4-2.模倣犯対策
「くっはー! やっぱ仕事終わりのビールは最高ね!」
「そういうの、仕事を頑張ってる人が言うものなんだけどな」
「頑張ってますー。仕事に向かない人間なのに、これだけやってるんだから頑張ってる内に入りますー!」
「開き直るな」
「それより樋口さん。悠馬に化けた泥棒の話の続きを!」
「公安を、都合よく話を切り上げる材料にしない。まったく……」
樋口もしっかりビール缶に口をつけながら説明の続きをする。
「犯人はレジの金十数万円と、いくつかの酒やたばこを盗んで逃走。今も行方は見つかってないわ。その後少しして、怪物も警報も本当は無かったと店員が気づいて通報したの」
「犯人はお酒好きなのねー」
「あなたと同じね」
「えへへー。それで、公安にも話が行ったってことねねー。まさか樋口さん。この男が悠馬本人だって思ってるわけじゃいわよね!? うちの子に限ってそんなことは!」
「ないから。静かにしなさい。犯人の身元は不明だけど、悠馬じゃないのは確かよ。ほら」
樋口がタブレットを操作すると、犯人たちの手足に合わせて白い線が表示された。犯人が体を動かすのに合わせて、線も動く。
「歩容認証で、悠馬はもちろんあなたたち全員が容疑から否定されているわ」
「ほよーにんしょー?」
「歩き方の特徴から人物を特定するシステムよ。この犯人とあなたたちは、歩き方が明らかに違う」
「ほよー。そんなシステムがあるんだ……」
愛奈は呑気な返事をしてるけど、樋口は俺たちの歩き方の個人情報も把握してるって当たり前のように言っているわけで。油断ならない相手なんだよな。まあいいんだけど。敵じゃないんだし。
「公安も把握してない、全く知らない何者かの犯行よ」
「つまり、俺たちには無関係の事件……ってわけにはいかないんだろ?」
「ええ。今後も模倣犯が出てくる可能性が高い。この犯人が再犯を繰り返すこともありえるでしょうね。大した額を盗めなかったから、今度はもっとうまくやろうって風にね」
「キャッシュレスの時代で、どこの店に行っても変わらないでしょうけどねー。てか、儲からないなら悪事はやめるってならないのかしら」
「馬鹿のくせに、まっとうなこと言うのね」
「まあねー……って! 樋口さん誰が馬鹿なのよ!?」
「あなたよ。まあ、言う事は正しいわ。十数万円の儲けに釣り合う悪事じゃない。けど、それが大金に思える人もいるのよ」
「けっ。高給取りの言う事は違うわね。ってか! 十数万って十分大金じゃない! それを一瞬で稼ぎやがってムカつくわね!!」
「姉ちゃんはどの立場なんだよ」
「悠馬の! というかわたしたちのフリして儲けた人間が許せない!」
「浅ましい人間性だなあ」
「犯罪をやってないだけ立派よ。立派な小市民。それでも、あなたたちは今回の件に対応しないといけない」
「対応?」
真面目な口調で俺に語りかけた。馬鹿のせいで話が進まないけれど、これが樋口の本題。
「魔法少女たちが犯罪に使われたと、警察のお偉いさんは事態を重く見ているわ。あと、一部の政治家も騒ぐでしょうね」
ここの行政は市長はじめとして、魔法少女を庇ってくれている。けど中央、首都ではそうはいかない。
警視庁所属の樋口の上司が気にしてるのだろうな。あとは国会議員とか官僚とかが。
離れた地域の出来事なのだし静観してくれればいいのに、国の重大懸念事項だと口を出したがるのだろう。それも表立ってではなく、自分の名前は出ないようにしながらだ。
「別に魔法少女の力が使われたわけじゃないんだし、いいでしょー?」
「良くはないのよ。真似する奴が出るから」
「わたしが悪いわけじゃないのに」
「それはそうだけど。力ある者には、やるべきことはあるのよ」
「めんどくさい……けど、なにか対策しろって言ってるんでしょ? 警察の上の人は。結局何すればいいの?」
「啓蒙動画を撮りなさい」
「よし悠馬任せた」
「おいこら」
「わたしには、そんな面倒なことはできません! それに! わたしはもう酔いました! よったのらー」
「お姉さん本当に駄目な大人ですよね。悠馬。夕飯できたよ。運ぶの手伝って」
「お姉さん言うなー」
「ねえラフィオ。動画撮るって。わたしたちも出る?」
「とりあえず、僕と悠馬だけで撮ろう。悠馬を装った犯行だしね。魔法少女のコスプレして犯罪やる馬鹿が出たら、その時は魔法少女が呼びかける動画を作ればいい」
「そんな馬鹿出るかな」
「出ないと思うけどね」
「ねえねえ。そういう話は後でしてよ。樋口さん、後で悠馬に要求を伝えておいてください! 今は夕食です! 誰か追加のお酒持ってきて!」
「酔っ払ってるんだろ? 今日はもう飲むな」
「えー? 酔っ払ったなんて言ったかにゃー?」
「言った。いただきます」
「あー! 悠馬が言う事聞いてくれない! 樋口さんどう思いますか!?」
「家庭内の問題を公安に持ち込まない。民事不介入よ」
「むー!」
結局、誰も取りに行かないから、愛奈は自分で冷蔵庫に行くこととなった。そして両手いっぱいに缶を抱えて戻ってきた。これは、今夜も悪酔いするな。




