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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
四章 学園祭編
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二十六話 願いすらも


『その願い、叶えましょうか?姫』


その言葉、そしてその声に驚いた私、月乃玲明(メリア)は、声を投げかけた。


『ルト……王子……!』


私の声は、私が驚いたその度合いをうまく伝えられない音量でしか言葉を発せなかった。

だが、王子はそんな私に慈しむような目を向け、更にはこちら側に寄ってきた。


『なんで、来たのですか』


驚きの次に、私が発したのは、こんな時間に許可なく女性の部屋に入る非常識な行いをとがめる音。……普通、この言葉を聞いたらそうとらえるだろう。

ただ、私の大好きな人はその裏の意味までご丁寧にくみ取ってくれてしまったようだ。


『強がりなところは可愛らしいともおもいますが、今日はその辺にしてください』

『つ、強がりではありません。急に部屋まで入って来て、何なのですか!もう、帰ってください』


……本当は、どんな時よりも心臓がどくどく、ばくばくしていて嬉しいのに、口から出る言葉はかわいげのない言葉。


『それより姫、最初に聞いたことに答えてください』

『最初に聞いたこと……?』


首をかしげると、王子は真剣な目をこちらに向けて言い放った。


『その願いを、叶えましょうか?と、聞いたでしょう』


はっ、と私は自分が願ったことを思い返す。


ルト王子と一緒にいたい。


確かに、私はそう願ってしまったかもしれない。でも――


『あんなの……一時の戯言です。どうぞ忘れてください』


ここで、折れてしまったら、私が必死に張ってきた意地の意味が、あの時間が、無駄になってしまいそうで、王子の言葉に頷くことは出来なかった。


『それが、姫の返答ですか?』

『……えぇ』


もう、愛想を尽かして去るだろう。

それで……いいのだ。


王子の方から目を逸らしたその瞬間、手を、掴まれた。


『……!?帰ってください、といったでしょう!?』

『姫の返答がどうであれ、私は私の思った最善を選ばせていただきます』


そう、王子が言ったところで、茶色の光が舞い、ふわりふわりと体が軽くなった。


『何を……』

『寿命を延ばすことは出来ませんが、一時的に肉体負荷を減らすことのできる術なら存在します。

それが、この術』


私の冷たい言葉にも丁寧に答えながら、王子は術の発動を続けた。

丁寧には、答えてくれたが、その返答は私が聞きたかったこととは違う。


『何のために、こんなことをするのかが、聞きたかったのです!』


王子の真意が掴めないのと、そのせいで不安なのと、色々な感情がぐちゃぐちゃになった私は、叫ぶように言葉を発してしまった。


だが、そんな私にも、平静な態度を崩さないまま、王子は言葉を返した。


『姫には、今から攫われていただきますので』


* * *


私は、今軽くなった体で、夜の街の風を感じ取る。


『メリア。メリアはこっちの部屋』


軽い服装、いつもより崩した言葉で名前を呼ぶのは――


『ルト』


私を攫った、ルト王子だった。


『海まで辿り着くのには少し時間がかかるから。ゆっくり休んで』


なんてことのないように、王子は声をかけると自分の部屋に行こうと背を向ける。


『ルト!』

『……どうしたの?』


そんな王子の背に声をかけると不思議そうな顔で、こちらを振り向いた。


『計算したら、海までの資金、片道分しか……』


王子の思考が、全くわからないわけでもなくて、それが意味することは想像が、ついてしまった。


『大丈夫、気にしないで。――もう寝ないと。明日も早いんだから』


その笑みが、声音が、返事が、その想像を確かにしてしまった。


『………………っ』


何も、言うことは出来なかった。


……喜んでしまった自分もいて、そんな自分が怖くもなって、声が、出せなかった。


『おやすみ。メリア』


そんな、私の心境は知らずして、王子はコートの裾を翻し、さっと歩いていく。


待って、行かないで。

貴方には生きてほしい、私と一緒に()てほしい、こんなこと望んでない、叶えてくれて嬉しい。


本音と、建前と。


結局、私が絞り出した言葉は――


『……また、明日。ルト』


私といる結末がこようとも、違う道を歩く結末になろうとも、どちらもきっと、決まるのは明日。


どんな結末(みらい)になるか、わからないからこそ、その言葉しか、伝えられなかった。


* * *


『メリア、もう少しで海になるよ』


静かで、厳かな城とは違う、街の喧騒に紛れても、私の名前を呼ぶ声はしっかりと拾うことができた。


『……えぇ』


自分でも、無愛想な声だとは思った。でも、気にしていられる余裕もなかった。


だって、今から訪れる場所は、何かが変わる場所だ。


どうすれば……どうすればいいのだろう。

私は――


『メリア』


不意に、名前を呼ばれる。


『どうしたのです――』

『私は』


私に、向けた何かではなく、王子そのものの、何かを語るかのような主語に私は驚いた。――そして。


『――私は、姫と一緒に()ることが、一番幸せだよ』


王子は、自分のことを、はじめて語ってくれた。


『ルト……が?』

『あぁ』


私を先導していた足が、止まった。

目の前にあるのは、海。


『私の願いを、叶えてはくれませんか?メリア』


王子の……望み。


王子が、望むのなら。


私が、どうこういう余地などない。

私の、願いなど関係ない。


『一緒に、()ましょう。永遠に』


王子に、手を引かれて崖に立つ。


『愛しているよ、メリア』

『愛しています、ルト』


ふわりと、体が浮いた。そうして――















(メリア)は死んだ。


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