るわよ」
「い、いえ。もう少し悠馬と一緒にいます」
「そう。遅くなる前に、誰か大人に連絡して一緒に帰りなさい。悠馬と一緒に泊まるのは許さないから」
「はい。あの、愛奈さん」
「なあに?」
「尊敬します」
「ありがと。これがお姉ちゃんなのよ」
遥には優しい笑みを向けている。
それから。
「ねえ。悠馬は、あの男に言いたいことはある? 許せないから死ね、とかでもいいけど」
「言うはずないだろ、そんなこと」
愛奈の表情を見れば、冗談なのはわかった。
「あいつの話も聞いてくれ。もし本気で、魔法少女のコスプレして悪と戦いたいっていうなら、渡してほしいものがある」
「ええ。いいわ」
俺のお願いを聞いてくれた姉は、微笑みながら病室から出ていった。
後には俺と遥だけが残される。
「愛奈さんすごかったねー。今までそんな感じはしてなかったけど、いきなり悠馬の保護者って雰囲気になって」
「これまでも保護者だったんだけどな」
「あはは。そうだよねー。あれが義理のお姉さんになるのか……」
「気が早い」
付き合ってると言っても、建前の上はそうした方が一緒に行動しやすいためだ。今からそういう話になるのは、飛躍が過ぎる。
「あははー。ねえ悠馬。本当に体は大丈夫?」
「大丈夫だ。どこも痛くない。病院も、明日には退院できるって言ってたんだろ?」
「そうだねー。でも残念だったね。週末を病院で過ごすだけになって。愛奈さんの言うとおり、もう少し長引けば学校何日か休めたのに」
「そうだな。けど学校休んだら、遥は車椅子押してもらえなくて困るだろ?」
「確かに! 悠馬は学校来てくれないとね! それに、フィアイーターがまた出たら一緒に戦ってくれないといけないし」
「そう……だな」
遥が屈託なく口にした言葉に、俺は戸惑いを隠せなかった。




