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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第4章 偽物

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4-39.岩渕剛

 剛は父のことを尊敬はしていた。この教育方針にも、変わってはいるけど悪いものではないと思う。


 ただ、不満がないわけではない。

 部活に入って高校生活を楽しむ、という考えとは相反する方針だ。


 運動部に選手として入ることはできない。大会に出ようにも、急に海外に連れて行かれたらチームのみんなの迷惑になる。

 だから、陸上部のマネージャーとしてしか参加できなかった。


 それでも部員たちは事情を汲んで受け入れてくれたし、トレーニングに参加させてくれた。

 彼らには本当に感謝している。不意に海外に行くことがあっても、青春を楽しめているのは間違いない。


 けど、鍛えた体の成果をどうにかして見せつけたい気持ちもあった。部活の大会以外でだ。



 そして剛は、魔法少女に出会った。


 恐ろしい怪物に身一つで立ち向かう、可憐な少女たち。

 強い少女たち。


 その姿に惹かれた。憧れた。



 あの日、コスプレショップで怪物騒ぎに巻き込まれ、魔法少女の姿を直に見たのは偶然だ。


 剛はその店に、コスプレを見にやってきた。魔法少女の格好をすることに興味があった。

 憧れは彼女たちと同じ姿をしたいという形の欲求に変わっていった。


 前から、女の子っぽい顔立ちをしているとは言われてきた。

 かわいいと言われても、そんなに嬉しい評価ではない。剛は女性に好意を向ける普通の男子。格好いいとか男らしいと言われた方が嬉しい。

 けど、魔法少女に扮するにはぴったりだ。


 やってみたい。その程度の興味でお店に行き、偶然に魔法少女の戦いを直接目にすることとなった。

 その姿に、彼はさらに心を奪われた。


 魔法少女だけじゃない。顔を隠しただけのただの男も、戦いに参加していた。

 覆面男なる人物がうちの生徒らしいことは知っていた。そして名前も聞いた。その日の朝にも名前を聞いた彼が、体を鍛えているという事実が目の前の光景に結びついた。


 彼の正体を知っている。彼と親しくしている、魔法少女のうちのひとりも知り合いだろう。



 憧れに親近感が加わった。それから、彼らに混ざって戦いたいという気持ちも生まれた。

 ただの人間でも戦えるなら、僕が混ざってもいいはずだ。


 当初は魔法少女たちの衣装を真似て着るつもりだったけど、方針を変えた。

 新たな魔法少女になろう。

 色は、そうだな。赤がいい。


 早速、魔法少女の衣装制作を始めた。

 初めてのことだったけど、予想外にうまくできた。才能があったのだろうか。それとも情熱ゆえか。家庭科の授業を真面目に聞いていたから、というのもあるのかも。


 数日で完成した衣装を持って、夜の街に出た。そしてトラブルを見つけると、こっそりと着替えてコンビニ店員に絡む酔っ払いを叩きのめした。

 目撃者は魔法少女が出たという事実に気を取られて、剛の顔を覚えられない。同じ手口でコンビニに強盗しに来た者がいたと、ニュースで見た。


 もちろん、剛は強盗などしない。正義のために力を振るうだけだ。

 怪物ではなく人を殴ることに、抵抗はあった。今度からは、そんなに強く懲らしめないようにしようと誓った。


 そして、やはり怪物を相手に戦うべきだと考えた。


 翌日、港の緑地公園で行われたイベントに参加したのは、コスプレのクオリティがいかほどの物か周りと比較するため。

 本物っぽく見えるか、周りの意見を聞くためだった。


 まさかそこに、本物の怪物が出てくるとは。


 剛は喜び勇んで、怪物の配下である黒い人間たちに勝負を挑んだ。

 殴ったとしても奴らを殺せはしなかった。けど魔法少女たちが来るまで、周りの人たちを逃がすために敵を引きつけるくらいはできるはず。

 怪物には勝てそうにないけれど、黒タイツの相手ならなんとかなる。それこそ、複数人を相手してでも。


 戦国武将たちが加勢してくれたのもあって、剛はよく戦えていた。自分でもその自信はあった。


 そして悠馬と魔法少女がやってきた。


 剛は覆面男の正体を看破しつつ、協力を申し出た。

 悠馬の返事は芳しくはなかった。自分と同じ生身で戦う人間に、戸惑っているようだった。

 構わない。一緒にいれば、自分の心強さがわかるはず。剛にはそんな自信があった。


 そして悠馬は、剛が殺しはせずに地面に伸しただけで終わった黒タイツのせいで怪我を負った。目の前で倒れた。



 地面に落ちて気を失った彼の姿を見た瞬間、剛の心は強くざわめいた。

 少し間違えば傷を負い、下手をすれば死ぬかもしれない場所に身を置いていたことに今さら気づいた。


 さらに悠馬が、後輩が、自分のせいで怪我をしたことを嫌でもわからされた。


 彼は敵を容赦なく殺していた。執拗に首だけ狙って、刺して折っていた。

 喧嘩の真似事をしていた自分とは、根本的に違う態度で戦いに臨んでいた。


 魔法少女のひとりが血相を変えて悠馬に駆け寄っていくのを見て、剛は怖くなって逃げてしまった。


 そのまま着替えてその場を去る。とりあえずは家に帰ろうとして、できなかった。

 家の近くに不審な男が何人もいたのを見つけたから。


 魔法少女を騙る不埒な人物として警察に探されていると悟った彼は、行方をくらますことにした。

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