アメちゃん
アメちゃんいらへん?
競うように立ち並ぶ高層ビルの横にある広場で
そう声をかけられた。
懐かしい、故郷の言葉が都会に疲れた心にしみて
思わず足が止まる。
声の主は高校生ほどの少年。
白いカッターシャツにジーンズという
どこかミス・マッチな服装をしている。
なんだか無性にアメちゃんが食べたくなり、おもわず
「いくらですか」
と尋ねると、その子はスッと手を差し出してきた。
戸惑う私に彼は
「握手してや。それがお代。」
と、蓮華の花のような笑顔でいった。
そっと、手を握ると
その笑顔はますます大きくなった。
「まいどあり。」
さっそく歩きながら、飴玉を取り出す。
白っぽい半透明の紙に両端をねじって包装してある。
そっと引っ張ると、中から琥珀色の飴玉が出てきた。
口の中に放り込む。
その時の味は、たとえようのないものだった。
この世の言葉でたとえたら、
穢れてしまうんじゃないかと思えるほどに。
涙が止まらなかった。
あの日から
帰りに、広場に立ち寄って
彼の店が出ていないか探した。
いつもいるわけじゃなかった。
私が落ち込んでいるとき。
悲しいとき。
さびしいとき。
傷ついているとき。
必ず彼は店を出していた。
はじめてアメちゃんを買ったときから
7年が過ぎた。
一週間後、私は名字が変わる。
永遠の愛を誓い合うのだ。
迷ったが、アメちゃんの彼にもその式の招待状を出した。
住所はわからないので
『駅前広場出店右から7番目』と書いて。
「なあ、アメちゃんいらへん?」
招待状を書いている私に
後ろから、婚約者が尋ねてくる。
プロポーズのとき、指輪を出すときのセリフも
これだった。
その指輪は白っぽい半透明の紙につつまれていたっけ。
「じゃあ、ひとつだけ。」
と、蓮華のような笑顔の彼にいった。