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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第4章 偽物

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4-16.キエラとティアラと、ひとつの死体

 ボロボロの衣装でスカートを翻しながら迫ってくるキエラ。けどライナーの方が足が早く、タックルされて仲良く床に倒れ込む。そして横になったまま掴み合いをしていた。

 キエラは再び動けなくなったけど、俺の危機は去っていなくて。


「ティアラ! そいつを代わりに殺して!」

「うん! わかった!」

「おいおい……」


 キエラの指示を疑うことなく受け入れ、ゆっくりとこっちに歩いていくるティアラに、俺は勝つ自信などなかった。

 それでも逃げるわけにはいかない。


「来いよ。日野ティアラ。お前は悪事を働いた。その報いは受けろ。怪物になった以上は、死なないといけない」


 さっき殴られた時、ナイフは落としていたようだ。拳を作って身構える。


「死なない! キエラと、もっと楽しいことしたいから!」


 この子にも事情はあるんだろうな。けど、楽しみを胸に俺を殺そうと、勢いよく走ってきて飛び蹴りを仕掛けてきて。


「とりゃー! お姉ちゃん参上!」


 瞬間、俺とティアラの間に、世界一馬鹿で頼れる姉が割り込んできた。

 ティアラの蹴りを、光の剣で受け止めてそのまま押し返す。そして。


「ちょっと! なんで敵がハンターとライナーの格好してるの!?」

「今は気にするな。ただのコスプレらしい」

「気になるでしょ!」

「気持ちはわかる」


 予想できた受け答えだ。


「それより姉ちゃん、仕事は?」

「外回り中に抜けてきました! 客先から客先への移動時間と考えてください! 営業車は麻美が運転してるし客先から連絡の電話が来ても彼女が受けてくれます! 後輩最高!」

「新人に色々押し付けてるな」

「麻美は優秀だから大丈夫よ」

「それは同意するけど。さっさと終わらせて仕事に戻れよ」

「戻りたくないです! けどさっさと終わらせるのは同意」


 姉ちゃんと並び立ち、ティアラと対峙する。俺は、さっきクッションになってくれた衣装のうち一つを手に取り、ハンガーだけ拝借して武器として構える。

 ティアラも起き上がり、友の命令を履行すべく突進してくる。


「動きが素人!」

「ああ。そうだな。俺がバランスを崩すから、姉ちゃんが斬ってくれ」


 そうだ。フィアイーターは凄まじい力を持っているけれど、ティアラ自身は戦いの経験などない。実戦経験は俺の方があるし、樋口から鍛えられている。

 いざとなれば、姉ちゃんが助けてくれるし。セイバーと一緒なら、俺は負けない。


 フィアイーターに一瞬だけ怯んでいたのが嘘のように、俺は躊躇なく前に出られた。


 大切なのは基本に忠実であることだ。

 突進してくるティアラに対して、これを回避してすれ違いざまにハンガーのフックを引っ掛ける。魔法少女の服はヒラヒラが多くて、引っ掛けるには最適だ。

 少し、布が破れる音がした。そして自分の勢いと布の耐久力によってティアラはバランスを崩した。


 敵の力を利用してダメージを与える。樋口から教えられた通りだ。


「あっ……」

「隙だらけよ素人さん!」


 あっけらかんとした言い方と共に、倒れようとしているティアラにセイバーが剣を振る。

 愚かにも受け止めようとしたティアラの右の手のひらに刃が切り込み、手首のあたりまで引き裂いて止まった。


「いっ!? ああっ!? ぎ、ギエラっ!?」


 友達の言うことを聞いたために大怪我を負うことになったティアラは、その友に助けを求めるように視線を向けて。


「余所見をしない!」


 剣を振り抜いたセイバーに、腹を蹴られた。魔法少女の全力のキックにより、今度はティアラが宙を舞う番だった。


 彼女の親指は腕に、文字通り薄皮一枚で繋がっている状態。それでも彼女の腕からは一滴の血も流れず、ただただどす黒い闇が切り口から見えるだけ。

 あの血色の良さそうな顔の裏にも、血など流れていない。ただ、そういう風な外見が作られているだけだ。


「痛た……」

「キエラ!?」

「だ、大丈夫」


 キエラがなんとかライナーから逃れて、ティアラに駆け寄る。その動きは間違いなく友情を思わせるもので。


「ね、ねえキエラ! いいもの見つけた! ほら!」


 手を押さえながら立ち上がったティアラは、強がっている様子ながら、キエラにあるものを見るよう促した。


 倒れた手足のないマネキンに隠れるように、人間が倒れていた。


 女だ。逃げ遅れた客だろうか。頭に傷を負っていて、既に死んでいるようだ。

 年齢は二十代半ばくらい。愛奈と同じ程度。


 そしてキエラはハンターの、ティアラはライナーの格好をしていた。仮に足らないものがあるとするなら。


「ラフィオがキエラに目を向けなかったのは、魔法少女が三人揃ってないからじゃないかな」

「! そ、そうね! きっとそうよ! ティアラは天才ね! そうに決まってるわ! セイバー役を探してたんじゃない!」

「この人、どうかな」

「ええ! 蘇らせて、お願いしましょう! そうよ! それがいいわ!」

「させると思う!?」


 ライナーが真っ先に、阻止するべく動いた。けど、向こうの方が早かった。


「今はあなたたちに構ってる暇はないの! 魔法少女になるのが優先!」


 キエラたちの背面にあるのは壁。けどそこに、真っ黒な真円の穴が現れた。


 女の体を掴んで、キエラとティアラはそこに消えていく。そしてライナーが到達する前に穴は閉じた。

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