4-24.人にはいろんな面がある
「人間、見た目によらないってことかな。いや、ちょっと違うか?」
「いろんな面を持つってことじゃないかな。その人が普段から見せてる姿が全部じゃないってこと」
「なるほど」
「自分で言っておいてなんだけど、深いね。なんか人生の真理を言い当てた気分だね」
「そこまでではないけどな」
「あはは。でも、みんなそうだよね。部長とかも、陸上には真剣だしリーダーとしても頼り甲斐があるけど、意外に勉強はできない、みたいな」
「そうだな……意外に勉強ができないのは遥も一緒だな」
「まあまあ。それはそれ。これはこれ」
「期末テストは赤点取るなよ」
「悠馬が勉強教えてくれたら回避できます。全ては悠馬にかかっているのです」
「まったく」
そんな会話をしながら疲労の回復を待っていると、向こうから歩み寄ってくる人影が。
「やあ。神箸さん、双里くん」
岩渕先輩だった。運動用のジャージを着ているけれど、運動をしているわけではない。マネージャーというのは本当らしい。
「頑張っているみたいだね、双里悠馬くん」
「は、はい」
なぜか、俺をフルネームで呼んだ彼に、たじろいでしまう。
優しげで、しかしこっちを真っ直ぐに見つめる目から、こちらも目を逸らすことができなかった。
「文香から聞いたよ。なにか鍛えたい理由があるらしいね」
「ええ。ちょっと色々ありまして……」
「倒さないといけない敵がいるとか、かい?」
「えっと」
答えに窮する。本当のことを言うわけにはいかない。けど、嘘をつけばたちまち見透かされてしまいそうで。
「はい! 悠馬はわたしを守るために鍛えてるんです!」
遥はそんな先輩に、一切臆することなく嘘をついた。
こいつ、得意だよなこういうの。
「ほら。わたしってこんなに可愛いし、けど車椅子のおかげでか弱く見えちゃうじゃないですか! 良からぬ男からわたしを守るために、強くなりたいそうです!」
自信満々に言い切って、笑顔で親指を立てる。
「な、なるほどね……それは立派だ。けど、本当は」
明らかに戸惑い気味の岩渕先輩は、まだ突っ込んで訊きたそうな様子。けどその時、遥のスマホが鳴った。
愛奈からだった。もうすぐ仕事終わるから、テレビ局まで来てくれとのメッセージを見せてくれた。
俺は放課後はジャージに着替えて運動だから、連絡は遥にしてくれと事前に頼んでおいたのだけど、いいタイミングで来てくれた。
「悠馬のお姉さんからの呼び出しです! 急ぎみたいなので失礼します! 悠馬行こ!」
「お、おう……」
「双里くんのお姉さんの連絡が、神箸さんに?」
「あ、はい! わたしたち仲良しなので! 実の姉妹みたいに!」
愛奈が聞けば即座に否定するやつだ。
遥に連絡が行ったことで、俺が鍛える動機とは別な不審感を与えてしまったようだけど、その場は切り抜ける事ができた。
「そうか。気をつけて帰るんだよ。最近は怪物が出るって言うから」
この街ではごく当たり前の挨拶を、先輩は別れ際に告げた。
「なあ。岩渕さんって元からああいう人なのか?」
バス停まで車椅子を押しながら遥に尋ねた。
「んー。穏やかで観察眼がある人だよ。人の本質を見抜くっていうのかな」
「なんだよそれ」
「成績が伸び悩んでる部員の課題点を見つけるのがうまかったり」
「なるほど」
それは、マネージャーとして理想的な能力に思える。俺のことを見透かすのはどうかと思うけど、気持ちはわかる。
別に入部するわけでもなく、部として大会に出たりして実績を作るわけでもない奴が出入りしてるのは、たしかに気になるだろう。
本当のことを知らなければいいのだけど、詮索されるのは困るな。
「ま、わたしの完璧な言い訳のおかげで、先輩はごまかせたけどね」
「その自信、どこから来るんだろう」
「人生ポジティブに生きるべきだとわたしは思うんです! 常に前向きに!」
「尊敬できる所もあるけど、そのせいで馬鹿みたいに見えるのはどうかと思うぞ」
「だっ!? 誰が馬鹿なのかな!?」
「馬鹿は嫌だってプライドはあるんだな」
「わ、わたしをなんだと思ってるんでしょうか!?」
――――
危なかった。悠馬と遥は、僕をどう思ったのだろう。彼らの背中を見送りながら、剛はひとりで反省する。
彼らが鍛える意味を、剛は確信していた。
けど、正体を隠したがっている彼らをの方針に水を差すところだった。それはいけない。
魔法少女たちは、自分たちの素性を明かすことなく戦う偉大な戦士。それを邪魔することは、剛も望むことではない。
おりしも、世間では魔法少女のコスプレが流行っているという。いい機会だ。彼らの手伝いをするにはそれしかない。
剛は部屋で、ミシンに向き直り作業をする。あの日、コスプレショップで怪物騒ぎを見た時からずっとやっている製作も、もう少しで終わりそうだ。
――――
『お世話になります! 魔法少女シャイニーセイバーです! 視聴者の皆さんには、日頃から大変な支持を受けていて、感謝の言葉もございません! 今日は皆さんに、お願いと注意があって、テレビの電波をお借りして呼びかけています!』
その翌日の夜。
テレビ画面の中で、セイバーが緊張した表情で喋っているのを、俺たちは揃って眺めていた。いつもの五人に、樋口も澁谷も麻美も揃っていた。




