3-33.赤い魔法少女の正体は
確かに彼女は強いらしい。でも逃げるべきだ。
彼女の後ろで黒タイツが次々に起き上がり、襲いかかろうとしている。俺はそっちに駆けていった。
「後ろ! 気をつけろ! 戦うつもりなら本気で殺しにかかれ!」
「え?」
彼女は本気で困惑した様子を見せた。倒したはずの黒タイツが復活しているのに気づき、いつの間にか囲まれている現状に対してだ。
気絶させれば終わりとでも思ってたのか。
俺はそんな黒タイツの一体に接近しつつ、槍で奴の足元を払う。バランスを崩して転倒していく奴の首を空中で蹴飛ばせば、首が折れる音が聞こえた。
日頃から走ってるから脚力には自信があるんだ。人を蹴り殺すくらいのキックを放つと、ものすごくスタミナを使うんだけどな。
謎の魔法少女さんも陸上部で鍛えればいい。
「ゆ……あなた! 大丈夫!?」
他の目があるからと、駆けつけたセイバーは俺の名を呼ぶのを避けながら黒タイツを切り捨てる。さすが、俺よりもずっと簡単に殺しをやってのけた。
フィアイーターが二体、こっちに駆けつけてくる。そっちの相手もしないといけないな。けど、まずはコスプレ女の安全が先だ。
セイバーが剣を振り、さらに黒タイツを二体斬り殺した。それぞれ首と胸をばっさりいって、即死だ。さらに返す刀でもう一体を斬ったが、それは腹部に浅い切り傷をつけただけ。
しかしそれで黒タイツは怯んだ。後は俺が引き継ごう。
そいつの首を掴んで引きずり倒し、できた傷に槍を突っ込んで中をかき回す。
殺傷力のないコスプレ用の槍でも、傷口を抉られれば重傷になる。臓器もないのに黒タイツは死んでいった。
「ねえ! 今日こいつら多くない!?」
「フィアイーターが二体いるから!」
「ああもう! ねえ! あんたさっさと逃げなさい!」
黒タイツが死んで消え始めたのを確認してから顔を上げると、赤い魔法少女はまだ戦っていた。
ただの人間が、俺たちが来る前から黒タイツたちに囲まれながら格闘を繰り広げていたわけで、明らかに疲れが出ている。
動きもぎこちなくなっているようだ。それでも、黒タイツにハイキックを食らわせて怯ませているあたりはさすがだけど。
彼女自身もまずい状況なのは自覚している様子。けど、黒タイツが周りにいるから退路がない。というか、黒タイツがそういう取り囲み方をしているんだ。
逃げられないようにしつつ、一体か二体ずつ順番に迫ってくる。どうせ殺されないとわかっているから遠慮なく突っ込む。
そして、魔法少女が疲労した頃合いを見計らい。
「さあ! その新しい魔法少女を捕まえちゃって!」
キエラの嬉々とした指示が聞こえた。奴はまだ、赤いのを本物の魔法少女と思っているらしい。
黒タイツの連携も、キエラの指示か。
周囲から一斉に襲いかかられた魔法少女は、咄嗟に動けなかった。そしていくつもの腕が彼女を掴む。
「なっ! や、やめろ!」
焦った声と共に藻掻く魔法少女。俺もセイバーも助けようとするけど他の黒タイツに阻まれてたどり着けない。
そして、布が裂ける音がした。単なるコスプレ衣装だった赤い服が破れたんだ。
赤い魔法少女の素肌が大きく露わになる。当然、胸部も。
俺は咄嗟に目を逸したけれど。
「……男?」
セイバーの声に、改めてそちらを見る。
細めながら引き締まった体格。胸板もそれなりにあり、腹筋も薄っすらと割れている。
女が持つ、胸の膨らみは見られない。まだ、愛奈みたいな極端な貧乳の可能性はあるけど。
けど、こいつが男の可能性が出た瞬間に、見覚えのある顔つきが誰のものかを思い出した。
「先輩……?」
そう呼びかけようとしたけど、小さく口に出しただけにした。
向こうは俺の顔を知らない。いきなり後輩ですと言っても混乱するだけだろう。
「なーんだ。新しい魔法少女じゃなくてコスプレだったのね。しかも男なんて。ラフィオに関係ないならどうでもいいわ」
キエラが不満そうな口調で声を上げた。こいつは、ラフィオの気を惹くためにコスプレをしている。
男のコスプレイヤーに興味がないのは当然か。
「白けちゃった。ふたりとも、帰りましょ」
「ちょっと! 待ちなさい! 潜水服さんを怪物にしたこと許さないから!」
「へえー。あの気持ち悪い人形、大事なものだったんだ。知らないけどね。じゃあね!」
セイバーの制止を聞く女じゃない。
姉の怒りはよくわかるけど、手が足りない今はキエラたちが撤退してくれたのは嬉しい。参戦すると言われたら勝てる気がしない。
ただでさえ、謎のコスプレ魔法少女。いや、岩渕先輩を守れるか怪しい状況なのに。
「セイバー! フィアイーター二体、なんとかできるか!? 俺はこの人を守る!」
岩渕先輩を取り囲む黒タイツの何体かをまとめて切り捨て、脱出の糸口を作っていたセイバーに指示を出す。
俺にフィアイーターの相手をするのは少し荷が重い。やれなくはないけど。
「ええ! わかったわ! 本当に! この人を斬る日が来るなんてね! セイバー斬り!」
一度剣を天に高く掲げて光を吸収させてから、特に意味のない技名を叫びながら斬る。




