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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第4章 偽物

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4-29.模布港水族館の潜水服

 キエラがコスプレイベントに行こうと言い出した理由は、自分たちが人を引きつけるかどうかを確かめるため。

 注目を集めるならばそれだけ魅力的であり、キエラの大好きなラフィオという男の子の気も惹けるだろうとの考え方。


 もし不評なら改善をしていけばいい。そう考えていたのだけど、この結果はキエラを喜ばせるには十分だった。


 三人を、たくさんのカメコが囲んで写真を撮っている。キエラもティアラもノリノリでポーズを取っているけど、パインは気が気じゃなかった。


 カメコの中には、カメラを極端に下に持って見上げるような角度で撮影する者も多く混ざっている。ローアングラーと呼ばれる彼らへの警戒を、キエラたちは何もしていない。

 短すぎるスカートの下には、パンチラ対策など何もしていないショーツを履いているだけ。今日は風もないからスカートがめくれることはなさそうだけど、それでも無防備すぎる。


 なのに、キエラはあろうことか。


「ねえ。あなた」


 カメコたちの中で、一際立派なカメラを持っている男の前に歩み寄った。


「わたし、かわいい?」

「え、あ。う、ん。かわいいよ」


 急に話しかけられた彼は、かなり戸惑った様子で受け答えする。こんなことは普通ではありえないからだ。


「嬉しいわ。この格好、似合うでしょ?」

「それはもちろん、だよ」

「ふふっ」


 キエラは満足げに笑って、その場で回ったり軽く跳ねたりした。スカートが危うく翻り、シャッターの音がする。


「ねえ。どれくらいかわいい?」

「それは……」

「ねえ。教えてよ」


 男の心情が戸惑いから困惑に変わっている。そんな曖昧な質問に、咄嗟に答えられるほど彼は人馴れしていない。パインと同じようにだ。


「本物の魔法少女よりも、かわいいかしら」

「どう、かな……」


 その時、タイミング良くアナウンスが聞こえた。会場に設営されたステージにて、特別ゲストのパフォーマンスが行われるらしい。

 おもてなし武将隊がどうとか。そんなのに興味があるカメコでもなさそうなのに、彼は慌てたように話しを切り上げて行ってしまった。


 彼も魔法少女のファンで、本物よりもコスプレの方が上とは言えなかったのか。それとも幼い少女にグイグイ来られることに忌避感があったのか。


 とにかく、キエラは途端に不機嫌になった。


「あいつ嫌い。ちょっと懲らしめるわ。フィアイーターの材料としておもしろそうなもの、あるかしら」

「ええっと……」


 パインは尋ねられて、周りをキョロキョロ見回す。たくさんの人間。カメラ。目についた建物。あれは確か、水族館。


「あの中にあるのね! 行ってみましょう!」


 直後、キエラは空中に穴を作り出した。



――――



 この水族館には、深海魚の展示コーナーがある。

 深海を模して薄暗い照明の中、水槽で生きた魚が展示されている他、標本となった生物の展示もある。


 そして水生生物の展示の他に。


「おー。相変わらず目立ってるわね、潜水服さん」

「もはや水族館のシンボルだよな」

「そうよね。隠れた名物にして、子供たちに恐怖を与えるナイスガイ」


 暗く静かな雰囲気のコーナーの中で、一際異彩を放つ展示品がある。


 突如として現れる、二体並んで置かれている昔の潜水服の等身大のレプリカだ。


 それぞれ十七世紀と十八世紀に作られた潜水服だ。

 説明を見れば、未知なる世界への飽くなき探究心を持った挑戦者たちが、どのような考え方で水中に入ろうとしていたのかを示す興味深い展示だ。


 だが見た者はそれよりも先に、不気味だという感情に襲われることになる。


 なにしろ人間に近いシルエットをしつつ、片側は頭部が胴体と同じ太さのヘルメットを被っていて、そこについた黒く大きな目と鼻から伸びるチューブが妙に目立つ。しかも片手には斧を握っている。

 もう片方も、全身を革製のスーツで覆いつつ、スーツと同じ素材のチューブが頭頂部からとぐろを巻いて伸びているのが異様に見える。しかも彼は除き穴の部分から、生気のない相貌が覗いていた。


 薄暗い照明も相まって、ものすごく不気味に感じる。

 昔の特撮ドラマに出てくる怪人の雰囲気にも似た怖さだ。


 遠足で来た際に、不意に現れたこの潜水服に恐怖し、トラウマを植え付けられながら足早に逃げていくというのは、模布市民としてはありがちな小学校の思い出である。

 今見ると、そんなに怖いものじゃないんだけどな。


 愛奈はその展示の前で足を止め、しばらくじっと見つめていた。

 さっき魚を見ていたのと同じ、優しい笑みを浮かべた表情。

 理由はわからないけど、悟った。これが、愛奈が水族館に行きたがった理由だ。


「好きなのか? この潜水服」

「んー。わたしが好きなんじゃなくて、春馬がね」

「兄貴が?」


 双里春馬。


 両親と共に死んだ兄の名前が出てきて、少し驚いた。


「春馬が東京の大学まで、何を勉強しに行くつもりだったか知ってる?」

「……いや」


 偏差値の高い大学に入るため、必死に勉強しているのは知っていた。けど五歳年下の俺は、大変だなと思うだけで特にその中身について知ろうとはしなかった。

 理系の勉強をしているのは知っていた。特に生物分野に力を入れていたことも。

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