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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第4章 偽物

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4-37.昨夜の岩渕先輩

 しかし今の優先度としては、かなり低い情報だ。


「まったく……まず、ここは見ての通り病院よ。悠馬がやられたと聞いて手配したわ」


 こういうとき、樋口が一番頼れるな。というか、わかっている。


「警察の融通が利く病院。個室もすぐに用意してくれたわ。費用も、公安の予算から出してあげる」

「それは助かる」


 大事なことだ。うちの家計事情はそんなに明るくない。


「精密検査をして、軽い打ち身くらいで体のどこにも異常はないって結果を出した後は、あなたが起きるまでみんなで待ってたところ」

「そうか。じゃあ、すぐに帰れるのか」

「焦らないで。とりあえず今夜は入院しなさい。明日の昼には退院できるから」

「残念よね。日曜日の昼に退院なんて。あと一日入院できてれば月曜日は休めるのに」


 俺に抱きついたまま愛奈が言った。軽口を叩けるなら大丈夫だな。俺から離れろ。その気配はなさそうだった。


「月曜日には、悠馬は車椅子押してくれなきゃ駄目だもんねー。はい、リンゴ食べて」


 遥は、いつの間にか切られているリンゴを俺に差し出した。

 旨い。ぶっ倒れた後のリンゴって旨い。


「続きを話してもいいかしら」

「ああ。頼む」

「悠馬自身に問題はない。あの襲撃で、他に怪我人も死者もいなかったわ。おもてなし武将隊は、あの状況で怪我人を守った功績で表彰されるそうよ」

「そうか」


 戦士でもないけど、市民を守るために戦った武士の鑑だ。讃えられてほしいのは間違いない。


「岩渕剛という人物については、今のところ行方はわからない。既に人員を家に向かわせてるけど、帰ってないそうよ」

「行方不明?」

「ええ。悠馬が負傷した直後に逃げたのでしょうね。さっきの戦いの後の彼の足取りはわからないわ」

「後の、か」


 樋口の、含みのある言い方に気づかない俺じゃない。


「ええ。これを見て」


 タブレットの画面を見せる樋口。映っているのは、コンビニの監視カメラ。


 最近よく見るな、この手の映像。全部、樋口のタブレットの中でだ。


 残念ながら今回はコスプレした強盗が映っているわけではない。

 フラフラと足取りのおぼつかないスーツ姿の男だ。それが入店したかと思うと、店員に絡み始めた。


 画面の端に出ている時刻から察するに、これは深夜の出来事。酔っ払った駄目なおっさんが、絡みやすい相手に絡んだだけのこと。


「ほんと、嫌よね。他人に迷惑かけるまで酔っ払うなんて」

「本当にな」


 いつもそれくらい酒を飲んでる愛奈は自覚がないのだろうか。俺の体に手を回したまま、そんなコメントをした。


 重要なのはここからだ。画面に新しい登場人物。


 赤い魔法少女のコスプレをした、何者かが店に入って、問答無用で酔っ払いを蹴飛ばした。

 抗議する酔っ払いの顔面を殴って倒した後に、仁王立ちになって何かを語りかけている。


「ヒーローが悪い奴に道徳を語りかけているのかしら。今まさに殴り倒した相手に」

「まあそうでしょうね。愛奈の言いたいことはわかるわ。暴力を振るって、なにが道徳よってことよね」

「うん。まあ、わたしたちも暴力で事件を解決してるけど。その上で道徳まで守る気はないわ」


 いや。そこは守れよ。人に説くまではしなくてもいいから。最低限の道徳は守れよ。


 タブレットの中では、おとなしくなった酔っ払いを店の外に連れ出す魔法少女が映っていた。

 顔がちらりと見える。さっき見た姿と違ってウィッグまではしていなかったから、少しだけわかりやすかった。


「岩渕先輩だねー。これ、いつの映像ですか?」

「昨日の夜よ」

「へー。昨日の夜からコスプレしてたんだー」


 遥が、かすかな驚きと共に言う。


「その様子じゃ、彼がこんな格好をしていたことは知らなかったようね」

「そうですね。付き合いは長いですけど、コスプレ趣味は知りませんでした。確かに女装が似合いそうな顔ではありますけど」

「なるほどね。昨夜、こうやって迷惑客を叩きのめす、別な種類の迷惑客になった。そして今日は、なぜかフィアイーターと戦った。あの格好をしている意味もわからないし、なぜ魔法少女たちより先に現場に来れたのかも不明」

「それは簡単なことじゃないですか? 先輩は今日、プライベートでコスプレイベントに来てたんです。そこに後からキエラが来たから、正義心とかで戦い出したんです」


 正義心か。酔っ払いをこらしめる延長で怪物と戦うのに、その言葉で片付けるのもどうかと思う。

 けど、先輩の動機が正義なのは、ありえそうな雰囲気だ。


「わからないのはキエラの方ですよ。魔法少女のコスプレをしてラフィオの気を惹きたいのはわかりますけど、イベントに出る意味はなんでしょう」

「フィアイーターに追いかけ回されていた男性カメラマンに話を聞けたわ。小学生を含む、魔法少女のコスプレイヤーと直前に話をしたって」

「なんて言ってた?」

「自分たちが、本物の魔法少女よりかわいいのかを気にしてたって」

「なるほどな」


 あいつらの目的は一貫している。


「懲りないよねー。キエラがわたしよりかわいいなんて、ありえないのに。それに、わたしとラフィオが付き合ってる事実も変えられないのに」

「ああ。そうだな。付き合ってないのに付き合ってることにされてるんだからな」


 少年の姿のラフィオでも、つむぎにとっては愛おしいらしい。手を繋がれている彼は疲れた顔を見せていた。


「敵の目的が色恋っていうのは、お偉方には頭が痛いでしょうね。本性はどうあれ、真面目な顔をしたがる人たちだから。敵が攻めてこないような対策をしにくい」

「敵の目的は人類の破滅だろ? 人間がいる限り、対策なんかしようがない」

「そうなんだけどね。対策をしろって言ってくる輩がいるのよ。そうした姿を見せると格好いいとか、支持者の受けがいいとかで。政治家連中や警察上層部の政治の話よ」


 そういう奴らは、コスプレイヤーが誰かを好きとか、そんな浮ついた話題に触れたくないよな。

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