4-14.魔法少女のコスプレ
「なんの格好なんだろう」
「わかんないけど、モフモフじゃないよね!」
「それは見た目でわかるな!」
「フィアアアア!」
「おっと!?」
フィアイーターが力をこめて棚を殴ったものだから、金属製のそれがひしゃげてラフィオが乗れる状態ではなくなった。
ハンターが床の上の黒タイツの頭部を射抜いて殺して消滅させ、ラフィオがそいつの位置に着地。数メートルの距離でフィアイーターと対峙。棚で仕切られた通路だから。左右は塞がれてる形だ。敵が棚を登ってくることはあるだろうけど。
「イケメンが着れば格好いいんだろうな」
「あ、こういう格好、女の人がよくやるらしいよ!」
「そうなのか……? 人間の文化は奥深いなあ」
「女の人がやった方がイケメンに見えたりするらしいよ」
「それはなんとなくわかる!」
ハンターはフィアイーターと対面して、コアに当たればいいなと思いながら体のあちこちを射抜く。首。額。心臓。当たれば人間なら死ぬ箇所だけど、そこにコアはないらしい。
「むうー!」
「手足を射抜いて動きを止めろ! あと体の向きを変えろ!」
「なんで!?」
「フィー!」
「あ! わかった!」
後ろから黒タイツの声が聞こえたものだから、ラフィオはそっちに対面。またがってるハンターは前後を反転させて逆方向を向く形に。
ラフィオは黒タイツを前足で踏みつけて動きを止めながら、体重をかけて頭部を踏み潰す。黒タイツはこれで死んで消滅する。が、黒タイツは次々に出てくる。
「ああ。面倒だ……」
「ラフィオ! こいつ死なない! 足にはコアなさそう!」
「だろうな!」
ちらりと振り返れば。膝に十数本の矢を受けたフィアイーターが倒れているところだった。足止めにはなるな。格好いい王子様のズボンがボロボロだ。
このまま黒タイツを片付けてから、こいつをハリネズミみたいになるまで完膚なきまで矢を刺せば、いつかは殺せるかもしれない。天井の照明があるから矢が尽きることはなさそうだし。
と考えていたのだけど。
「はぁい! ラフィオ!」
「……は?」
フィアイーターから前方の黒タイツに視線を戻す途中、棚の上に視界が向いた。
そこに、見覚えがあるが見たくない光景が広がっていた。
敵は、しっかり見てほしいのだろう。黒タイツたちの動きが止まった。フィアイーターは、膝の矢を必死に抜こうとしているけれど。どうやらハンターもそれを阻止するどころではなかった。
「ラフィオ! 似合っているかしら、この格好!?」
「キエラ……その格好は……」
ハンターの格好をしたキエラと、ライナーの格好をしたティアラが棚の上に立っていた。魔法少女の衣装に完全に合わせている上に、ウィッグまで被って完全に似せていた。顔が知っている相手だから、何者なのかはすぐにわかったのだけど。
ラフィオのすぐ頭上に近い位置ということで、スカートの中のショーツが一瞬見えてしまって、ラフィオは一歩退いた。
「この格好、着るの時間がかかるのね。形が複雑だし、パーツが多いのよね」
「ウィッグっていうのも面倒だよね。初めてだから、どうすればいいのかわからなくて、時間かかっちゃった」
「でも、そのおかげでラフィオに完璧なコスプレを見せられたわ。どうかしらラフィオ? 似合ってるでしょ? そのガキより、わたしの方が可愛いでしょう?」
「わたしの方がかわいいもん!」
楽しそうに語るキエラに、ハンターは敵愾心を隠すことなく矢を放った。キエラはそれを難なく避ける。
「あなた……嫌い! 人間のくせにラフィオと仲良くして! いい!? 青い魔法少女にふさわしいのは、あなたじゃないの! わたしなの!」
「シャイニーハンターはわたしです! あとラフィオの恋人もわたしだから!」
「いや。僕に恋人はいない。今の所誰でもない」
「ラフィオ! こいつやっつけていい!?」
「それはいい。あと訊くまでもなく殺す勢いだろ」
キエラのしている格好も、察せられたその理由も、見事に乗っかって対抗意識を燃やしているハンターも、ラフィオの気力を削ぐには十分だった。
「ティアラ。なんでラフィオはわたしを見てくれないのかしら」
「んー。なんでだろ……わからない。こんなに綺麗な格好してるのに」
ハンターの矢を器用に避けながら、キエラとティアラは正気とは思えない会話をしている。
この店を襲って、コスプレ衣装を盗んで現れているのが自分のためだと確信できた。
「勘弁してくれ……」
「ねえラフィオ! 絶対、わたしの方がキエラより可愛いよね!?」
「あー。うん。それはそう。キエラは嫌いだし可愛くない。お前も恋人ではないけれど」
「やったー! やっぱりわたしたち、いいカップルだよね!」
「なんで都合の悪いところだけ聞こえないんだろうな」
「やっぱりあの女むかつくわ! やっちゃって! わたしも戦う!」
カップルであることは否定したけれど、キエラにとってはハンターとラフィオの関係は怒りを生むのに十分だったらしい。
膝の矢を抜き終わったフィアイーターがヨロヨロと立ち上がる。黒タイツどもも、ラフィオに向かってきていた。
さらにキエラとティアラも戦いに参加するって? あいつらがどれだけ強いかは知らないけど、ちょっと戦力差がありすぎないだろうか。
ラフィオが焦った瞬間に。
「おまたせ! 魔法少女シャイニーライナーです! ラフィオ! フィアイーターどこ!?」
ようやく味方がやってきた。自分の気苦労を少しは分かち合えるという意味でも、貴重な味方だ。
「えっ!? ちょっと悠馬! あれなに!? てかフィアイーターがコスプレしてる! あとティアラがわたしの格好してる!」
うん、まずはそこに驚いてくれるよな。




