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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第4章 偽物

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4-19.公安のおごり

「樋口。これ、公安の予算で下りたりするか?」

「警察の金で飲もうだなんて、とんだ不届き者ね」


 画面を見せながら尋ねると、そうだろうなという答えが返ってきた。けど。


「俺は姉ちゃんの機嫌を取らないといけないんだ」

「……」

「警察の上層部と、偉い政治家の心配を取り除くためなんだ」

「ああもう! わかったわよ! 言っておくけど、予算に上限はあるからね!」


 言えばなんとかなるものだな。


「ちゃんと愛奈を説得するのよ? まあ、あなたは比較的頼れる人だと思うから信頼はするけど」

「わかってる。頑張る。樋口も、その女の身元を早く特定してくれ」

「ええ。既に地元の公安に情報は送ってるわ」


 さすが公安。仕事が早い。


 そして俺と樋口とで、駅の近くの百貨店に行く。

 いつもコンビニかスーパーでしか酒を買わない愛奈にとっては、デパートの地下売り場と言えども高級品のオンパレードなことだろう。


「高いビールと、日本酒と……ワインかな」

「本当に、あの子何でも飲むわよね」

「普段は安いビールで手っ取り早く酔うのが多いんだけどな」

「なんでいつも、そんなに酔おうとするのかしら」

「……さあな」

「理由、知ってたりする?」

「知らない」


 食い気味に答えて、俺はおつまみを選ぶべく酒の売り場から離れていった。




「でかしたわ悠馬! やっぱり公安ってお金持ってるのね!」

「樋口が言ってたぞ。公安の限りある予算で贅沢させてあげたんだから、成果を出しなさいって」

「えー? 動画に出ろってことでしょ? それで澁谷さんのテレビで流れる」

「そうだな。澁谷は実際にスタジオで映像を収録するつもりでいる」

「おおう。それは、いつの間にか事態が大事に……けどまあ、素人が撮るよりはプロにお願いした方がうまく行くでしょうね。結局、時間も短く済む」

「ああ。樋口がテレビ局と調整して原稿を用意するから、姉ちゃんは当日スタジオに行ってそれを読むだけだ。生放送ですらなく、収録だからトラブルが起こっても大したことじゃない」

「乗った! せっかくだから、この美貌を余すところなく映してもらうことにするわ!」


 自意識が過剰なのは別として、高い酒が入っているのもあって了承を得られた。


 もっとも、一番機嫌を良くしてるのは。


「姉ちゃん。俺とのデート、どこ行きたいか考えておいてくれよ。できれば居酒屋以外で」

「ちょっと待っててねー。すぐに思いつかなくて。どうしてもっていうなら居酒屋もいいの?」

「どうしても、酒が飲みたいって言うなら」

「そっか」


 俺の返事を聞いた愛奈は、柔らかな微笑みを見せた。

 愛おしい者に向ける、慈愛の表情。


「そっかそっか! うん! 評判のいい居酒屋とかバーで倒れるまで飲んで、悠馬に抱えられながら帰るの、結構楽しいって思ってるんだけどねー」

「おい」

「あはは! まあ、それは他に考えつかなかった時の最終手段ってことで! 実際にどこ行きたいかは、ちょっと考えておくわね!」


 次の瞬間には、愛奈はいつもの馬鹿に戻っていた。何も考えていない、俺に面倒ばかり押し付けてくる奴。

 けど、わかってる。


 さっきのは決して見間違いなんかじゃない。




 翌日の夕方には、樋口は調査結果を持ってきた。さすが公安。怖いくらいに仕事が早い。


 俺たち姉弟の家に、当然のように遥が来て夕飯の支度をしているし、同じく夕飯を作っているラフィオにつむぎがちょっかいを出している。

 全員が揃っているのを見て、樋口が説明を始めた。聞くのは主に俺だ。愛奈は昨日の酒の残りを早速飲んでいる。


「女の身元がわかったわ」

「何者だった?」

「結論から言うと、警察が探し求めている人間だったわ。例のコスプレ窃盗団の女の方。歩容認証で確認済よ。怪物が出る直前も、魔法少女の衣装を見ていた」

「そうか」


 歩容認証ってすごいな。あの女も死ぬまでは普通に歩いていたわけで。そこを店内の監視カメラに撮られて歩き方を確認されたわけだ。


 死人が、なんの罪もない善良な市民ではなかったことは、少しは心を軽くする。善人よりは悪人の方が、死んでも良心が痛まない。比較的だけどな。


「犯行を繰り返すため、シャイニーセイバーの衣装の質を上げるために来店したのでしょうね。当日の行動を各カメラで逆算して、あとは周辺住民の聞き込みもして、身元は判明したわ。彼女は市内の人間で、名前は」


 そこで、樋口は言い淀んだ。


「どうした?」

「いえ。何も。よく考えれば、あなたはこういう名前の前例を知ってるのよね」

「なんだよ急に」

「これは冗談じゃないから、笑わないでね。死んだ彼女の名前は、柿木パイン」

「あはは! パインちゃん!」


 笑うなと言われたのに笑ったのは、既に酔っている愛奈だ。俺は逆にため息をついた。


 パインちゃん。柿木パインちゃんか。

 ティアラと同じ、キラキラネームっていうやつか。


「漢字表記はあるのか?」

「住民票の写しがあるわ」


 樋口が出した書類には「柿木歯院」と書かれていた。


「パインちゃんにするにも、もっと可愛い書き方があると思うのよねー。なんでこの字にしたのかしら。お母さんが妊娠中に歯医者さんに行ったとか?」

「父親に、彼女の出産時期と前後して歯科医の通院歴があったそうよ」

「へー。じゃあ名前をつけたのはお父さん?」

「そこまでは調べられてない。両親は離婚済で、父親が引き取ったものの彼は既に亡くなってる。証言を聞きようがない。母親は九州の実家に帰ったそうよ。今、人が向かってるところ」

「そっか。じゃあ、名前をつけたのはお父さんで決まりね。お母さんの方は娘に全然執着がなさそうだもの」

「……ええ。それはありえるわね」


 よく知りもしない相手の考えを言い切ったけど、樋口は否定しなかった。

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