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花かんむりの眠る場所で  作者: 綾取 つむぎ
四章 学園祭編
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十九話 私を忘れる


「ほんっとうにお騒がせしました」


生徒会室の扉の前で、自分の頭と己の父の頭を下げさせた立花隼人を見ながら私、月乃玲明は少し前ならば自業自得だと言ったであろう立花隼人を心の中で若干憐れんでいた。


最近は慎ましやかに生活していたというのに、父が一人勝手に勘違いして先走り、過去のこと(黒歴史)を掘り返され、挙げ句後始末という名の謝罪がついてきてしまった立花隼人にはもう強く生きてくださいとしか言いようがない。


「……自分の子供が不当に扱われているのかと心配になり、先走ってしまいたくなるお父様の気持ちもわかるのでどうぞお二人とも顔を上げてください」


謝る二人に優しい言葉をかけた声は、少し意外だったがのあの声だった。


「……本当にすみません」

「申し訳なかった。お詫びの品は後日届けさせよう」


「失礼しました」といって静かに二人は部屋を出た。


「疲れ――」


た、と口に出そうとして、のあの方を見遣ると慈しむような、泣きそうな顔で親子の背の名残を見つめるのあを、みた。


のあのその感情一つ一つは慈しむ、だとか優しい、だとかプラスの暖かい感情にも見えたが、のあの表情の全てを見てみると、どうしてもその感情は「悲しい」という感情に見えた。


泣きそうな顔がそれを伝えてきたのか、はたまた他の何かがそれを訴えてきたのかは定かではないが、どうしてもそう感じ取ってしまった。


「のあ――」

「……!あぁ、れい。お疲れ様」


どうしたんですか、と聞こうとして名前を呼んだが、やはりのあはこちらに気づくなり表情を取り繕った。

それは、きっと私に触れてほしくないからで、私を少し遠くに置きたかったからだ。


「のあ……」


のあは何も語ってくれない。私に、触れさせてはくれない。


今までなら、それはのあの事情で私が踏み込むべき何かではないと割り切れていたそれも、自身の中にある幼稚で、拙い「愛」を出来るだけ返したいと思うようになってからは気にせずにはいられなくなってしまっていた。


でも、気にしてはいながらも、のあの触れてほしくないところに踏み込む勇気はない。


「あ!もう少ししたら一時半だから、その辺の運営手伝い回ってくれてる人に一言声かけて行こっか。

そろそろ風夜先輩達も誰か一人は帰ってくる頃だろうしね」


のあは、そう言うと茶器を一纏めにして生徒会室のドアの方まで向かった。

すぐに足を動かして、のあの横に並ぶのがいつもの私だったのに、今日は上手く足が動かなかった。


「れい?」

「今行きます」


ここで、「ちょっと待ってください」とでもいって、ちゃんと話し合うことが……のあを苦しめる何かを聞き出すことができる私だったら、良かったのに。


(……弱いなぁ。私は)


強欲で、欲張りで、でもそれを叶えられるだけの勇気も力も持たない臆病で弱い自分が、月乃玲明が……私は無性に憎たらしい。


もういっそのこと、誰かが笑い飛ばしてくれたら少しは楽だったかもしれない。


* * *


「それじゃあ、出演する生徒は支度の方を、舞台照明の方は――」


大ホールの中にある一角の控え室で、最終確認を終えた私たちニ年一組は全体の行動を管理する係の生徒の呼びかけで散り散りになった。


「……れい大丈夫そう?」


それぞれが自分の支度へと移ったのを見計らって、のあがこちらに来てくれた。

ただ、何というか……今は素直に安心できなかった。


「大、丈夫です」

「見た感じ大丈夫じゃないから、れいの自己申告は無視させてもらうね?」


やっぱりのあは、私の微かな違いでも何かを感じ取ってしまうのか、私の「大丈夫」という申告はきらきらした笑顔と言葉でバッサリ切ってきた。


「すみませーん!!ちょっとれいが人酔いしたそうなので一瞬外に連れ出したいのですが何分までなら余裕ありますか?」

「あ……まだ、十分以内に帰って来ていただければ大丈夫です!ただ出来るだけ早めによろしくお願いします」

「はーい!ありがとうございます」


……そして、流れるように、さらっと席を外す許可を取ると、控え室の外へと私を連行した。

廊下を歩き、普段は使うことがないであろう避難用の扉を開けると、外へ出た。


「……どうしたの?足が痛いというよりかは心理的な方に見えたんだけど……」

「何でもないですよ」

「ほら出た、れいお得意の隠し事。

その辺の人は騙せても僕には通用しないっていい加減覚えた方がいいですよ?月乃玲明さん」


……なんで、自分は何も語ってはくれないのに、私の隠し事ばかり暴こうとするのだろう。本当に狡い。

でも、のあが私の隠し事を暴くのなら私ものあの隠し事を暴きにいってしまえばいい。


でも、きっとそれが出来ないのは無理に暴きにいって、のあにどう思われるのかが、心配だったり所詮他人のことだからと一線引いている部分があったり……。


結局、のあも狡くて私も狡い。


そう結論はついた。……ついたのだから、もうこれ以上深く考えず……なんなら、劇をするこの一瞬だけでも忘れておけたらよかったのに、私の頭は切り替えられそうにない。今、のあと接してしまったことで、尚更に。


「なんでのあは、気づいちゃうんでしょうね」


何に悩んでいるのかは伝えずに、文句も含めたその言葉をのあに突き返す。


「結局話すつもりはないんだね」

「……まぁ」


のあのことで悩んでいるだなんて、とてもじゃないけれど言えたものではない。濁して返したが、結局詰め寄られてしまうだろうか……と、覚悟したが、のあから発せられた言葉は意外なものだった。


「――わかった」


あっさりと退いたのだ。


「……珍しいですね」


ついつい口からそう溢れ落ちると、苦笑しながら返された。


「聞き出すのを諦めるわけじゃないんだけど、今じゃないと思っただけ」


その言葉に、八つ当たりのようなものだとはわかっていながらも少しだけむっとしてしまった。

のあが、色々ちゃんと話してくれれば悩む必要もないのにわざわざ避けるから……。


「今もどうせもやもやしてて、色々悩んで、とても劇に集中できる状態じゃないでしょ?」


思考の沼に沈む最中、のあからかけられた言葉で現実に引き戻される。改めてのあに言われて、すうぅっと青ざめる。


どうしよう。私、劇の公演に全く集中出来ていない。


このままじゃ、何か、間違えるかも、失敗するかも――


「だからね。今は一旦、月乃玲明を忘れよう?」


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