4-18.死んだ女は何者か
「おかえりなさいウサー。みんな、よく頑張ったウサー!」
「わーい。モッフィー、いい子にして待ってた?」
「つむぎちゃんのこと応援しながら待ってたウサ!」
駅の近くのカフェで、澁谷と樋口は待っていた。
澁谷が抱えて声を当てているモッフィーのぬいぐるみと、つむぎが再会を喜び合っていた。モッフィーの声真似するの気に入ってるのか?
いやそれよりも。
「樋口。また、人間のフィアイーターが作られそうだ」
「本当に? 勘弁して欲しいわね」
「この女だ。身元を割り出すヒントにしてくれ」
さっき撮った写真を樋口に送信する。
「若い女ね。監視カメラの映像で、この女の今日の動きを遡って身元を洗うわ。それにしても、キエラという奴は同性の友達が欲しいのかしら」
「いや。奴が今回欲しいのはコスプレ仲間だ。それも僕を誘惑するための」
少年の姿になったラフィオが、かなり疲れた様子で会話に入ってくる。
疲れているのは、ぬいぐるみを抱きしめたまま、なんとか首元をくすぐって妖精に戻そうとするつむぎと攻防を続けているからでない。
「キエラとティアラがコスプレをしていた。僕とつむぎ、シャイニーハンターを恋人と誤解していて」
「誤解じゃないよ! わたしたち本当に結婚するもむぐっ!?」
ラフィオがぬいぐるみを押し込んだため、モッフィーの後頭部がつむぎの顔に押し付けられる。
「まあ事実は別としてだ。キエラはハンターに対抗意識を燃やしている。そして、同じ格好をすれば自分の方がつむぎよりも魅力があると考えて、コスプレショップを襲った」
「ひどい話だな」
「まったくだよ。あの格好をしようと、キエラのことを好きになるなんてありえないのに」
「でもさ。魔法少女の服ってラフィオが作ったんだよね? あの服自体にはラフィオの趣味が込められてるってことでいいの?」
遥から尋ねられたラフィオは、少しだけ視線を彷徨わせた後。
「まあ、それはそうだ」
「そっか! じゃあわたし、家でもできるだけ変身してラフィオと過ごすね!」
「お前は自分の家でじっとしてろ。あとむやみに変身するな。ぬいぐるみモフモフだけしてろ」
「むー!」
そうやってつむぎと言い合いをするラフィオは、ちょっと楽しそうなんだよな。実際に、用事もないのに変身することの是非は考えないようにしよう。
「コスプレしても僕がなびかないと知ったキエラは、その原因をハンター自身が邪魔をしているからか、それとも魔法少女が三人揃ってないから、ということにしたらしい」
どうあっても、自分が好かれることはないという事実には目を向けない気か。
「それで、年齢の合うセイバーのコスプレイヤーを探すことにしたところ、偶然ちょうどいい死者がいたというわけだ」
「なるほどね。この不幸な女性が、フィアイーターとしてキエラの味方になってくれるかは未知数だけどね」
死体の写真からわかることは少ない。
「まずは身元確認からよ。善良なコスプレイヤーだったらいいのだけど」
そう願いたいものだ。
「ねえ澁谷さん。この近くの、おすすめのデートスポットとか知りませんか?」
遥が、かなり前のめりで澁谷に話しかけていた。
「遥ちゃんどうしたの? デートの予定が?」
「はい! 悠馬と行くんです! でもその前に悠馬は愛奈さんとデートすることになって。その協力です」
「あら。悠馬くんも罪な男ね」
「樋口の上司の要請に関係して、やらなきゃいけないんだよ。姉ちゃんがメディアに出て忠告をする仕事に向けてのご機嫌取りだ。あとデートの提案をしたのも遥自身だ」
「そうなんだけどー。でも好きな男の子が他の女とデートするのは、やっぱり悔しいなーって」
「実の姉でも?」
「愛奈さんは特殊なの! それで澁谷さん! デートスポット教えて下さい! テレビ局ってそういうの詳しいですよね!?」
「ええ。まあね。後でおすすめを纏めて、メッセージ送るわね」
「よろしくお願いします!」
「おい。デートスポット知るのはいいけど、姉ちゃんのやりたいことが最優先だからな」
「わかってるわかってる。半分はわたしのためだから!」
「こいつは……」
「ラフィオー。わたしもラフィオとデート行きたい」
「さっきやっただろ。というか、子供同士で遠出は駄目だ」
「むー」
「まあまあつむぎちゃん。また連れて行ってあげるから。一緒にお出かけしようね」
「本当!? やったねラフィオ!」
「僕はそんなこと望んでない!」
上機嫌な遥によって、ラフィオもまたデートが決まったらしかった。
「悠馬くん。デートは別として、愛奈さんが魔法少女としてテレビに出てくれると聞いたのだけど」
「今、説得中だ」
「都合のいい日、教えてね。例の窃盗団と、今後出てくるかもしれない模倣犯に注意を促すのは、早いほうがいいから」
「わかってる。善処する」
そのためのデートだけど、骨が折れるだろうな。澁谷は、魔法少女がスタジオに来ることを楽しみにしている様子だけど。
とりあえず、帰って愛奈の希望を確認するところからだ。
もう仕事を切り上げて帰る頃だろうか。スマホを見ると、愛奈からメッセージが来ていた。
『せっかく布栄にいるなら、百貨店で高めのお酒とおつまみ買ってきて! 樋口さんか澁谷さんにお願いして!』
とのことだ。




